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Super☆Duper!!  作者: ムジカ
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(自称)現代のJanne Da Arcと幻の薔薇青年。

 あぁあぁ。朝っぱらからこの不快感。

どうしてくれよう、この屈辱感。

 早朝の埼京線。赤羽から新宿まで快速だろうが各駅停車。

「次はぁ〜、池袋〜、池袋です」

 あたしは今から朝の新宿にご出勤ではあるが歌舞伎町の嬢王はない。オサワリ厳禁、踊り子には手を触れないで下さい。ていうか、踊ってもねぇよ。あたし。もちろん、触られて喜ぶ質でもない。真後ろのすましたメガネリーマンはあたしのケツを撫で回し、さぞかし御満悦であろう。が、しかしだ。このあたしの悦楽ポイントなど一切シカトした腐れ男子的思考にお付き合いする気などさらさらないのだ。だいたいなんなんだ。この芸のなさ。

 まぁ、あってもらっても嬉しかねぇけどな!

 もしも、あたしのモロタイプがあたしに触れたくてたまらないと哀願してきたならば、やぶさかではないが、後ろの眼鏡はあたしの好みにカスリもしてない。

だいたいイケメン眼鏡男子なんて現実にはいない!

 秀才イケメン眼鏡男子プラス俺様主義。

乙女の憧れ。

普段は

「は? お前うぜぇよ」とか言っておきながら、エッチ(大人ならセックスて言え)の後に甘く囁く。

「俺から離れるなよ……」

 って、どっちだよ!!実際に俺様やられたらムカつくのよね。

「お前は俺の下僕だ」って、ハァ? むしろオメェが尽くせよ。蜂だって蟻だって頂点は雌だろうがよ。

 はぁ……。まだ触り続けるか。痴漢ってこんなにしつこいもんなの? このクサレ○○○野郎。あまり事を荒立てないようにと止めるまで待ってやっていたmyブッダフェイスは、もはや使い果たした。


「やめてください」

 男の袖を掴み、少し大きめの声を出す。

 鮨詰めの車内の沈黙が困惑と迷惑にほぐれる。

「な、なんだこの女……」

 首だけ振り向き睨んだ眼鏡が顔をひきつらせてこちらを見返した。もちろんケガレた手首はがっちり握っている。

「さっきからずっと触られて不快なんです。いい加減にしてください」

「は……? 何言ってんの君、勘違いも……」

「……勘違いだぁ? じゃあこの手はなんだ、あぁ!?」

 ぎゅうぎゅうの車内でグイッと痴漢の手を引っ張る。これ結構大変なんだぞっ。

「だ、誰が触るか! おまえみたいなブス!!」

「なんですって!? あったまきた!! コラ、テメェ池袋で降りな!! 何がブスだ、この変態!! テメェ鏡見たことあんのか!! 絞め殺したるからかかってこいや!!」

 狭い車内で眼鏡の襟首を掴む。

「なんだアンタ! 触るな!! 言いがかりもいい加減にしろよ!! 勝手に人を痴漢と決めつけて、さては慰謝料を騙し取ろうとしてるな!? ハハッ、最近の若者ときたら……」

 眼鏡はうわずった声でまくし立て罪を転嫁しようとしている!!

なんと厚かましい!!

なんという厚顔無恥!!

慰謝料!? そんなものいらねーから消え失せろ!!

 あたしのはらわたは地獄の釜より煮えくり返り、頭の血管マジでブチ切れそうでなんにも考えられないくらい混迷している!!

「あの、すみません。僕ちょっと確信持てなくて言えなかったんですが」

 ヒステリックで真っ白な憤りに、パステルピンクな甘い低音が差し込まれる。

「オジサン確かに触ってましたよ。様子が変だったからちょっと見てたんですけど確かです。ひどい言いがかりはオジサンですよ。彼女に謝った方がいいですよ」

 ちょうど駅に到着し、ドアが開いた。眼鏡はあたしを振りきり人雪崩を押し分け脱兎ばりに消えていった。

「ったく、働く女子を舐めんなっ」

 あたしは一人ごちて腕組みをして足を踏ん張った。 クスッと右斜め後ろから笑い声が聞こえ、ムッとして振り向くとさっきの助け船青年が微笑を浮かべて軽い会釈をした。


 っていうか!! ビックリするくらい美青年なんですけど!!


 思わず彼を二度見。


「すっ、すみません!! 先ほどはありがとうございました!!」

 さっきの眼鏡ばりにうわずった声でいうと美青年はとろけるような笑顔を浮かべた。

「いえいえ。なんかテレビみたいに僕が手を掴んで止めさせられたら良かったんですけど」

 申し訳なさそうに美青年は云う。

大丈夫!! 今の笑顔で全部イレーズ!!

 霜降りグレイのジップアップパーカーの下に、白地に細い赤のボーダーシャツ、黒いタイトなブラックジーンズ。靴は白い革のオールスター。服装も悪くない! すごく素敵な爽やか美青年!!

 栗色に染めた長めの緩いパーマヘアも似合ってるし、上向き眉もナチュラルデザイニングでくっきり二重の垂れ目とのバランスもいい!

 こんな素敵な出逢いを車掌のアナウンスがぶち壊す。

新宿ついちゃった……。会話はまだ発展途上なのに。

 落胆して些細な揺れでバランスを崩してよろめく。

 吊革を逃してしまい掴まるところがなくなってしまったからだ。

 自ら痴漢撃退した勇気ある女子の吊革を横取りしやがったメタボなオヤジはスポーツ新聞のエロ記事を凝視している。“みんなに見られて感じちゃう……。清楚な現役美人秘書のマル秘告白!”

 がっかりだよ!とコンマ三秒で思っていると、あたしの肩を支える大きくて華奢な五指。

 ハッと顔を上げるとあの美貌が照れくさそうなはにかみを浮かべている。

 そしてパステルピンクの甘い低音。

「あなたも新宿で降りるんですか?」



 ******



 あたしは今、新宿駅西口から出て少し歩いた所にあるちゃちなコーヒーショップにいる。 会社? 遅刻? 社会人としての自覚? なぁにそれ? 美味しいの??

 この二年間お局に言われて無駄に四十分も前に出社してるんだからたまにはいいじゃない。湯沸かしなんか一人でやってろクソババァ。

 一応トイレでお局に具合が悪くて遅刻すると告げたら、例により小言を言われたが、電波が悪い振りをして一方的に通話を終了させた。

「あ、なんか悪くないですか? 伊東さん、お時間大丈夫ですか?」

 席に戻るとコーヒーとクラブサンドを前にした美青年・藤崎美が子犬のような眼差しであたしを見上げた。

「あたしは大丈夫ですよ。藤崎さんは大丈夫ですか?」

 初対面の女にノコノコついてきたクセに。君だってそれなりの下心はあるんだろう。

心配するな。あたしは下心満載だ。君が望むなら重役出勤も厭わない。

「ぼ、僕も、だ大丈夫です。すぐ近くだし」

「そうなんですか。良かったです。お礼がコーヒーなんて申し訳ないんですけど……」

 営業スマイルならぬ狩人スマイル(五割増の微笑み)を向ける。

「いえ、逆に申し訳ないです」

「どうぞ召し上がって下さい」

 言ってあたしはキャラメルフラペチーノのストローに口をつけた。

 藤崎さんはいただきますというとクラブサンドにかぶりついた。

 食事をする藤崎さんも可愛い。

 思わず頬がゆるむ。いくつかしら? 二十四、五? 職業は何かしら? 営業ではなさそうだけど、自由業かしら?

 彼は口の中のものをコーヒーで流し込み、電車内でのあたしの勇姿を褒めてくれた。

 元気と勇気が湧いてきたですって。あたしったら、彼のアン○ンマン? きゃっ、それは嫌。ううん、現代社会のジャンヌダルクってところかしら?

「藤崎さん。お仕事の時間大丈夫ですか?」

「あ、僕は学生なんです。今年から武蔵野美術大学の一年生です」

 学生!? つぅことは年下? はにかんだ顔は相変わらずクリティカルヒットだが、あたし年上専攻なのよね。同い年も嫌なのよ!!

「あっ……、そうなんですかぁ! へえぇ」

 とりあえず頷こ。

「油絵専攻なんですけど、伊東さん……絵はお好きですか?」

「え、あ。フェルメールと浮世絵が好きです……」

 けど、詳しくないのよ。それに年下はいただけません……。

 藤崎さんはパッと目を輝かせて、フェルメールの話や浮世絵がゴッホに与えた影響の事を話し出した。

 だからそんなに詳しくないんだって。

相づち打つので精一杯。

「今度上野にボストン美術館の浮世絵が来るんですよ。良かったらご一緒にいかがですか?」

「えっ、いいんですか? でも、そんな悪いですよ〜……」

「あ……いきなりですよね、すみません……。つい」

 嫌よ。年下の学生、それも美術大学? なんかクセモノっぽいじゃない? でも、この顔めちゃくちゃいいんだよね。いやいや貢ぐのは嫌よ。

「伊東さん、あの、もしご迷惑じゃなかったら」

「あっ、ご〜めんなさ〜い。電話がぁ……ちょっと失礼します」

 嘘だけど。可愛い年下にハマるのはいただけない。

 あたしはまだまだ可愛がられたい花の二十二歳なのよ。

 かかってもない電話に応対しながら、トイレに逃げ込む。

 あのはにかみは必殺技に違いない。母性本能をくすぐる仕草はご用心!

「藤崎さん、申し訳ありませんが、急用が入ってしまいました。本当にありがとうございました。お先に失礼します」

 タイミングを見計らい、席に戻ってまくしたてる。

「あ……そ、そうなんですね」

 少し落胆した彼の表情に後ろ髪を引かれながらもコーヒーショップを立ち去る。


 伊東璃奈、二十二歳。年上専攻(二十八から五十まで)。彼氏いない歴、一年半。最近は男友達が増えるばかり。


 苦手(嫌い)なもの、男女問わず年下。口うるさい年輩者。無礼者。ヒップホップ。

 好きなもの、自分。男前。男女問わず自分を可愛がってくれる年上。チャンジャ。酒。


 自分至上主義。主義を曲げないのが自分の主義。


 福眼ありがとう、年下美大生!! 君のおかげで憂鬱な朝にピンク色の薔薇が咲いたよ。薔〜薇が咲いた。薔〜薇が咲いた。僕の小さな(小汚い)庭に。

君は東京砂漠の蜃気楼。オアシスの幻。

 心は潤った。そのぶん落胆も大きかったけれど。

 ここは東京砂漠。

 甘いユートピアを捜し求めるあたしは白い小鳩。

 あたしは、まだまだ負けはしない。

 拳を握りしめ、気合いを入れ直し、朝靄晴れ始めた新宿摩天楼に駆け出した。

 ちきしょう!! 待ってろよ! 説教マシーンのクソババァ&セクハラマシーンの薄らはげオヤジ&つまんない雑用!!

まとめて片付けてやるから、かかってこい!!


 会社に着いたら、まずマイプレシャスフレンド(戦友)のリカちゃんにメールしようっと。会社のパソコンで。(リカちゃんに怒られるけど)


 あたしは伊東璃奈、闘う女子。

 現代社会のジャンヌダルク。

 オアシス男前を捜して今日も一日頑張るぞっ。

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