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8・運命中途

「ろくに言葉をかわしていない私を助けるために、よく考えもせずに身を投げ出したというのか?」

「まぁ、言葉にするとそうなるかなあ。でも、理屈じゃないでしょ。誰かを助けるなんて、そもそも損得感情じゃないんだし」

 私は、生まれながらの戦士だ。

 戦う使命がある。

 だが……綺堂は違う。

 なぜそんなに、あっけらかんとしていられる?

 なぜ、お前も私を助けてくれたんだ。

 そんな価値……私には……。

「男というのは……みんなそうなのか?」

「え?」

「……いや、何でもない。忘れてくれ」

 言って、手を差し出す。

 いつまでも倒れているわけにはいかないだろう。

「ありがと」

 起き上った綺堂は笑う。

「それで? 説明は? 六角さんの事だって何一つわからないんだけど」

「もうすぐ臨海学校の自由時間も終わる。詳しくは後で話す」

 日がやや傾き始めている。

 この後は、点呼の後、グループごとにコテージに振り分けられるはずだ。

 夜になれば動きようもあるだろう。

「ただ、これだけは覚悟しておけ」

「何を?」

「お前の日常は、もう戻らない。人には生まれながらの役割がある。私が戦士として生を受けたように、お前も放力使いとして生まれた以上、それにふさわしい人生が待ち受けているだろう」

「はぁ……やれやれ」

 綺堂は深々とため息をついた。

「元々、ツイてるほうじゃないとは思ってたけどさ。これからは命がけになりそうだ」

「乗り切るしかない。……二人でな」

「お手柔らかに頼むよ。これでも両親が海外行ってて、妹三人の面倒見てる一家の大黒柱なんだからさ」

「それは……頑張れ」

「投げやりだな……」

 綺堂が笑った。

 つられて私も軽く笑ってしまった。

 今まで、こんな事はなかった。

 私は……自分が変わったと、感じている。

 変えたのは……きっと……

「……ん?」

 林の入り口の方から、人が歩いて来る。

 真っ白い髪が赤い水着にこれでもかというほど映えているので、すぐにそれが誰だかわかった。

 雪ヶ原蛍子、彼女もまたほとんど言葉を交わした事が無い級友だ。

 先天的な白髪らしいが、どことなく漂う神聖な雰囲気と相まってプラチナブロンドのようにも見える。

「……もうすぐ点呼よ」

 静かに、彼女は言った。

 考えてみれば、初めて声を聞いたかもしれない。

 深山幽谷から漏れ出す水のような澄んだ声だった。

「あ、わざわざありがとう」

 綺堂が言うと、雪ヶ原は小さく頷いた。

「……ってよく考えたら、天ケ瀬たちほったらかしにしてた! 急いで戻らないと!」

 級友の出現で、非日常が破られるように日常を思い出したのだろう。

 綺堂は泡を食い、走って行った。

 後には、私と雪ヶ原が残されたが、別に話す事も無い。

 歩き出そうとしたその時――

「……あなたが羨ましい」

「は?」

 不意に雪ヶ原が呟いた。

「何の話だ?」

「……あなたは気付いていない。どれだけ想われているか。人生を丸ごとかけるほどの……」

「何を言っている? ……ああ、綺堂か? 別に逢引きをしていたわけでは無い」

 見た目に似合わず、下世話な勘ぐりが好きなのか?

 ……いや、私に人を見る目が無いのは、ここ最近痛感してばかりだ。

 いい加減、先入観は捨てなければならない。

「……それより、遅れるよ。点呼」

「あ、ああ」

 こちらの言い分を理解したかどうかすらわからないが、雪ヶ原は一人で歩きだした。

 その背を追うように歩く。

 言葉も無く、ただ歩いた。

 すると――

「……ねぇ、あなた運命って信じる?」

 振り返りもしないまま、雪ヶ原は言った。

 藪から棒にも程がある。

「……それを運命と呼ぶかは知らないが、私は人は生まれながらに進むべき道が示されていると思っている。後はそれを全うする覚悟があるかないかだけだろう」

「そう。そうね……私もそう思ってた」

 会話が終わる。

 そして暫く歩き、林を抜けて浜に出た頃、また雪ヶ原が口を開いた。

「なら……無理やり切り開いた道の先には……何が見えるのかしらね」

「そんなもの……誰も見た事の無いものだろう」

「……もしかしたら、その道は他の人の道と交わっているかもしれない。……あなたの道とも、交わるかもしれない」

「お前の言っている事は何一つわからない」

「……わからなくていい。と言うより……教えてあげない」

 振りかえった雪ヶ原が、小さく舌を出したようにも見えた。

 そして、急に走り出して行ってしまった。

 普段もの静かにしていた彼女の突然の行動に、頭がぐわんぐわんと回るのが自覚できた。

 一人、浜辺に取り残される。

 雪ヶ原蛍子という存在が、どんな人間なのか全く分からない。

 一切縛力を感じなかった以上、一般人なのは間違いないが……。

 だが……そんな事はどうでもいい。

 大事なのは、ソウタが遺した言葉通り、綺堂が放力使いだったという事。

 見ていてくれ、ソウタ。

 これから、私は戦い抜いてみせる。

 使命を果たし抜くと約束する。

 そして……お前の敵を、必ず討つ……!

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