罰ゲームで告白した結果
「フルハウス」
私は勝利を確信し、にやりと笑った。ところが、彼女の方に動じる気配はない。それどころか、彼女も笑っている。なぜなら…
「ストレート・フラッシュ。私の勝ちね」
「そんな!」
まさか、彼女がそんなに強い役を持っていたとは。私は負けを悟った。
「それじゃあ負けたあなたにはペナルティとして罰ゲームをやってもらうわ。」
彼女、キャロルは、楽しくて仕方がないというふうに笑っていた。私はキャロルが悪魔に見えた。
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そもそも私は元から断れない性格だった。自分から誘ったりはしないが、誘われたら事情がない限り断らない。だから、先程クラスメイトのキャロルにトランプに誘われた時も断れなかった。そして勝負をして負けた。彼女は強かった。確かに、キャロルは頭がいい。成績も常に良くて、美人で、周りからも好かれていて、金持ちだ。私は特別彼女と仲が良いわけではなかったが、今日は何を思ったのか、一人でカフェテリアにいたところ突然誘われた。そして、彼女の取り巻きが見守る中、ゲームは行われて、負けた。
「実はもう罰ゲームの内容は考えてあるわ。男子に告白するの」
小学生みたいだな、と思った。とても私たち高校生がやるような遊びではない。だが、私は断り方を知らないから乗るしかない。
「誰にすればいいの?」
「ジェイコブに告白しなさい。安心して、彼は今フリーよ。期間と手段は問わないわ。」
げっ、よりにもよってジェイコブかよ…、私は心の中でため息をついた。別に彼のことを嫌いなわけではないが、どちらかというと苦手だった。いや、彼自身が苦手というより、いつも彼と一緒にいるジョンソンが無理だった。ジョンソンは結構問題児で、色々なところでやらかしている。授業だってよくサボっている。そのくせ顔はめちゃくちゃかっこいいから女子からの人気は高い。そして、彼はプレイボーイだ。ジェイコブについてはよく知らないが、どうせ彼と似たような感じだろう。
「罰ゲーム、やってくれるわよね? ジェニファー?」
キャロルは念を押した。
「わかりました…」
私は恐る恐る返事をした。まあ、たった一言、告白すればいいだろう。手段は問わないって言ってたし、最悪ワッツアップなどのSNSでささっと告白してさっさとネタばらしすればいい。この時の私は軽く考えていた。
「クレア、ペナルティボードに書き込んでおいて」
「わかったわ」
キャロルは彼女の取り巻きの一人のクレアに言った。ボードには今日の日付と私の名前、そしてジェイコブに告白すること、といった内容がきざまれた。ちらっと見たら他にもバラエティーに富んだ罰ゲームが書き込まれていた。
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困った。そもそも告白しようにもジェイコブの連絡先を知らないし、話しかけようにも彼は常にジョンソンたちと一緒にいるため、タイミングが掴めない。これは、彼が一人でいる時を狙って告白するしかないと、私は彼をよく観察することにした。
そして、ついにチャンスがきた。今日はたまたまかサボりかジョンソンが休みで、ジェイコブが一人で生物の授業を受けている!これはいくしかないと、私はジェイコブの隣の席に座った。だが、ロクに話したこともないのにいきなり告白するのはチャレンジングすぎる。というかジェイコブが私の名前を知っているのかすら怪しい。まずは普通に話しかけて認知してもらうところから始めないと。
「ハイ、ジェイコブ。」
「ハイ、ジェニファー」
挨拶したらちゃんと返してくれた。それどころか、私の名前もちゃんとわかってた。私は彼を見直した。さて、何を話そう。彼と共通点が無さすぎて話題が見つからない。最近見たドラマの話? 私はあまりドラマをみない。そうだ、ジョンソンのことを聞いてみよう。
「今日ジョンソンはいないの?」
「ああ。どうせサボりだろ」
「また? サボりはよくないと思うわ」
私は眉をひそめた。たまにだったらサボってもいいかもしれないが、そう頻繁にサボるのはよくないと思う。単位に響くし。
「はは。ジェニファーは真面目だね」
ジェイコブはおかしそうに笑った。だが、私は彼が思うように真面目じゃない。
「私は普通よ。あなたたちがだらしないのよ」
彼は意外そうに目を見張った。
「まてよ、俺は今日サボってないぞ!?授業もちゃんと出席してるのに」
私は呆れ果てた。
「当たり前じゃない…」
「出席を取りまーす」
先生の声が大教室に響き渡り、話し声が止んだ。生物の授業は、控えめに言ってつまらない。だが、授業の最後に必ずプリントを提出しなければならないので、授業は聞いていなければならない。ふとジェイコブの方を見ると、彼は携帯でゲームをしていた。ちらっと彼のプリントを確認してみたが、もちろん白紙のままだった。あとで見せてとか言われても絶対見せないからな。
私は教科書を見てプリントを順次埋めていった。別に先生の話を聞かなくてもわかる。それよりもさっさと生物を終わらせて他の教科の勉強をしたかった。
「プリント見せて」
ほら、きた。プリントを粗方埋め終わった時に案の定奴が声をかけてきた。ゲームは終わったのだろうか。
「だめよ、自分でやりなさい。」
私は当然断る。奴は残念そうな顔をした。
だが、ここで私はある奇策を思いつく。そうだ、ここでプリントを写させて差し上げて、見返りに連絡先を教えてもらう。そして、いくつかのやりとりを経た後に自然な流れで告白する。そのあとネタばらし。完璧じゃないか。
「やっぱりいいわ。プリント見せてあげる。」
奴は急に態度を変えた私にびっくりしていたが、プリントを見せてもらえるならそれでいい、と喜んだ。だが、私の次の一言で彼は落胆する。
「そのかわりに条件があるの」
彼の顔がこわばった。
「どんな条件? できることならなんでもする」
彼の表情は真剣で、本気度がわかった私は満足し、微笑んだ。なぜか彼の顔が一層こわばった気がする。
「そう…、それは、その条件は、あなたの電話番号を公開することよ」
彼はさあっと青褪めた。
「ネットに公開するのか?」
「違うわ!私に、私だけに公開すればいいのよ」
違う、本当は電話番号教えてって言いたかったけど、直接言うのはなんか恥ずかしくて言葉を変えて言おうとしただけなのに…。なんだか返って恥ずかしくなってしまい、顔に熱が集結した。
「なんだ、そんなことか。だったら条件なんて言わずに普通に聞いてくれれば良かったのに。…これ、僕の電話番号」
彼は安堵したのか軽く笑い、すぐに携帯を取り出すと操作して彼の電話番号が示された画面を見せた。
「ありがとう」
私は彼の電話番号を連絡先に追加し、早速ワッツアップというメッセージアプリを起動して彼らしきアカウントにメッセージを送ってみた。
〝Hi〟
彼の携帯が鳴り、通知がくると彼はすぐに返信した。
〝Hi〟
ふと携帯の画面に表示してある時間を確認すると、結構時間が経っていた。
「もうあまり時間がない。早くうつして、分からないところがあれば聞いて」
私は自分のプリントを彼に押し付けて早く書くように促した。私は自分のプリントに間違いがないかどうか確認しつつ彼が一生懸命写している姿を見つめた。こうして改めて見てみるとやはり彼はジョンソンとは違う。授業もちゃんと出てるし、人のプリント写すのはどうかと思うが、まあそれでもきちんと提出しようとする姿勢は好ましい。それに、こうして彼の顔を見てみると形が整っていてなかなかハンサムだ。おそらく、今まではジョンソンの美貌ばかりが目立っていて注目されなかったのだろう。今一度ジョンソンを抜きに、彼のことを正当に評価してみるべきなのかもしれない。
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スマートフォンの画面に文字を打ち込んでは、消してまたやり直す。送信ボタンを押そうとしてやっぱりやめる。さっきからその繰り返しだ。彼と連絡先を交換し、あれから毎日のようにSNS上で話しているが、なかなか告白に踏み切れない。だが、罰ゲームなど早く終わらせたい。ええい、いいや、本当に告白してるわけじゃないんだし…、と思い切って送信を押そうとしたその時に、軽快な着信音とともに彼からメッセージが届いた。
〝お昼一緒に食べない?〟
しまった。すぐに既読をつけてしまった。というのも、彼とのトーク画面を開いたままメッセージを受け取ってしまったため、すぐに既読がついてしまったのだ。しかし、こうなってしまっては仕方がない。早く返信しなければ。
〝ok〟
私たちはカフェテリアで待ち合わせし、初めて一緒にご飯を食べた。
黙ってポテトをつまみ、視線を落とす。ジェイコブが意外にハンサムだと気付いてからまともに彼の顔を見れなくなった。なんだか、彼の美しさに引き込まれてしまいそうで。だが、彼からの視線は感じる。私はついに沈黙に耐えられずに口火を切った。
「今日ジョンソンはどうしたの?」
やはり彼の話題だ。私はそれが無難だろうと思ったが、どうやら違っていたらしい。彼は少し嫌そうな顔をして言った。
「あいつのことが気になるのか?」
私は困惑した。ジョンソンについて聞いたらダメなのだろうか。彼となにかあったのだろうか。なんとなくそんな雰囲気を察した私は慌てて誤魔化した。
「全然。別にジョンソンのこと気にしてるわけじゃないんだけど、あなたたちっていつも一緒にいるイメージだったから今はなんでいないのかなって…あっ…ごめんね、なんでもない…」
言ってからしまったと思った。もしかしたら彼と喧嘩して一人でいたのかもしれないのに、かえって傷口を抉るような言い方をしてしまった。
「ははっ」
なのに、彼はおかしそうに笑っていた。なんだか笑っている時の彼がかわいく見えて、思わず見惚れてしまう。
「あいつさっき先輩に呼ばれたらしくて行っちゃった。別に喧嘩したとかじゃないよ」
「そうなの…」
それを聞いてホッとした。そして、急に彼からお昼を誘われた理由もわかった。おそらくジョンソンがいなくなったので代わりに私を誘ったのだろう。
「ところで、こうして二人でご飯を食べるのも初めてね。いや、私は男の子と二人きりでご飯を食べるのも初めてかも…」
そう、私は今まで色恋沙汰には全く興味がなかったので、実は男の子と付き合ったことすらなかったのだ。私の衝撃の告白を聞いてジェイコブは本気で驚いた様子だ。
「本当に?」
「うん…」
「アンビリーバブル、こんなに綺麗な子なのに…」
「そうかな…」
私はちょっと恥ずかしくなって赤面した。照れ隠しのようにポテトをつまむ。彼はまた笑っていた。
「ジェイコブ!こんなところにいたの!」
突然、サーシャがやってきた。彼女はジョンソンの取り巻きの女の子で、密かに彼と付き合っているのではないかと噂されている。
「サーシャ、どうしたの?」
サーシャは私の方を一瞥すると意味ありげににやっと笑った。
「ふーん、ジェイコブってジェニファーと仲良いんだ…」
「ただの友達だよ」
なんか勘繰られても面倒なので、私は慌てて訂正した。
「そうなんだ…まあいいわ、そんなことはどうでもいいの。ジェイコブ、ジョンソンが呼んでたわ」
「わかった、すぐ行くよ」
「じゃあ私はこれで」
サーシャは去り際になぜか私の方を睨みつけた気がした。しかし、彼に全く動く気配がないので、心配になって私は促した。
「行った方がいいんじゃない?」
「いや、あとでいい。それより僕は君といたい。」
ジェイコブに真面目に見つめられ、私はたじろいだ。まさか、ジェイコブが…いや、そんなはずはない。
「私も…かな?」
私はとりあえず小さな声で無難な返事をしておいた。
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「スペードのファイブ、ハートのワン。ブタね」
放課後、帰り支度をしていた私はクレアによって拉致され、カフェテリアに連れてこられた。カフェテリアではキャロルがにっこり微笑みながら待っていた。そして、有無を言わせず再びトランプゲームが始まった。
「で、どうなのよ。ジェイコブにはもう告白した?」
やっぱりこれか、と思った。彼女は罰ゲームの進み具合を確かめるために私を呼んだんだ。
「まだよ。でも、彼には接触したし連絡先も交換したわ」
一応やってますアピールをしてみた。キャロルは満足そうに微笑んだ。
「そう。それはよかったわ。でもどうしてまだ告白しないの?」
早く、と急かしてるようにキャロルは問いかけた。
「それは…」
私は言葉に詰まった。どう説明すればいいんだろう。単にタイミングが掴めないというか、勇気が出ないというか。
「わかったわ。じゃあ、こうしなさい。来週花火大会があるからそれにジェイコブを誘って、告白しなさい。それだったら他の生徒に聞かれる心配はないわ。彼に口止めしておけば。」
「それはいいアイディアね、わかったわ…」
もとより反対などできない。私は受け入れるしかなかった。
後日、私はメールでジェイコブを誘ってみた。正直、彼が断ればいいのにと思っていた。そしたら告白を延期できるから。しかし、返事は割と早くにきて、しかも快諾だった。
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当日、私は日系人の祖母が持っていた浴衣というジャパンの衣装を着て行くことになった。男の子と花火大会に行くの、と家族に言ったら母親の目の色が変わった。父親は椅子から転げ落ちそうになり、兄は持っていたカップを落とした。そして、どこからか祖母が飛んできて、あれよあれよという間に浴衣を着させられた。私はアメリカ人だし、日本人の血も4分の1しか入ってないから似合わないんじゃないかと思ったが、皆にはべた褒めされた。
そして、ジェイコブは浴衣姿の私を見て時が止まった。
「ジェニファー、すごく綺麗だ…。この世のものとは思えないくらい美しい…。」
彼は感嘆して言った。
「ありがとう…」
私は照れて顔が熱くなるのを感じたので、咄嗟に扇で顔を隠した。そしたらすっと扇を取り上げられた。
「それはいらない。ジェニファーの可愛い顔が見れなくなる」
私はジェイコブが真面目な顔で言うので、笑ってしまいそうになった。
爆音とともに花火が打ち上げられ、空中で花開く。
「綺麗…」
空を見上げ、思わず私は呟いた。周りはみなカメラを構えて写真を撮っている。だが、私は今この瞬間のこの花火を記憶に残したかった。
花火が終わった後、私は覚悟を決めてジェイコブを物陰に誘った。はやる心臓を抑え、私は重い口を開いた。
「実はね、ジェイコブ。大事な話があるの」
「なに?」
ジェイコブも緊張している様子だ。私はしばらくジェイコブの目を真っ直ぐに見つめた後、すっと口を開いた。
「あなたが好き」
言った。ついに言ってしまった。これで、罰ゲーム〝ジェイコブに告白する〟が終わった。別に彼になんと思われようがどうでもいい。告白さえすればいいのだ。こっぴどくフられようと。しかし、言ってしまった以上はやはり彼の反応が気になって見てしまった。
彼は、嬉しそうに微笑んでいた。そして、目には確かに情熱の一欠片が宿っていた。
「僕もだよ。僕もあなたを愛してる。」
えっ、と言うまでもなく私は彼に抱きしめられていた。
私は彼の予想外の反応に戸惑った。違うの、これはただの罰ゲームで告白しただけ、本気じゃないのに…
だが、彼の私を抱きしめる腕の力が強くなって反駁できなかった。彼はジェニファー、と愛おしそうに私の名前を呼びながら私の髪の毛にキスをした。
ようやく彼から解放された時にはもうすでに遅い時間になっていた。
「そろそろ帰らないと…」
私がぽつりと呟くと、彼はすかさず言った。
「家まで送っていくよ」
「大丈夫よ、一人で帰れるわ」
「もう夜も遅いし、一人で帰るなんて危ない。君のボーイフレンドとして、君を守らせてくれ」
私は驚いた。なんと、罰ゲームで告白しただけなのにジェイコブの彼女になっていた。というか、彼は完全にそう思っている。なんだか今更ネタバラシする雰囲気でもないし、また後日さらっとネタバレすればいいだろう。そう思って、私はとりあえずこの問題を放置することにした。
結局彼は家の前にある公園の近くまで送ってくれた。帰り際にまた抱きしめられ、頬に接吻を受けた。
2階にある自室の窓から彼の姿を見送った後、私は携帯を取り出して彼女に電話した。
『もしもし』
『…ええ』
『ついにやったわ。これで罰ゲームは終わりよ、キャロル』
『それで、どうだったの? 彼の反応は?』
やはり気になるか。私はため息混じりに答えた。
『それがね、なんか付き合うことになっちゃったみたい、どうしよう』
キャロルが電話越しに息を飲んだ。
『本当に? ネタバレはした?』
『…してないわ』
私は正直に答えた。電話の向こうでキャロルはしばらく考えてから言った。
『…そのまましばらくネタバレはしない方向でお願いできる? ごめんなさい、実は最近ジョンソンと喧嘩しちゃって…今ジェイコブにネタバレして、彼がジョンソンに言って罰ゲームのことがバレると少しまずいの。個人的な事情で申し訳ないんだけど』
まさか、キャロルがジョンソンと喧嘩するほど関わりがあるとは驚きだった。どうして喧嘩したのかすごく興味が湧いたが、聞かないでおくことにした。
『そういうことなら仕方ないわ、しばらく黙ってる』
『お願いね』
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学校も終わり、夏休みに突入した。結局ネタバレする機会もないままズルズルと交際を続けていて、休み中は彼が毎日のように会いにきた。私はネタバレできないならばと、彼に嫌われるように我儘に振舞ってみたりもしたが、なぜか全て彼に好意的に受け止められてしまって別れるまでにはいかなかった。また、適当にでっちあげた理由で別れようとしたこともあったが、それも全て却下された。
長い休みが明け、ようやく学校が始まった。私たちはともに進級できたことを喜んだ。特に彼は。
そして、新学期早々私は彼女に呼び出された。
「単刀直入に聞くわ。彼とはどうなのよ」
「その、ネタバレはできてなくて、まだ付き合ってることになってるわ」
私は少し言いづらそうにキャロルに伝えた。すると、彼女は困ったような顔をした。
「ネタバレするのなら早くした方がいいわ。でないと、時間が経てば経つほど傷が深くなって出血がひどくなる。私が言い出したことだけど、ジェニファーには傷付いて欲しくないのよ。言いづらかったら私から直接彼に言って謝るわ」
「いいよ、私が直接言うわ。あなたは余計なことしないで」
私はほぼ反射的に答えていた。キャロルが彼に伝え、私からは何も言えずに私たちの関係が終わってしまうことは避けたかった。
「ならいいわ。とにかくよく考えて。後悔することのないように」
最後に彼女は少し意味深なセリフを吐いて去って行った。
私は彼女に言われた通り、よく考えることにした。というか、考えざるを得なかった。これからのこと。これから私たちの関係はどうなっていくのか。言うまでもなく、私たちの関係はもはや罰ゲームを超えていた。そこには明らかに情が入っていた。
そして、私は彼を失うことが怖かった。罰ゲームのことを正直に言ってしまえば、私たちの関係は終わってしまう。しかし、このまま罰ゲームなどなかったかのように関係を続けていくことも難しい。もちろん、それも一つの選択肢だ。そして、このまま私が何もしなければ必然的にそのルートを辿っていくことになる。しかし、それだとまるで彼を騙してるみたいで、彼に秘密を抱えながら生きていくのは嫌だった。
罰ゲームを引き受け、始めたのは私だ。だから当然、自分で終わらせなければならない。彼に告白するだけじゃ罰ゲームは終わらない。きちんと、ネタバレまでしなければ。大分時間がかかってしまったが、それでも私はやる。だって、彼が好きだから。彼に本気で恋をしてしまったから。だからこそ、これ以上先延ばしして彼を傷つけたくない。当たり前だけど、一緒にいる時間が長ければ長いほど情が湧いてくるから。
私は、早速学校帰りに彼を自分の部屋に呼び出した。こんな話、学校はもちろん外でもできなかったからだ。万が一誰かに聞かれて言いふらされたら二次災害もいいところだ。
「それで、話って何?」
彼は、心なしかそわそわして落ち着かない様子だ。私が真剣な表情をしているからか。
「うん、あのね、私、ジェイコブに謝らないといけないことがあるの。実はあなたに告白したのは罰ゲームでした。今まで言わなくてごめんなさい。」
私は申し訳なさそうに俯いて言った。彼の目を見るのが怖い。彼は、どんな表情をしているのだろうか。怒っているのか。
「知ってるよ。だからなに?」
ところが、彼から返ってきた反応は予想外だった。
「え…知ってたの…? どうして…?」
「親切な友達が教えてくれた。でも、だからどうしたの? まさか罰ゲームだったから、僕たちの関係も無かったことにしようなんて言わないよね?」
「そう、そうなの! 今までのは罰ゲームだったから…あ、いや、告白した件だけだけど…とにかく私たちの関係はもう…」
「だめ。今更僕から離れるなんて許さない。罰ゲームで告白したことについては許す。でも、ジェニファーと別れるなんて考えられないよ」
「ごめんなさい…」
私の頬に、一筋の涙が流れた。
「ジェニファー、泣いてるの? どうして?」
ジェイコブは優しく私の涙を拭った。
「私も、あなたを失うなんて考えられない。正直に言うと、最初はなんとも思っていなかった。罰ゲームで告白した時も心は空っぽだった。だけど、あなたと一緒に過ごしているうちに、段々心の奥底に何かが芽生えてきて、どんどん大きくなって、理性じゃ制御できなくなって…。あなたは他の人と違って私の特別な人なんだって思ったわ。あなたは、もはや私の体の一部なのよ。あなたを失ったら、私は、生きていけそうもない。」
私は、あなたが好きだから。あなたを、愛してるわ。とっても大好きよ。
私は今度こそ、本当の告白をした。ジェイコブはそっと私を抱きしめ、私の唇に自分の唇を重ね合わせた。
「僕もあなたを愛してる。あなたほど美しい人は他にはいない。見た目だけじゃなく、心が、魂が美しい人。あなたは僕の究極の癒しで、神さまから送られた大切な贈り物。
必ず、あなたを幸せにする。僕といて良かったと、最後にそう思わせたい。」
私は感動に震えた。それは、紛れもない彼の本心であり、私への想いだった。
私たちは罰ゲームで始まった奇妙な関係だったけど、きっかけなんてどうだっていい。こうして、運命は訪れるのだから。私たちは出会うべくして出会い、惹かれあったのだ。きっと全く違う出会い方でも結果は同じだっただろう。
でも、きっかけを与えてくれた彼女には感謝してもし足りない。
罰ゲームは、悪いことばかりではなかった。
今度は彼女とジョンソンの話でも聞いてみようか。