救出作戦1
ふと気がつけばウィンは見覚えのある場所に立っていた。辺りを見回すと獣人ではなくウィンと同じ種の人間がいる。
目の前の巨大な門とそれをくぐっていく商人、兵士、騎士を見て自分がヴァルミアの城下入り口にいることを察する。ウィンが先ほどまでいた獣人の町とは違い人々に荒々しさが見える。
ひと月前の傷跡がまだ残っていることもあるだろうが最もの理由はそもそも住む世界が違うからだろう。
スワイオールの所持する魔法書は「世界を繋ぐ史書」と呼ばれ、全く別の歴史を進んだ世界同士を文字通り繋ぎ合わせる力を持つ。無論、繋がれた世界は互いに干渉することができる。
現在、ウィンが生まれた世界はある世界と繋がっている。それは、人間が遥か昔に生存競争に敗れ、進化を遂げた獣人たちが支配的な立場にある世界である。
しかし、あの世界の住人が決して野蛮ではないことを、この数日間を向こうの世界で過ごしたウィンは知っている。
逆にこちらの世界が平和とは程遠いものであることは目前で口喧嘩をしている大人を見ていればわかることだ。
「まぁ、俺はこれぐらいの方が好きだけどな」
人ごみを見てウィンはにへらと笑う
「何をぶつぶつ言うとるのじゃ、出発するぞ」
横にいるスワイオールに声をかけられて我に帰る。
「ああ、どこに向かうんだっけか?」
あの老人のため息ほど聞くに耐えないものはない、ウィンが自分が質問したことを少し後悔ほど呆れ果てた顔をされた。
「ここから南に80里ほど進めば岩山が見える。その麓に盗賊のアジトがあると昨日言うたはずじゃて。75里までは馬車で、あとは歩いていくつもりじゃ」
「80里もあるのか!?、、、1日じゃ着かねぇよ」
「普通の馬ならな、だがコイツなら半日で着くことができる」
そう言ってスワイオールが連れてきたのは4匹の黒馬だった。
普通の馬とは違いその図体は盛り上がった筋肉によってデカく、長い距離を走る強靭な身体を作り上げている。
荒い鼻息を鳴らす黒馬をスワイオールがなだめる。その様子を見ながらウィンは納得のいったような顔をした。
「、、、黒耀種か、なるほど国で一番速い馬に乗るってわけだ」
「早く荷物を乗せろ、時間は早い方がいい」
スワイオールに言われすぐに支度にかかる。たしかに早い方がいい、こうしている間にも攫われた人たちは苦しい思いをしているかもしれない、そう考えるとグダグダとはしていられない気持ちになる。
ウィンは焦る気持ちを抑えつつ慎重に荷物を運ぶ
「ん?こんな荷物あったっけな?、、、まぁいいかこれで最後だな」
荷物を乗せ終え、ウィンが馬車に乗ったことを確認したスワイオールは馬を走らせようとする。馬が力いっぱいに馬を引くためウィンはバランスを崩して頭をうつ
「いてぇっ!」
「しっかりつかまっとれよ!飛ばしていくぞ」
馬車はさらに加速していく、後ろを振り返れば王都がもう遠くに見えた。馬車は平野を風のように走り抜けていく、平野の魔物は馬車に気づくことはなく気づいたとしても追いつくことはできない。
「ははっ、こりゃぁすげえ!はえぇ!」
ウィンは初めて味わう心地に胸躍らせはしゃいだ。
*
黒耀馬は人間が移動や運送業に使用する生き物の中でもトップクラスのスピードを持つ馬である。
普段は貴重な資財として扱われているため、遠方への緊急報告など以外に使用の許可が下りることはない。
しかし、一度走らせれば最高速度は時速90キロを超え、荒れた足場でも決して転ぶことのない無敵の乗り物となる。
そんな名馬に馬車をひかせているウィンは少し浮かれ気分になっている。正直、景色は速すぎて見ていられない、ただこの人間の足では味わえない風を身に浴びるのは最高だった。
「じいさん、どうやってこんなすげぇもん手に入れたんだよ?」
スワイオールは自慢気に答える
「わしには貴族との繋がりがあるんじゃよ、それなりの援助がもらえるほどの縁がな」
そんな話は聞いたことがなかった。というかウィンはスワイオールについてほとんどのことを知らない、知っているのは王国の重要人物の一人ということ、謎の書物を持っていることだけである。
「なぁ、あの本は一体なんなんだ?どうして別世界なんかが存在しているんだよ?」
ふとその書物の質問をすると、老人の表情が少し変化したように見えた。
「それは、また後で話そう。それよりも、アジトに関する情報を少し伝えておこうか」
話をそらされてしまったがウィンにとっては賊の情報が最優先であるため、真剣な表情になる。
「今回目指す場所は収容所、盗賊はそこで捕らえた人を管理している。本拠地はまた別の場所にあるそうじゃ、だから幹部の一人が収容所の管理を任されているのじゃ」
「幹部の情報はないのか?」
「・・・残念じゃが何もないのぉ。それが一番厄介なことじゃが、今は幹部のやつがいない絶好の機会なんじゃよ。だから今日のうちにたどり着いておきたいところじゃな」
「で、収容所に潜入してからはどうするんだよ。攫われた人はたくさんいるんだ、バレずに抜け出すのは無理だぜ」
「問題ない、わしらにはさっき言った本があるではないか。大人数を運ぶこともできる。」
スワイオールの言う通りあの本に人数制限はなく、必要となる魔力も足りている。しかしまだ問題は多い
「相手は何人いるかわからないのか?情報が少なすぎるだろ。まさか、場所がわかっただけで乗り込もうとか考えてんじゃないだろうな」
「馬鹿者!わしを誰だと思っとる!ちゃんと策もあるわ!」
スワイオールは怒鳴った後に深呼吸をして息を整えた
「そもそも、盗賊と正面からぶつかる必要はない。目的は救出じゃろ、最小限の戦闘ですむに越したことはない。」
「・・・じゃあどうするんだよ」
「それもまた後にしておこう、まだ目的地は先、今は気を休めるべきじゃ」
そのまま前を向いて話を聞こうとしないスワイオールを見てウィンも質問をやめた。
「なんなんだこのジジイ、考えてみればこいつが盗賊のアジトに行く理由がよく分からん。何か裏がありそうだな」
考えても仕方がないことは分かっている。しかし、心のどこかでこの老人を信じきれない自分がいるのをウィンは感じていた。
読んでくださった方ありがとうございます。作者のカワノタミです。現在この作品は迷走しております。よく読んでみると (よく読まなくてもわかります) 登場人物の精神が不安定だったり思考がまとまってない描写があるのです。そんな作品ですがどうぞやさしい気持ちで次話も読んでください




