市民トーク1
「お兄さん、これはいくらするの?」
高貴な格好をした女は赤い果実を指さしてたずねた。
「えっ、あー、銅貨4枚です。」
お兄さんと呼ばれた青年は売れ行きの良くない商売に退屈していたところを唐突に声を掛けられたためか、半分死んだような声で返事をした。
「しっかりしなさいよ、特に今はね。商売は勢いも大切でしょう?そんな情けない顔してると客は来ないわよ」
「あ、はい、」
説教じみたことを言われついつい下手にでてしまったためさらに彼女のターンが続く、
「もっと声はって‼ ・・・それで、これ2つ頂けるかしら?」
いくらでもやるから早く帰れ!
と心の中で思いながら青年は営業スマイルで、先ほど値段を聞かれた品を渡した。
「ん、ありがと、また来るわ。」
とどめの一言を言われてつい顔が引きつってしまったが、どうやら気づかれてはいなかったようで彼女は向こうへと歩いて行ってしまった。
「なんなんだよアイツ、」
そう口にしてみるが、青年は別に彼女のことを知らないわけではない、むしろ知らない方がおかしいくらいの有名人である。
さっきもまさか自分の店に彼女が来るとは思わなかったから対応に困ったのだ。
ちなみに店といっても月に数回、城下町で行われる定期市の外店であり青年は本来、田舎で作物を育てるいわば農民である。
今の時代、商人を中継するよりも自分で売ったほうが儲けがいいのだ。
だから毎月ここで作物を売っているわけだが、なぜかいつもより人が来ないのである。
「オイ、」
また不意に声を掛けられる
「オイ、にいちゃん、ずいぶんと言われたな!まあ仕方ねえさ、今この国はちょっとまずいことになってるからな、お偉いさんもピりついてんのよ」
となりの店のオヤジは青年の知人である。どうやらこの城下に住んでいるらしく、この国の情報をよく人に話すのだが、その真実性は不確かなものが多い。要するに知ったかぶりである。
「なにかあったのか?田舎者だから知らないことが多くてよ」
青年は一応どんな話題かきいてみることにした
「田舎者でも知らないほうがおかしいぜ、こんな大ニュースはな」
店主のオヤジは珍しそうにこっちを見てくる。青年にはそれがじれったく思えた。
「もったいづけるなよ。」
「いいか、その耳かっぽじってよく聞けよ、一度しか言わねえぞ、あんまり人に話すことじゃねえからな。」
そして口にした言葉はあまりにも衝撃的なことだった。
「・・・。元国王様がなくなったんだよ。」