27歳、双子
さて、たまには他の人の話をしよう。
これは、とある双子の兄妹の 絶望。
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テレパシーって信じる?
私たち兄妹には、それができる。
でも実際には超能力なんかじゃないと思う。
ただ、似た物同志だから、考えが予想できるだけだと思う。
今日は、兄とハイキングに来ている。
もう子供じゃないのに、いまだにこうやって兄妹で出かける事を、
付き合いが浅い人には「仲良し」だと揶揄する人もいるけど、
私たちの仲はそんなんじゃない。
「おーい」
((鳥。あそこの木))
少し前を歩く兄が振り返って合図する
今のがテレパシー。
口で言えば済む事だけど、テレパシーなら「あそこの木」の場所が正確にわかるから楽。
追いついて、二人で小鳥を眺める。
至福。
本日のハイキングの目的はこれ。
私は、小鳥と花が好き。
兄は、小鳥と虫が好き。最近はシダ系の草にも興味があるっぽい・・・
適当に野山を歩きつつ、お互い好きな物を見つけたら連絡し、愛でる。
時には相手を置いて先に行き、時には相手を好きなだけ待たせ、
そしてほぼ会話は無い。
付き合いの長い人たちは、私たちの事を「謎の距離感」と揶揄する。
私は兄のかばんから飲み物を取り出し、兄に渡す。
兄はそれを一口のみ、私に渡す。
私も一口のみ、兄のかばんに飲み物をしまう。
余談だけど、私たち双子が、姉弟ではなく兄妹になったのは、
じつは生まれた順番による物ではない。
時代錯誤かもしれないけど、
「男は女を守る物だ。女は男を支える物だ」という認識がお互いにあったから、
自然とこういう形になった。
親の影響ではなく、自分たちで決めた合理的な役割分担だと思っている。
と言うわけで、飲み物などの重い荷物は全部お兄ちゃんちゃんのかばんの中だ。
これは合理的な判断なのだ。
その分私は、
おっと、そろそろ時間かな?
振り返って兄を見る
((お昼。ご飯。休憩))
「わかった」
((少し先に良い場所が・・・あったと思うから、そこで休もう))
テレパシーと言えば
たまにテレビとかでは、「遠く離れた場所にいてもお互いの危機がわかる」なんてやってるけど
私たちにはそんなこと出来ない。
私たち兄妹のテレパシーの条件は、
1、相手の姿を見る
2、相手の声を聞く
3、相手に触れる
この3つのどれかが必要。
2つ満たせば更に詳細に伝わる
つまり、結局のところ、
二人にしか通じないジェスチャーのような合図を、
無意識でやっているだけのような気がする。
私は兄に手を振り、
((あった、思う?))
と、プレッシャーを与える。
兄は真顔で手を横に振り、
((ココで、休む?))
と応戦する。
(冷静に考えると、何でこんな動きで意思が伝わるのだろうか・・・)
そう考えているうちに先に行ってしまった兄を、慌てて追いかける
生垣のような木々の間を二人で歩く
この登山道は、二人で何度か来ている。
(確かにこの先に小さなキャンプ用の広場があるけど、そこまで進むつもりなのかな?)
(結構距離あるけど、間違えてないかな?)
そう思ってたら、前を歩く兄が急に早歩きになった。
ようやく気付いたな。まったく、仕方の無い兄だ。
私はニヤニヤしながら兄の背中を追う。
急に兄が立ち止まった。
何事かと兄が見ている方向を確認すると、
茂みの裏に、テントの残骸があった。
テントは潰れていて、
荷物が散乱している。一体何事なのだろうか?
テントの前にしゃがみこんでいた人がこちらに気付き、振り返った。
兄が一歩前に出て応対する。
「トラブルですか?」
「いやー忘れ物をしてしまいまして!」
物を探してこうなったのかな?不器用にも程があるのではないだろうか。
もう1人の女性は、少し離れた場所で私たちに全く興味が無いようにフラフラしている。
「テント直すの手伝いましょうか?」
「いいえ!これはこのままで!忘れ物さえ見つければいいので!」
なんだろう。この男の人、とても違和感がある。
とても、不自然だ。
どこが?と言われるとわからない。
服装は、山をなめた格好に靴だけが本格登山用でバランス悪いけど、そういう人も居るし、
色合いも多少カラフルだけど、奇抜って程でもないし、
喋りも、微妙にかみ合って無いような気もするけど、普通の方だし、
常時満面の笑みなのも奇妙だけど、張り付いた仮面の笑顔と言うより、心からの笑顔のように見える。
でも、何故か不自然さを感じる。
不自然すぎて、不自然が人の皮を被っているような印象を受ける。
「探し物を手伝いましょうか?」
(何言ってんだアホ兄)
私は、こっそり兄の服を引っ張る
((嫌、怖い、先行く))
こういうとき便利、二人だけの内緒の話。
「良いのですか?助かります!」
「困った時はお互い様ですよ」
((わかってる、しかし、礼儀は大事、適当にすぐ切り上げるから少しだけ我慢してくれ))
(アホ兄の悪い癖だ・・・)
「ところで、何をお探しですか?」
「見たらすぐわかるので!大丈夫です!」
「どのような形、大きさかによって探し方も変わりますし・・・」
「大丈夫です!見たら絶対わかります!」
「はぁ・・」
二人は登山道を外れ、奥のほうに進んでいく。
私はここで待っていよう。
しかし、
何をどうやったらこうなるのだろうか。
この荷物の散乱具合はは、並大抵の事ではない。
足元には食器類が散乱していて、ちょっと地面にめり込んでる。
テントも、ただ骨組みが外れているだけでなく、その上を歩きでもしたのか、泥までついてる
むしろ、テント自身が周囲の地面より沈み込んでいる様子にすら見える
(扱いが雑すぎる。ちょっと良い道具なのにもったいない)
(熊にでも襲われたのだろうか?)
この島には熊はいないはずだけど、そう考えた方がしっくり来る
食事中に熊が乱入してきて、テントにボディプレスをかます姿を想像して
ちょっとにやけてしまった。
人の不幸を笑うようで失礼だった!
見られていないか、周りを確認するが、
3人とも離れた場所で何かやってる
見られて無いようだ。
とりあえずしゃがんで、何か探してる風を装いながら、
そこらへんにあった木の棒で地面をサクサク刺しながら、時間をつぶす。
(ちょっとって言ってたし、5分くらいだろうか、)
(でも何を探すか聞いても答えないあたりで、イラッとしてたから2~3分かも)
地面をつつく木の棒に手ごたえあり。そこを重点的にサクサクする。
(あの女の人、あれでも探しているのかな?)
(全くやる気無い・・・人の事は言えないけど)
木の棒で、地面に埋まっている物をテコの原理で穿り出す。
・・・フォークが出てきた
(めり込みすぎでしょ・・・)
(いや、めり込んでいると言うより)
そこで思考を止めた。気付いてはいけない事の様な気がする。
「おにいちゃーん」
((助けて))
平静を装いながらお兄ちゃんを呼ぶ。
声は震えていなかったはずだ。
一世一代の名演技だったと思う。
お兄ちゃんはすぐに飛んできた。
まだよ、まだ、心を無にして、何も考えてはいけない、それと、
気付きそうになっている事を、奴らに気づかれてはならない。
お兄ちゃんは私が一歩も動かないことを不審に思い、近くに来て肩に手を置いた
限界だった。
「お兄ちゃん」
私はお兄ちゃんに抱きついた。
声が震えていたが、かすれた小さな声で周りには聞こえなかったはずだ。
テレパシーの条件は、1つなら断片的な単語、2つなら詳細な文章
そして、3つなら相手が見た映像を見ることすら出来る。
それで、私の気付いたことにおにいちゃんが気付いた
((めり込んでいると言うより、埋められていた?))
気付いた、私はもう動けない。
((これは・・・))
お兄ちゃんはテントに近づく。
私はお兄ちゃんにしがみついて必死に止める。
((止めて!))
お兄ちゃんはテントのファスナーを空ける。
((止めて!))
お兄ちゃんはテントをめくり、中を確認する。
私は目を精一杯瞑り、お兄ちゃんの胸に顔をうずめる。
でも無駄だ、お兄ちゃんが見たものが流れ込んでくる。
そこにあったのは、何かを握り締めた人の手。
「あぁ!そこにあったのですね!忘れ物!」
すぐ後ろで、あの不自然な男の声がした。
私たちは飛びのいて逃走する。
元より、逃げるつもりだった。
準備はしていた。足に力をためていた。
でも、
私が動けたのは一歩だけだった。
(足が動かない?腰が抜けた?何故動かないの?動かないといけない状況じゃない!)
でも動かない。
お兄ちゃんが私を支えるように引っ張って逃がしてくれる。
「はは!待ってください!御礼をしなきゃ!」
追いかけてくる!
恐怖で歯がガチガチなる。歯が砕けそうなほどに強く。
「鬼ごっこですか!ははは!」
追いつかれる!私が重荷になって!お兄ちゃんまで。
((私を置いて逃げて!お兄ちゃんまで捕まる!))
((できない!守る!))
((私のせいでお兄ちゃんが!私のせいだからお兄ちゃんは悪くないから!))
((できない!何とかする!))
お兄ちゃんは私を担ぎ上げ、登山道を離れ、森の中に突き進む。
無理だ、木々の中を進む場合、先頭は枝を折りながら進むのに対して、
後ろは開いた空間を進めば良い。
逃げ切るのは無理だ
「今度はかくれんぼですか!負けませんよ!」
生垣のような、背が低く葉が密集してる木々のエリアが幸いした。
どうやら見失ったようだ。
お兄ちゃんは慎重に前に進み、目的地に着いた。
それは、昔この辺を探検した時に見つけたもので、
地割れのような一直線の細長い竪穴で、天然の塹壕のようなものだ。
幅50cm深さは1mくらいで、隠れるには無意味な形状だけど、
上から見ただけではわからないが、実は足元から30cmの高さの横穴があるのだ。
お兄ちゃんはそこに私を押し込み、自分も隙間に入り込んだ。
太陽の影を見るに、私たちは上からは見えないはずだ。
私はガチガチなる歯を止める為に、必死で袖を噛み、息を押し殺して耐える。
「この辺かな!?」
奴が竪穴の中に降りてきた!靴が見える!
だが、地面に這いつくばりでもしない限り、私たちには気付かないはずだ。
私達がこの横穴に気付いたのは、私が転んだからで、完全に偶然で、
意図的に調べても見逃すような場所なのだ。
息を止める。心臓の音がうるさい。うるさすぎて不安になる。
音と言うより、振動が地面に伝わって無いか不安になる。
耐える。耐える耐える。
動きが無い。
私は顔を背けているからわからないが、奴の靴はもうどっかに行ったかな?
確認は、お兄ちゃん頼んだ!
「うぉっ」
お兄ちゃんの小さな悲鳴が聞こえた、それでお兄ちゃんの見たものがわかる。
奴の笑顔だ。
「みーつけた!」
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私は気を失っていたみたい。
いつの間にか別の場所に来ていた。
開けた場所の落ち葉の上にいるようだけど、
体が動かないし、首も動かず、目すら半開きで、回りが良くわからない。
それに、空気を吸う力すらほとんど無くて、かろうじて、ほんの少し息を吸うだけで精一杯だ。
状況が良くわからないけど、
まずは、深呼吸から始める。
酸素を吸う筋肉を動かす為の酸素すら足りないように感じる。
徐々に吸える空気の量を増やす。
次に指に集中する。
全く動かないが、動かそうとしている感覚は伝わってきた。
足の指も同様だ
(折れたりはしてなさそうね)
まずは一安心。
でも状況がわからない。寝返りを打つと奴がいたらどうしよう。
本当は今すぐ逃げ出した方が良い状況かもしれない。
お兄ちゃんはどこにいるのだろうか?同じように後ろに転がっているのだろうか?
でも今は何も出来ない。
まずは・・・体力を・・・
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少し寝てしまっていたみたい。
場所はさっきと同じ場所。体の方は、鈍い痛みを全身に感じる。
感覚がほぼ無いよりはだいぶマシだ。回復してきたのかも。
指や手足もほんの少しなら動く。
だけどまだ、せいぜい位置をずらす程度で、這いずる事すらできない。
・・・意を決して、首をうごかし逆方向を見てみる
誰もいなかった。
まずは安心。そして、お兄ちゃんが居ない不安。
周囲を見渡せるようになって、今居る場所がわかった。
ここは、以前二人で探検した時に見つけた、「不思議な崖」だ。
私は崖下に居る。
全身に広がる鈍い痛みから考えて、私はあの上から放り投げられたみたい。
(お兄ちゃんに助けられた)
この崖は、3階建ての建物ほどの高さがあって、
ほぼ垂直に見えるその急斜面を落ちたら、ひとたまりもなさそうに見える。
しかし、実際にはたいした傾斜ではなくて、歩いて降りれるなだらかな坂なのだ。
何故か木々が斜めに生えている為に、崖のように錯覚してしまう不思議な場所。
お兄ちゃんはあの後、気絶した私を担いで逃げて、
でも、それでは逃げられないと判断し、この場所まで移動し、
あの上から私を投げたのではないかな。
ここを転がり落ちても、せいぜい打撲くらいしか怪我はしないはずだし、
だけど、上から見たら、確実に死んだと思うはず。
もし、二人で落ちれば、奴らは確認しに近寄ってきて、この崖の秘密がばれるから
自分だけ別方向に逃げて、奴らの注意を自分だけに引き寄せて、囮になったのだと思う。
(お兄ちゃん・・)
泣きそうになる。無事だといいけど。
まずは私がこの場所から逃げないといけない。
お兄ちゃんがもし奴らを撒く事が出来たら、奴らもここに戻ってくるかもしれない。
何度か気を失ったり寝たりしてしまったみたいだから、本当はかなりの時間がたっているかもしれない。
打撲程度の怪我だけど、打ち所が悪かったようで、まだ寝返りを打つことすら出来ない。
もう一度、深呼吸から始め、
徐々に体を動かす。
寝返りとは、実は凄いパワーが必要なことだと実感する・・・
確かに、寝ているお兄ちゃんを動かそうとした時は、とても大変だったな。
いつもならとても容易い事だけど、それは全身の筋肉を使っていたからなのだろうか。
なんとか、うつ伏せになり、今度は立ち上がろうとする。
その時、前方の木々の隙間に、フェリー乗り場が見えた。
距離にして、数百メートルはある。
丁度バスが着いたようで、降りた人が建物の中に入っていく。
距離があるから、人が点にしか見えない。
でもその点の中に、不自然なほど不自然な点があった。
私は全力で地面に伏せた。
頭を縦にすることすら危険と感じ、耳を地面につけるように横にし、
片目だけでフェリー乗り場の様子を見る。
この距離で向こうからこちらが見えるはずが無い。
こんな事しても無意味だとわかってる。
でも、万が一に万が一を重ねたい。
私はそのまま微動だにせず、ひたすら待つ。
しばらくして、フェリーが出航する。
しばらくして、フェリーは水平線の彼方へ消える。
そこでやっと安堵し、体の力を抜く。
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また寝てしまったみたい。
気付けば空が赤く染まり始めていた。
まだ体は鈍いけど、もう立ち上がれる。
(お兄ちゃんを探さなきゃ)
お兄ちゃんが隠れそうな場所なら心当たりがいくつかある。
(ここからなら、一度車道に出て、登山道入り口に戻った方が早いな)
疲労と怪我で足取りは重い。でも日が暮れる前にお兄ちゃんを見つけてあげたくて、
焦る気持ちに体がついてこないのがもどかしい。
私は、お兄ちゃんが私を迎えにこない理由を必死に考えないようにしていた。
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登山道入り口まで着いたけど、もうじき日が沈む。
夜の山道は危険だが、早くお兄ちゃんのところに行ってあげたい。
ふと、お土産屋さんの店員と目が合う。
(そうだ、助けを)
「・・あ・・・・あ・・・」
声が出ない。言葉にならない。
店員はそんな私を軽蔑したような目で見た後、
心底関わりたくなさそうに奥に引っ込んだ。
私はただ悲しくなった。
確かに、服はドロドロだし、髪はぼさぼさだし、
浮浪者のように見えるのかもしれない。
でも、女の子がこんな状態なら、多少は気にかけるものじゃないか?
だけど、もうそんなことはどうでも良かった。
(今の最優先はお兄ちゃんのところに行く事)
登山道の入り口に立つ。
夜の帳が折り始めた登山道は、
暗く寂しく危険そうだった。
(だからこそ行かなきゃ)
私は歩き始める。
(お兄ちゃんのところに行って、一緒に帰ろう)
私は涙ぐみながら進む。
(例えどんな形になっていたとしても)
涙をぬぐう気力すらわかない。
でも問題なかった。
そんなことしなくても、
今なら、目をつぶってでも、お兄ちゃんの所まで迷わず行ける自信があった。
それが、より一層悲しくなった。
そんな私を、誰かが肩に手を置き止めた。
店員だろうか?「夜の山道に入るな」とでも?
私は振り返りすらせず、無視して前に進もうとする。
そうすると後ろの人がこう言った。
「ははは!いやー!また忘れ物をしてしまってね!」
私は目の前が真っ暗になった。
今回は1話完結ではなく、続きます。




