救出作戦2
もう何回目になるだろう、ここ数日まともに寝ていないためか、リアは勤務中に呆けることが多くなっていた。
レイス王の死からひと月近くが経ち、ようやく王都の復興も軌道にのった。
しかし問題は何一つ解決してはいない、むしろ1か月以上の足止めを受けただけである。軍備の不足、盗賊、魔法兵器、そして王都壊滅、まだまだ問題は山積みになっているため昼は肉体労働、夕刻は会議を毎日のようにくりかえしている。
それでも隣国や周辺勢力から侵略されないのは皮肉な話、元凶であるレイス王が優れた国交によって友好な関係を築いたからだった。
「団長さん、おーい、聞こえてるかい?」
同僚の騎士が顔の前で手を振ってみる。視界には入っているようだが脳に刺激として伝わらないためなのか反応しない。
応答するまで降り続ける同僚の手が鼻に当たったところで新任団長のリアは意識を取り戻す。
「!!、、、、、寝てた?」
恥ずかしさを気に申し訳なさそうにリアが口を開く
「寝てはいなかったよ!寝てたほうがよかったよ、、、疲れてるなら休みなさい、心配でこっちが変になりそう」
「いや、団長として休みを貰うわけには、それに今から重要な会議があるから」
「ハア、まじめなことですな。いい、頑張ることと無理をすることは違うからね!」
「うん、わかってる。じゃあ私は会議に行ってきますのでよろしく」
ふらふらと立ち上がるリアに同僚はあきれ果てる
「絶対、わかってないでしょ!」
*
クリストフはヴァルミアの優秀な文官である。彼は人の技量や才覚を見抜くことに優れており、その観察眼をかわれて文官の一人に選ばれた。そんな彼だからこそ今日のような、この国を代表する偉人たちが参加している会議では人一倍緊張した空気を感じるのであった
今回の件で貴族派閥は大きく揺らいだ。まず王族派への不満が大幅に増加したことで貴族派が政治に介入できるようになった。
さらに、王都復興にかかる費用の4割を貴族の負担としたために、王族派だった貴族も何人か貴族派に加担することとなってしまった。
その結果がこれである。互いの意見に反論を重ね続けて、半日もあれば決定するはずの議題に2日もかかっている。
(ああ、早く終わってくれ。この空気には慣れないんだ。座っているだけでも心臓がはちきれそうだ。それに、、、)
ちらっと横を見ると死にかけの女騎士と目が合う、いや目が合うとは違うだろう、なぜなら女騎士の目には何も映っていないのだから。目は充血し、クマができている。時々独り言をつぶやいているがもはや人語を話してはいない
(ひ、疲労が体から漏れ出している、こっちにうつってきそうなくらいだ。たしか新任の騎士団長だったな、寝る間もないほどの労働をさせられているのか、望んでやっているのか)
昼間に城下で働いていたとすれば、ここまでこれたことですらすごい。もう焦点も合わないくらいになっている。会議の内容が右から左へと耳を通り抜けているみたいで見ていられない。
(ああこの感じ、数年前に祖母の看病をしていた時のものだ。衰弱してゆく祖母の様子に耐えることができなかった)
いたたまれない思いに包まれるが何もできることはない、せめて会議を早く終わらせることができれば彼女に休息を与えられるだろう、人の命がかかるとなれば緊張などとは言ってられない。
観察眼だけでは最高位の文官に就くことはできないない、もともと回転の早い頭脳をフルに使ってクリストフはより効率的で小競り合いの起きない最善案を見つけ出す。
「私から提案が・・・」
*
クリストフの発言によってようやく話が進み、長かった会議もとうとう終わりを迎えようとしていた。
(よし、何とか貴族たちは説得できた。だがこっちもヤバイぞ、破裂寸前だ)
気にかけていた女騎士の容体がすでに限界へ達している。会議は自分の案が可決されておしまいになる。そうなればミッション完了だ。
(あとは決議をするだけだ、、、ん?決議、、、あ)
「ではクリストフ殿の意見に賛成のものは挙手を、」
クリストフの優秀過ぎる説得によってその場の全員が賛成に手を挙げる。ただ一人を除いて、
「ん?リア団長はこの意見に不満があるということかね?」
「・・・・・・・・」
反応はない
「・・・何とか言ったらどうかね。・・・おい!」
貴族の1人が限界寸前の女騎士を刺激する。
「ちょ、それ以上は」
クリストフが間に入るが時すでに遅し
「あ、」
そう言って女騎士がまえのめりに倒れる。倒れ伏した床にはすでに血だまりができており、室内がパニックとなる。
救護班が急いで女騎士を連れて行くまで誰一人として倒れた理由に気づくことはなかった。
「誰かアイツに休息という仕事をあたえてやれよ」
その後、満場一致で労働時間の削減と関連する法律の見直しが行われたのだった。
*
城の一室では王族派による会議の続きが行われていた。先の会議ほど大人数ではない、必要最低限の人員でおこなわれているまさに秘密の会議であった。
「さて、盗賊を手引きしていた貴族はあの中にいたかな」
「滅多なことを言うでない、あくまで可能性だ」
「そっちはともかく先日明らかになったアジトの方はいかがいたしますか?小隊を組んで偵察に行かせるということも今ならできますよ」
「それは武装騎士団に任せよう、フロドルに連絡しておいてくれ」
「わかりました、それとスワイオール殿がすでにアジトに向かわれたようで、黒曜馬が王都より出ています」
「・・・老人め、何が目的だ?まずいな黒曜馬ならすでに到着しているかもしれん、まさか盗賊と繋がっているのか?」
「いや、ならわざわざ足のつく高級馬を使おうとはしないか。ああ、余計なことをしてくれる。それもフロドルに伝えておけ」
国王はスワイオールの不可解な行動に頭を悩ませる
「一応だがリア団長にも伝えておいてくれ、まぁ奴はしばらくは動けないだろうが、あと彼女には私から言っておく」
この場にいるものの中で彼女が誰なのか知っているのは王だけだった。極秘中の極秘人物らしく王の右手として公にできないこの国の裏を管理しているらしい。
最近になってよく王の口から彼女の話が出るようになったが、どうやら以前から存在していたまさに王の切り札である。
「盗賊めこれ以上好き勝手はさせんぞ」
王はかつてないほどに闘志を滾らせていた。そのまるで自ら戦場へ赴かんとる勢いにつられてその場の配下たちも命を懸ける覚悟をしたのだった。
この作品を読んでくださった方ありがとうございます。作者のカワノタミです。
次回は話が大きく動くような内容になると思いますのでぜひ次話にも目を通してください。




