変動
心地よい風が吹く丘の上でウィンは座り込んで何も考えずに遠くに見える山々をただ眺めていた。
あの騒動からすでに1ヶ月が経とうとしていたが王国は未だに犯人のしっぽを捕まえることが出来ずにいる。
老人スワイオールの誘いにのったはいいがウィン自身に情報を得る手段はなく、週に一度ある王国の会議でスワイオールが聞いてくる話だけが頼りであったため王国の調査に進展がなければウィンも何もできはしなかった。
「ああ、ここは随分と平和だな」
ウィンはあくびをした後にぼそっと呟いてまた遠くを眺める。時間が経つにつれて犯人の足跡が消えていくのを実感し、焦りを通り越して消失感に呑まれていた。あるいはこの世界の雰囲気がそうさせているのかもしれない。
「ウィンさーん、スワイオールさんが帰ってきたよ!」
一握りの希望が帰還したことを伝えにきたのは獣人族の少女だった。彼女はウィンが世話になっている町の長の娘であるためウィンと話をすることがよくあるのだ。そのためある程度の伝言役を任されているらしく、彼女自身もそれを満更でもなく思っている。
「ありがとうソーニャ、すぐ行くよ」
ウィンは立ち上がり歩き出す。今日こそは何らかの手がかりがあることに期待して。ソーニャという獣人の少女は尻尾を振ってウィンにかけよる。
(それにしても、こいつめっちゃ可愛いな!獣人なんて毛むくじゃらの動物だと思ってたが全然尻尾ついた人間だぜ、寧ろコッチの方がいいな)
獣人といっても一括りにすることはできない、種族それぞれに文化や習慣がある。ソーニャはシルヴァフォクスと呼ばれる獣人族である。名前の通りに髪の毛が銀髪なのが特徴で、身体能力は獣以上、子供であっても侮ることは絶対にできない、まぁこの世界であればそんなことは関係ないのだが
(ああ、尻尾の毛並みからして触ると気持ちいいんだろうなぁ)
そんな下心丸出しで見ているとそれを察したかのようにソーニャが振り向く
「どうかしたんですか?」
「いや・・・可愛らしいなと思ってさ」
半分くらいは口説きを含んで言ってみる
「は、恥ずかしいけど・・・嬉しいです」
赤らめた顔を尻尾で隠す。ソーニャの少し照れくさそうな様子がまた一段と彼女を可愛らしくみせる。
「あ、あの、ウィンさんは、普通だと思います。5段階評価だと3.5強ぐらいの見た目です」
ウィンは渋い顔をする
「・・・それは褒めてるつもりかい?」
どういうつもりで言ったのかがわからずついつい突っ込んでしまう。
「うーん何でしょう、わかりません」
ウィンはまだ渋い顔をしている。
獣人との文化の違いなのだろうかと違和感を覚えながらも黙っているが、ここら辺の人たちはときどき変なことを言う、それはまるで自分の感情を理解できないとする様子であった。
「まぁいいよ、さあ行こう」
ウィンはまだ異文化に慣れていない様子を見せる
(そんなことは気にしても仕方がない、それよりも優先してやるべきことはある)
スワイオールが吉報を持って帰ってくることに期待しながらもその足取りは非常に重たく感じるものだった。それを見ているかのように丘に吹く穏やかな風が2人を町へと送り出していった。
町に戻ったウィンは警備の敷かれた部屋に呼び出された。
この部屋には関係者以外は立ち入ることはできない、一切の情報がこの世界に干渉してはいけないのだ。そのため警備も事情はほとんど知らない。
しかし、警備も別に他の人たちと違った様子をみせることなく、部屋の前まで来たウィンに笑顔で挨拶をしてくる。
(もう少し疑念や警戒心を持ったほうがいいんじゃないかな、)
余計なお世話であるため口には出さないが、部屋に部外者が入ってこないか心配してしまう。
部屋に入ると中央のテーブルでスワイオールが待っていた。3日ぶりぐらいに会うがこれといって変わった様子も、朗報を持って帰ったような顔つきでもなく内心で肩を落とした。
「2、3日ぶりじゃが変わりがないようで、元気にしとったか?」
スワイオールから会話が切り出された。
「あんたには変わりがあって欲しかったがな、」
ウィンはため息混じりに皮肉を言う
「ハッハッハ!なんじゃ、今回も成果なしでワシが帰ってきたと思っとるのか!」
「なにっ!じゃあまさか、」
スワイオールの言葉によりほんの一瞬で落胆から期待の顔に変わったウィンを見てくつくつとスワイオールは笑う
「ああそうじゃ、・・・誰もおらんな?」
二人で辺りを見回し警戒するが特に気配はない
「確かな情報じゃ・・・例の件でさらわれた人々は盗賊の根城に収監されとる。予想通り、奴隷帝国との商売品にされとるらしい、そしてその根城の場所が判明したのじゃ!騎士団の奴らが見つけた。南の岩石地帯、奴らはそこにおる。もちろん民もじゃ。」
「・・・・・」
待ちわびた、この時を待っていた。その気持ちがウィンの顔ににじみ出ているのをスワイオールは確認する。
「明日の朝にここを出るぞ、そこから丸一日かけてアジトを目指す。準備しとけよ」
「・・・当たり前だ」
ウィンは拳をぎゅっと握りしめて待ちわびた様子で部屋を後にする。警備には目もくれず外に向かい立ち止まった
「ついに来た、すでに一月経っちまった。頼むからまだ無事でいてくれよ。絶対助けてやるからな」
決意を胸に遠くを見つめるウィンの目には景色ではなくひとりの少女の姿が映っている。人を助けたいとするその意思は誰よりも固く決して砕けることはない。それがウィンの強さであり、前に進む原動力となっていた。
1人、部屋に残ったスワイオールは部屋の天井を見上げていた。
かつて同じ人助けの道を歩んだ者の末路を知っている。この先に待ち受ける様々な試練が青年を変えてしまいそうでスワイオールは一抹の不安を抱いた。
「やはり、あのことを言うべきか。小僧はなんというだろうか、いや考えるまでもないな」
苦笑いを浮かべながらスワイオールも部屋を出て行った。
*
・・・・・
「わぷっ!」
その銀髪の少女は部屋の中にいた。最初からいた。誰にも気づかれることなく椅子に化けて、
「なんの話をしてたんだろう?南の岩石地帯?でもなんか楽しそうな話だったなー。フフフッ、私も混ざりたかったなー」
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