決断
目を開けると天井が見えた。背中に柔らかい感触がしてウィンは自分がベッドに寝転んでいることを理解する。首を傾けて辺りを見回すと周りには何人もの怪我人が同じようにベッドに横たわっていた。
「あ、起きられたみたいですね。2日も意識が戻らないので心配していたんですよ」
医療班と思われる女が話しかけてきたが、いまだに状況がつかめない。
「あれ、俺なにしてたんだっけ?」
「街中に倒れていたところを騎士団の方が運んできてくれたんですよ、瓦礫の下敷きになる前でよかったです」
だんだんと記憶が戻ってくる。吹き飛ぶ人々、謎の男、不思議な力、断片的なものがうかびそしてつながる。
「ああ、思い出した」
自分はこの災害の元凶をやっつけてぶっ倒れたのだ。その後はいったいどうなったのだろうか?
「あの、巨人は?」
女に質問する
「安心してください、騎士団の皆様が倒してくれましたよ」
「・・・そうか、よかった」
ウィンが安堵していると向こうの方からダグラス夫妻がやってきた。どうやら被害は少なく擦り傷程度のケガですんだようだった
「おーい、無事だったか?ヒドい目にあったもんだお前さんミーナと一緒に中央の方にいたろ?よく生きてたな、ミーナはどうしたんだ?」
そう聞かれてウィンは下を向いた。衝撃波に飛ばされた後に彼女がどこにいるかは全くわからなかったと正直に2人に言った。二人は絶句した
「・・・ああなんてことだ。早く見つけなくちゃ、今ごろ1人で泣いているかもしれない」
ウィンは混乱する2人を見て自分を不甲斐なく思った
「申し訳ない、俺のせいでこんなことになってしまった」
「お前さんのせいじゃないさ、遺体も見つかってないみたいだからまだどこかで助けを待っているはずだ。もしかしたら別の場所に連れてこられてるかもしれない。とにかく俺たちはあの子を探してくる。お前さん、無理はするなよ」
そう言って2人とも行ってしまった。ウィンは唇を噛み締めて下を向いたままだった。
ウィンの意識が回復して数十分後、ウィンは医療棟の窓を乗り越えて外に出ていた。なんとなく外の空気を吸おうと思っただけだったが嫌に冷たく感じた。
「なにをしとんの?」
唐突に横から声をかけられてウィンは驚く、振り向けばそこそこ背の低い老人が窓枠に座っていた。
「お前さん、なにをしとんの?」
もう一度聞かれる
「なにもしてない、今俺にできることはなにもないさ」
娘がいなくなって絶望する両親の顔が頭から離れない、だがこんな状況で何かしてやることもできない、彼らは優しいためミーナをたすけられなかった自分を責めることなどしなかったがそれが逆に辛かった。
「何もできない、そう決めつけとるだけじゃろ?」
老人の言葉にウィンは固まる。ふっ、とついつい笑ってしまう
「・・・たしかにそうかもな。絶対に無理なんて努力しない奴の言い訳だ。人に説教しておいて情けないことを言っちまった」
老人が笑う
「ワハハハ、お主なかなか前向きな奴じゃな。・・・なんじゃ?」
ウィンが老人の顔をじっと見つめているため何か付いているのかと思う
「爺さん、俺はあんたにどこかであった気がするんだが」
「ほう、なぜそう思う?」
「懐かしいというか、なんか、なんだろう」
「ワシはお前のことなんか全く知らん、今日初めてあったわ」
老人は何がおかしいのか笑っている
「そうか、じゃあんたに似た別人なんだろうな。すまない忘れてくれ、じゃあな」
そう言って医療棟の中に戻ろうとするウィンを老人の一言が引き止める
「救える命を救いたいか?」
「・・・何?」
老人はニヤりと笑う
「これは選択だ。決断だ。救えたかもしれない命の話ではない、お前の選択で救える命の話だ。問おう、ワシと共に来るか?」
突然の話に困惑する
「確実に命を救えるだと?そんな夢のような話があるわけないだろ。騎士のような強者でさえ取りこぼすんだぞ、ましてや俺みたいな農民には絶対に不可能だ」
「確かに夢のような話じゃ、じゃがお主の場合だけその理想は現実となる!」
「・・・どういうことだよ」
「それはまだ教えられんのぉ、今お前がすべきことはワシのもとに来るかどうかという『決断』じゃよ。話はその後じゃ、まぁ教えずに終わることになるかもしれんがな」
ウィンは悩んでいた。この爺さんが言っていることが本当ならば自分には人を救うだけの力があるということだ。
それを使うことなく農民のまま自分だけが平和に暮らす事もできる。ただ目の前に命の危険があれば救いたいと思っているだけで、わざわざ知らない危険に足を踏み入れるつもりはなかった。
「今すぐとは言わんよ。先代の葬式の日、夕刻に王都の南門まで来れば、それを答えとするぞ。ではさらばじゃ!」
そう言い残してどこかへ消えていった老人を見てウィンは呟いた
「妙な爺さんだな、でもやっぱあったことある気がするんだよな」
記憶をたどるがやはり思い出せないためそのまま医療棟に向かうことにした。戻ってみるとベッドの近くにはリアとダグラス夫妻がいた。奥さんの方は泣いている。ウィンはため息をついて2人の元へ向かった
「聖騎士さんどうかしたのか?」
「娘さんのことなのだけどね、おそらくまだ生きているわ」
ウィンにとって意外な答えだった。じゃあなんで奥さんは悲しそうに泣いているのかと疑問を抱いた
「・・・でもどうやら盗賊に連れ去られたらしくて、身元が確認できない遺体はなかったから行方不明者は皆捕まってしまったと思うの。あんまり言えないことだけど確かな情報よ」
「そうか、でもまだ助けることができるんだな」
ウィンは拳を固く握る
「ええ、私たち騎士団に任せて・・・ちょっと、聞いてる?」
ウィンの耳に忠告は届いていなかった
「あなたまさか自分でなんとかしようと思ってるんじゃないでしょうね?確かに恩はあるけどそれとこれは別、相手は1人じゃない。あなた1人じゃ痛い目を見るだけよ」
リアは余計なことをしないよう釘をさす
「ああ、何も変なことはしないさ。・・・1・人・で・は・な。」
ウィンの中で先ほどの老人の質問に対する答えが今決まった。
「そう、それならいいんだけど。くれぐれも変な気は起こさないでよね」
聖騎士の忠告も虚しくその後ウィンは大きな戦いの嵐に自らの身を投げるのだった。
*****
次の日、先代レイス王の葬儀と先日の犠牲者の弔いが行われた。皆が涙を流している中、ウィンはレイス王の遺灰を見つめていた。
「あなたのおかげで私は今ここにいます。私もあなたのように目の前の命を救える人間になることをあ・の・日・に誓いました。どうか見ていてください」
一礼をしてそのまま南門に向かった。言葉通り南門にはあの老人が立っていて、ウィンを見つけるとニヤリと笑った
「来たか、これがおぬしの選択じゃな?もう後戻りはできんぞ」
「分かってる。俺は先代に憧れているが別に先代ならこうするだろうからというわけじゃない。決断は自分の意志だ。助けたい人が、助けなきゃいけない人がいる」
その目には決意がみなぎっている
「いいじゃろう、ワシの名はスワイオール、かつてレイス王とともに世界の果てを冒険した男じゃ。そのワシが直々に許可してやろう」
スワイオールが一冊の本のようなものをとり出すと勝手にページがめくれて本が輝きだす。2人は抗うことなく光に吸い込まれていく、
気がつけば奇妙な街の中に立っていた周りには大勢の人が、いや人ではないウィンの知らない種族もいる。
こんなことがあるのか、夢ではないかと思ってしまう。驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。彼らはウィンを囲むように立っており真ん中にいたスワイオールが両手を広げてその名を口にする
「あらためて歓迎するぞウィンよ、ここはばかげた理想が叶った世界。名を『アヴリオン・イストリア』という」




