6・辞世灰化
「は、はかもろっ!!」
痺れた声が、爆音に掻き消される。
光の本流が辺りにまき散らされ、爆ぜた雷が辺りの木々に飛び散って焦げ跡を次々に作って行く。
爆心地にも似たその暴威の中心に、人影を見た。
人間など吹き飛ばされて肉と炭の塊になりそうなその雷の巣に、はっきり立っている人間がいる。
「うあああああああああっ!?」
それは、綺堂だった。
なぜ?
綺堂の左手が、直撃した雷球を掻き消している。
その手が触れた箇所から雷は縛力へと戻され、余剰なエネルギーが光と化して放出されている。
「ほれは……ほう……りき……」
こんなもの、放力以外有り得ない。
縛力で生み出されたものを、強制的に縛力に戻している。
有り得ない。石油化学製品を強制的に石油に戻すようなものだ。
道理を外れた力。
縛力の反存在、放力。
やはり、ソウタの言った事は、正しかったのだ。
それを確信した時、自分の内から力が湧いてくるように感じた。
「ああ……」
力を求めるように無意識に伸ばした手が、綺堂の右手に触れる。
同時に、綺堂が還元した縛力が、真後ろに立つ私へと流れ込んで来た。
そうか、綺堂は左手で縛力を吸収し、右手で融通できるのだ。
なんと膨大な縛力か。
そして何者にも染まらぬ縛力は、万能の根源でもある。
溢れる力が私の傷を癒し、圧倒的な力となって全身を駆け廻った。
今なら――行ける!
「無魔の生霊、橘丹の陸……覚ませ! 中窪霊戮練刀!」
中窪霊戮練刀の奥の手、全属性解放!
この刀には、同時に属性解放を操る力は無い。
しかし、解放する事は出来る。
つまり、もし解放した属性を、己の縛力で制御できるならば、複属性を操る事が出来るわけだ。
そのために必要な縛力は膨大であり、私では一瞬しかもたない。
が、これだけの縛力の力を借りれば、戦闘には充分!
炎、氷、雷、風、光、闇、振動、活性、そして未だ知られぬ四つの属性が同時に解放され、渾然一体となった虹色の光を放つ。
それは、縛鎖空間の輝きに似ていた。
純粋なる縛力は全てを内包するが故に虹の輝きを持つのかもしれない。
虹の一刀は、綺堂の前で拡散する雷球を引き裂いた。
『!』
皮肉にも“赤い妖精”の威力が大きすぎる事が仇となった。
破壊規模が大きすぎて向こうがどうなっているかを計れないシロウタの前に、それを斬り裂いて私が飛び出すなど想像外だっただろう。
それが生死を分けた。
二の矢を放とうとするシロウタの両腕を虹の煌めきが塵へと変える。
その顔に、全てを悟った色を浮かべた敵の胸に、まるでそうあるべく生まれたかのように、するりと刀が突き立った。
『ごふっ!』
明確な、手ごたえ。
幻などではない。
同時に、私を包んでいた縛力の加護が消え、中窪霊戮練刀もただの刀へと戻る。
心臓を打ち抜いた一刀は、その鼓動まで刀身を通じて伝えていた。
それは既に弱々しくなっている。
『……見事。拙者はこの時を……待っていたやもしれぬ……明治の頃より……』
母に相対する幼子のように、穏やかな顔だった。
こやつが明治の昔にどんな思いを馳せているかはわからない。
『雲よ見よ 長らえし身の 果つる時 屍晒して 芒とならむ』
辞世の句を詠み終わると全く同時に、心臓の鼓動が止まった。
その体は、灰と化して砂の上にどさりと落ちる。
私も、思わずその場に膝をつく……どころか、糸が切れたのかそのまま尻もちまでついてしまった。




