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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

古き神は静かなる星で永き眠りへと沈む

作者: Alika

ある日、世界中で一斉に激しい雨が降り始めた。

雨は止まず、異常事態に世界中の人々が震撼した。

陸地は低い所から順に水没していった。


雨はずっと止まなかった。

原因は人には解明出来なかった。

多くの命が水にのまれて消えていった。


やがて陸地すべてが水没した。

人々は極々僅かな数が、船や艦などに残っているだけだった。

だが、やがてはその人々も死滅した。

原因不明の病が急速に広まったからだ。


そうしてこの星から呆気なく速やかに、人類は消えた。

消えてしまった。






ここに古い神がいた。

太古の昔、人類がまだ種として誕生するよりずっと昔から存在する、古い古い神だ。

神は此度、世界を覆った厄災の原因を識っていた。

天から大いなる存在の思惟が流れてきたからだ。



(折角、美しい水の星があると聞いたのに、実際に訪れてみれば害獣によって穢され、今も壊され続けているではないか。この状態で放置すればやがてこの星は再生出来ぬ程穢れてしまう。まだ回復の余地がある今の内に浄化してやろう)



宇宙を自由に渡る存在は、思惟でそう語っていた。

この星に生まれ星と共に生きてきた古き神はそれを聞いて、人々の繁栄の歴史が終わるのを悟った。

けれどどうにも出来ないとも思った。

止められる筈もない。大いなる意思の価値観は、人の存在など害悪にしか思っていないのだから。

止まない雨は大いなる意思の齎した清めの水。

それはこの星から、星を蝕む人類という種が消えるまで止む事はなく。

霊子ウイルスによって、僅かに残った人々まで丹念に死滅させられた。

科学こそ発展したが、霊子関連の技術は発展してこなかった人類には成す術はなかった。


神々もまた、その多くが消滅した。

人から神と成った存在が真っ先に消えゆき、信仰を糧とする神が次に消えた。

大地が沈んだ事で地を必要とする神も消え、最後に世界中に拡散された霊子ウイルスにより、弱いものは人魂・妖・神、種類を問わず消えていった。


僅かに残ったのは、海で生息する種の一部と、太古の昔から存在する神だけだった。

太古から存在する神々は、前の世界に愛着が強かった者程深く嘆き悲しみ、自ら消滅を選んだ者もいた。

変わらず世界を揺蕩う者もいれば、永き眠りについた者もいた。




そして、数億年が過ぎた。

かつての一方的な浄化の原因を識る神は、同じ大いなる思惟が天から流れてくるのを感じ、永い眠りから目を覚ました。


(……大体、貴様は大雑把に過ぎる。害獣を排除するのに陸地すべてを水没させるなど、美しい景観を保持する観点から見れば、粗雑なやり方に過ぎる。霊子ウイルスだけで十分、その役目は果たせたろうに)

(それでは害獣に穢された星を清めるには足らなかったのだ。かの害獣は随分と穢れに特化しており、星を穢す為だけとしか言えぬような悍ましい物質を大量に生産し、ただの暮らしの中でさえ、日常的に穢れを吐き出し続けていた。あの害獣はおそらくは星のバグだったのだろう。あんな悍ましい生物が存在するとは想像もしなかった事だ)

(確かに、我がかつてこの星を見出した時はなんと景観が良い星かと感心したものだが、貴様が見に来た時には酷い有様だったようだ。全面的な浄化も已む無しか)

(浄化の水は、穢れが消えれば徐々に退くようにしてある故、いずれは陸地も再生されるであろう。ただ、景観を維持するには、今後も定期的に見回った方が良いだろうがな)

(うむ、それもそうだ。美しい景色を守るのは良い事だ)




かつての思惟と別の思惟の思念での会話が流れ、やがて気配が急速に遠のいていった。

星と共に在る古い神はそれを聞いて、もうこの星には以前のように、賑やかで騒がしい色とりどりの文明が繁栄する事はないのだと悟り、哀切に、細く長く重い息をついて、再びゆるりとその瞼を閉じた。

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