希望は遅れてやってくる 3
ウィンがキラーウェに会う十数分前のこと、
そこにあったのはボロボロな人の形をした肉塊であった。肉塊には何も分からなかった。
(、、、??何か音がする、何か匂う、何かが光ってる、、?)
肉塊は徐々にかつての姿に戻っていた。
(あれ?、何か見えるけど動けない、喋れない、なんでだ?)
ウィンには何が起きたのか分からなかった。
(あれ?なんで見えたり聞こえたりするんだ、おれ死んだよな?あ、動ける)
立ち上がって自分を見回す。ウィンには何が起きたのか分かった。
「なんか、戻ってね?」
すでにウィンの身体は五体満足、傷一つないものとなっていた。『再生』と呼ばれる力があることは知っていたがそれは亜人種や怪物の持つもので人間が生まれながらにして授かるようなものではない。それに、
「なんか体が軽いな、力もみなぎってくる。」
自分の身に起きた不思議なことに関する疑問は尽きないが、考えても分からないのでとりあえずは置いておくことにする。
「しかし、、、ひどいなこれは、王都とは思えねぇ」
改めて辺りを確認するとその悲惨な光景に息をのむことしかできない。
「やっぱアイツの仕業なのか、くそッ、俺じゃあ止められなかった。情けねぇ!」
こんがらがった頭が少しずつ記憶を整理してゆく、何が起きたか、誰がやったか、側に誰かいたか、、、そして思い出す
「ミーシャはどこだ?、逃げることはできたのか?」
周りは瓦礫の山で人の姿はない、最悪はこの山の下に、、、考えたくもないことだ。
とりあえず人を見つけて状況を確認しなければ、ミーシャはおそらく避難場所にいるはずだ。
そのとき、ウィンの前方で地響きとともに巨大な怪物が現れた。その姿は人のようだが、どこか不恰好で歩くたびに体がボロボロと崩れていく
「なんだありゃ!?・・・街の残骸で作られてんのか、あんなのがここで暴れたらもうおしまいだろ!」
ウィンは急いで王宮の方向に走った。とりあえず、王宮に行けば人はいる。守護騎士もいるだろうしこの状況を打開する策を練っているにちがいない。
先ほどまでズタボロだった体とは思えない、(というか普通の人間とは思えない)速度で走っていることにウィン自身は気づいていなかった。
「、、、あれは誰だ人がいるぞ」
ウィンは走りながら人影を見つける。逃げ遅れた市民だろうか?逃げることを諦めて座り込んでいるように見える。近づいてみると見覚えのある顔だった。
「、、、何やってんだ?」
王国守護騎士に最年少で入団し、聖騎士の称号まで登りつめた天才女騎士リア・グランデルが、地べたに座り込んで目の前の悪をただ見ている様子に怒りに近い感情を持った。
振り向いたリアの目には涙が溢れていた。
「ッ!、、、なに泣いてんだよ」
こういうのには慣れてない、どう声をかければ良いのだろうか。心の中でどうしようか慌てているとリアが口を開いた
「私はずっと自分が誰かを守っていると思ってた。自分は強い者で弱い者達を救わないといけないって」
「・・・」
「でも私は弱かった。私も守られていた。聖騎士なんて言われて、先陣切って敵と戦って力の差を見せつけられて負けて、この有様よ。」
ウィンは少しムッとした
「お前騎士だろ?なんで諦めてんだよ、まだ国は滅んじゃいねぇぞ」
「もうすぐ滅ぶわ、あの巨人が王宮を破壊して、都市を破壊して、それでおしまいよ」
「ふざけんな!!それを阻止するのがお前の役目だろうが!お前の仲間は命を賭して今もまだ戦ってるだろ、なんでお前だけここにいるんだよ!!」
リアはキッとウィンを睨みつける。
「農民のあなたに何がわかるのよ!!全力は尽くしたわよ、、、でも届かなかった。この国に私より強い人は数人だけでそのほとんどが今はここにいないの、誰も奴には勝てないのよ!」
少しの間が空いて、ウィンがため息をつく
「分かった、俺があの男をぶっ飛ばしてやる。だからお前はさっさと立ってあの巨人をなんとかしてこい」
リアは何を言ってるのか分からないという表情をする
「え?、、、何馬鹿なこと言ってんの!殺されるわよ!大体あんたなんかじゃ相手にならないわ!」
「だって、お前はもう戦えないんだろ?じゃあ俺がいくしかないだろ」
「意味分かんないわよ!あなたは私より強いわけ?」
ウィンはさも当たり前かのように答える
「今ここでアイツに勝てると、勝つと、絶対ぶん殴ってやると、思っているのは俺だけだ。」
リアはキョトンとする
「負ける気はしないね」
「いったいどこからそんな自信が湧き上がってくるの?どう見たって普通の人、なんで立ち向かえるのよ」
「お前だって一度は立ち向かったんだろ?それで一回負けただけでメソメソしてんだからお笑いだ。俺なら生きてる限り何度でも立ち向かうね」
「何度挑んでも結果は同じことよ、勝てないものには勝てない」
「言ってろ、強弱勝ち負けにこだわってる奴はその過程を重視しない、作物は困難に立ち向かってこそ実り豊かなものになる。人間もそうだ。お前も先の戦いが無駄じゃなかったって思う日が来るさ、、、たぶん」
リアは何も言わない
「お前は自分より下のものを舐めすぎなんだよ、一人で抱え込むな、信じろ、託せ。そしてお前を信じる仲間を助けに行け!」
「、、、あなたが勝つことを信じていいの?」
リアはもう卑屈にはならなかった。少しでも勝算があるのなら希望があるのならまだ立ち上がれる気がしたからだ。
「ああ、任せとけ。今の俺はもうただの農民じゃないからな」
そう言い残してウィンは男を追いかけた。
そして今に至る
その男は何かしらの理由で物陰に身を潜めていた。壁に背を押し付けて呼吸を整える。
(最悪だ、完全に勝ちだと思っていた。もう絶対に反撃はあり得ないと、なのになんだあれは想定外だ。)
もう戦意を失いかけている男はここから逃げ出すことを決意する。
「あとは全部巨人にまかせる、もうこれ以上ここにいるのは危険だ」
「ここにいたか!」
「ひっ!」
男の前に立っていたのは今この世で最も恐れている存在だった。
勝ち筋の見えていた戦いに突如現れた巨大な壁、聖騎士すら屠ることのできる力が手も足も出なかった。男は胸ぐらを掴まれる。
「グッ何なんだよお前は!オレは、、、俺は選ばれたんじゃなかったのかよ!!この力がこのキラーウェこそが世界を支配する存在じゃなかったのかよ!!なぁ!!」
腕輪に問いかけるように叫ぶが返事はない、代わりにウィンが男に向かって答える。
「知るか、誰だよお前。お前みたいなクズ野郎の名前なんか誰も覚えないし、お前ごときの力じゃ農民一人すらどうにもできねぇよ」
ウィンの一言で男の何かが折れる。振り下ろされた断罪が顔にめり込み、骨も砕け折れる。もう男は動かなかった。
「まずは牢屋で友達でもつくることだな」
そう言って男を担いで連れていこうとする
「次はあの巨人だな、あっちの方が厄介そうなんだが、騎士どもはちゃんと足止めしてるみたいだな」
明らかにさっきよりサイズが小さくなっている。巨人の方向へ歩き出そうとするが
「おろっ?」
天地がひっくり返る、頭がぼーっとする。意識を失い、ウィンはその場に倒れ込んだ。
読んでいただいた方、ありがとうございます。作者のカワノタミです。この描写は投稿するかどうか迷った挙句に出すことにしたシーンです。さっさとバトルシーンが描きたかった、
さて次回の話は「今度こそチートに勝つにはチートしかねぇ!」です。また読んでください




