生死と執念と
どんな時でもお腹は空く。
領主を倒した安堵と、エリスの作る料理の匂いに、自分の空腹事情に気づく。
アリアのお腹からも大きな音が聞こえてきて、自然と食事の気分へと切り替わった。
野菜と茹でた腸詰め肉をパンに挟んだ、簡単なサンドイッチをエリスが持ってくる。
エリスにしては時間をかけないお手軽料理だったけど、早く食事にしてアリアと私を引き離したいのだと察した。
そんなこんなで、私たちはサンドイッチをかじりながら帰路につく。
「ん、おいしい」
「……よかった」
ひとりでにつぶやいた言葉を、エリスは聞き逃さない。
小走りで私の前に出てきて、後ろ歩きに頭頂部を見せてきた。
たぶん撫でてくれという意思表示だろうけど、今の私はアリアの事が気になって相手をしてやれない。
事あるごとにアリアを見て、辛そうにしていないかを確認。
今のアリアは血を流しすぎて貧血状態になっており、フラフラになりながら歩いているのだ。
おぶってあげると言っても拒否される。
「アリア、大丈夫なの? なにかして欲しいことは?」
せめて手伝えることはないか聞いてみる。
すると、ゆっくりした動作で手を出してきた。
「なに? 手をつなぎたいの?」
日の光が眩しそうに、目を線のように細めたアリアがうなずく。
持たされたサンドイッチは一口も進んでいない。
お腹は空いているけど、食べるほどの元気がないようだ。
かなり調子が悪そう。
出来るだけアリアの意思を優先させようと、すぐにアリアの手を取った。
指を絡めて、勝手にどこかに行かないようにしっかり固定する。
「あともう少しだからがんばって」
向かう先は宿屋。
これまで私たちが滞在していたところだ。
従業員は全滅しているけど、建物がすばらしいことに変わりはない。
アリアの着替えを用意するのと、おフロで汚れを落とすのを目的に歩いている。
寝起きのような表情で、のっそり歩くアリアを誘導し、普通の倍の時間をかけて宿屋に着いた。
ほぼ私がアリアを担いでいるような状態で階段をのぼり、泊まっていた部屋に入る。
リビングの一番近いソファに、崩れるように座り込むアリア。
座っているのも辛いのか、ふぅ、と一息ついてそのまま横になってしまた。
「やっぱりムリしてたよね」
「……わたしげんきいっぱい」
なんでそんなに空元気を見せるのだろう。
大人しく私におんぶされればよかったのに。
アリアを見ると、もう寝てしまったらしく、手持ち無沙汰になる。
なにかやることがないか考えていると、ポケットに入れていた首飾りを思い出す。
そうだ、まずコレを洗わないと。
領主エキスが染み付いたまんまだった。
「……お湯、沸かしてこようか?」
「できるの?」
エリスが気を利かせて、おフロを再稼働させることを提案する。
バルコニーの真下にある湯沸かし室は、ひとが3人いないと成立しない。
しかも屈強な男の仕事だから、非力なエリスには難しいだろう。
「……リルフィのためなら」
そう言ってくれたので、お願いした。
でも、最初に入るのはアリアになるかもしれない。
アリアには血を流してもらって、ゆっくりして欲しい。
そうするとまたエリスが不機嫌になってしまうけど、我慢してもらおう。
エリスが部屋を出ていったところを見送り、私もバルコニーのプールに移動する。
プールで遊ぶことはないだろうから、洗い場として使おう。
首飾りをつまんで、水の中に入れる。
そのまま揺らしていると、白い粉とか灰色の粉とかが水中に霧散していくのが見える。
超汚い。
汚れが見えなくなってからは、両手を使って見えない汚れを落とした。
ぬるぬるしていて気持ち悪かったけど、次第につるつるになっていく。
水から引き上げてみると、見違えたようにキレイになった。
「これなら着けられるかな」
細く、黒い革のような材質でできた首飾りは、水はけがよく、拭いてすぐに乾いた。
また呪われないかと、恐る恐る首にまわして装着。
触れていても大丈夫だから、装備しても問題ないのは分かるけど。
水で冷やされた首飾りが肌に触れて、鳥肌が立つ。
……それ以外には、なんともなかった。
魔剣エリスフィアを持ったときのように、身体強化がなされる感覚もない。
精霊さんと契約をした気がするんだけど。
私の妄想?
契約した気がするだけで、実際の内容は記憶にないし、この首飾りの名前も分からない。
やっぱりただのアクセサリーだったのではないか。
もしそうだったらまた探しに行かなきゃ。
面倒だな。
待っていたら出てこないかな。
そう思って意識を首飾りから外し、遠くの山々をボーッと眺める。
終わったんだなぁ。
——のそり。
塀のフチで何かが動いたような。
その方向を見つめていると、やっぱり動くものがあった。
——ぺた、ぺた。
精霊さんが来たのかな、と思って出迎えの姿勢をとる。
塀に見えるのは二つの手。
その両手にチカラが入り、本体が姿を現わす——。
「リ゛ルフィさまああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
……その姿を見て、私は魔剣を手にした。
死んだはずの領主ソフィア・グロサルトが、這い出てきたのだ。
「みぃぃぃぃつうぅぅぅぅけぇぇぇたぁぁぁぁ❤︎」
ボロボロの服、髪、肌、声。
ソフィア・グロサルトという人間の全てを捨てて、それは私の元に近寄ってきた。
「すき、すき、すき、す゛、き゛ぃぃぃぃぃ❤︎❤︎」
熱烈なラブコールを受けながら、領主が手を向けてくる。
「——なっ!?」
それは魔法の合図だった。
詠唱もなく放たれた魔力の塊は、火となり、水となり、石となり、風となって。
あらゆる現象に置き換わった魔法が、私を襲ってきた。
不意をついて放たれた、エルフィード貴族の魔法。
下級の魔法だけではなくて、上位の魔法に匹敵するものも混じっている。
下級魔法だけなら防げたかもしれない。
上級魔法がひとつだけだったら防げたかもしれない。
しかし、放たれた魔法は上級下級全てが入り混じって、しかも不意打ちのもの。
いくつかの下級魔法は魔剣で防げた。
それでも、目に見えない風の刃が私のふくらはぎを裂き、無数の石弾が防御している急所以外を貫く。
水の魔法は上位になると毒が付加され、その雨粒が傷口にしみこんでくる。
あっという間。
知らないうちに、地面に倒れていた。
毒のせいで体が痺れて動かない。
体から急激に体温が奪われ、死の予感が大急ぎでやってくる。
「……ぁ、ぁ、ゃだ」
走馬灯を見る暇もない。
アリアは部屋で気を失っていて、エリスは別の部屋にいる。
「リルフィさマ゛ぁぁぁ!??!? 愛してくれないのなら、一緒に死にましょぉぉぉぉぉよぉぉぉぉぉ!❤︎!❤︎!」
震えが止まらない。
寒気がする。
これが貴族のチカラだ。
少し魔法が使える程度の兵士よりも、圧倒的な魔力を持つ。
「ソラの果てで、私とリルフィサマの王゛国゛をつくりましょうよぉぉぉ?」
握っているのか触れているのか、手の中にある魔剣の柄が、熱い。
失った分の熱を流し込むかのように熱くなっている。
カラダが熱い。
寒いのに、熱い。
芯から昇ってくる熱で、額から汗が滲んで行くのが分かる。
意識を手放すことを、許してくれない。
このまま目を閉じれば、寒いのも痛いのもなくなるのに。
魔剣の次は、首飾りが熱くなる。
熱くて熱くて外したいけど、ずたずたに砕かれてしまった腕はうごかない。
毒のせいで首も動かせない。
心だけのささやかな抵抗をする。
「ぁ、ありあ、たすけ……っ」
声にならない言葉で他人にすがる。
意識を強制的に繋げられているせいで、死への恐怖が沸く。
「アリアアリアアリアアリアアリアって! 私の人生を台無しにした、その名前を、口にするなっぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
お腹を踏みつけられる。
中身を守る防壁はすでに魔法で引き裂かれ。
領主のヒールが、中へ中へと沈んでいく。
ぷちりぷちりとなにかが切れていく。
私が魔剣で何度も刺してしまったアリアとお揃い。
これでアリアの痛みが分かった。
とてもじゃないけど立っていられない。
寝ていてもつらい。
そのまま領主に、首を、掴まれる。
首飾りを、引っ張られる。
アタマが持ち上がるのが分かる。
痛みも苦しさも鈍くなって来て、視覚だけが情報源。
首飾りを引き千切ろうと、首飾りが両手で握られた。
抵抗するチカラは残っていない。
見ているだけ。
私が殺されるところを、魔剣に、首飾りに、最後まで見させられる。
「かえし、なさいぃぃぃょおおぉぉぉぉぉ」
血が滴り落ちてくる。
誰の?
私の?
領主の?
答えを待っていると、領主の手が膨らんで、膨らむ。
残念ながら首飾りは傷つかず、領主の手がぱんぱんになっちゃった。
故郷のノーザンスティックスで、小さい頃、オモチャにしていた魔物。
パンガエルとよばれる拳大の大きさのカエル。
その魔物に触れると一気にお腹が膨らんで、パンと音をたてて破裂する。
そのパンガエルのように、領主の手が膨張していって。
破裂した。
「がああああぁぁぁぁぁぁぁ、ぁ、ぁ、ぁ」
支えを失い、私のアタマが地面に落ちていく。
それが私のトドメになるのだろう。
意識はハッキリ保ったまま、衝撃を待つ。
「——ワタシはリルフィの所有物。残念ながらアナタは眼中にない。今後のご活躍を祈る所存」
領主でもない、知らない声が聞こえたと思うと、アタマがやわらかいものに着地した。
どうやらまだ死ねないらしい。
「リルフィ、死んじゃだめ。契約したばかりだよ。ワタシはこれからリルフィのことを知りたいのに」
頭上に広がる青い空、それと青い髪。
無表情の少女に、ひざまくらしてもらっているようだ。
「リルフィ、よく見て。観察しよう。観れば全部分かる。フェノタイプを観測して」
少女にアタマを傾けてもらって、領主の姿を捉える。
手首から血を吹き出して、撒き散らす領主。
失った手でなにかを掴もうと、両手を必死に動かしている。
瞳はどこかに行ってしまい、白目だけが見える。
「もっと。仕草だけじゃない。見えるものだけじゃない。リザルトから考察を導いて。本質を見抜くこと」
死にかけのひとによくわからない言葉でアレコレ言うのは、ヒドいと思う。
それでも、私のアタマは、少女の言うことを叶えようと動き始める。
領主の手首から出る血。
どれくらい出ただろう。
思ったより勢いがない。
吹き出すための血が通っていない。
なにも見ていない目。
瞳がどこかに行ってしまい、白目をむいている。
思えば最初からそうだった。
私を襲ってきたようで、実は何も見ていない。
無差別な破壊行為だったのだ。
意味のない動き。
私を道連れにするという意思だけが、領主を動かしている。
そこに思考はない。
領主の魂に刻み込まれた行動。
私に魔法を放ったのも、私を踏みつけたのも、首環を取ろうとしたのも、考えがあってのことではなかった。
私が契約を済ませた王の遺産。
フローリエットの首環を掴んで、領主は拒否されてしまった。
その結果、手を失うことに。
領主を観察し、理解する。
理解をしようとすると、自然とその答えが導き出されるのだ。
これが、フローリエットの首環のチカラ。
知りたいことが、分かるようになる。
本来の能力は、知的欲求を満たすところにある。
暴走すると、その逆のことが起こる。
所有者の欲求を歪ませ、他人にも伝播し、永久に満たされない想いに苦しむことになる。
満たされない欲求が溢れかえって、人間はおかしくなってしまう。
そんな首環の能力も、首環自身が教えてくれた。
観て、疑問に思うだけで、答えが分かる。
そのチカラを、改めて領主に向ける。
——ソフィア・グロサルト。
グロサルト領を治める侯爵家の長女。
その状態は、死。
彼女はすでに死んでいる。
死後1時間が経過している。
感情の暴走が魔力の暴走へと変貌した。
そして、その魔力がついえるまで、彼女は理性を失った魔物として、私を襲った。
死んでいるから、私はもう何もしなくても良い。
助けもいらない。
待っているだけ。
ここで領主を見ているだけで、全てが終わる。
そして、たった今、魔力の灯火が消え。
ソフィア・グロサルトは、完全に動かなくなった。
「そう。そういうふうに、ワタシを使いこなせばいい。そしてワタシにもリルフィのこと、よく教えて。くふふ」
青い髪の少女の言葉を聞いて、そういえばこのひとはヘンタイだったんだと、余計なことを思い出して、私は眠りについた。
・・・・・・・・・・・
——授業の終わりを告げるチャイムの音で、私は目覚める。
上級魔法理論の授業は催眠作用があるのだ。
寝ずにはいられない。
睡眠によって元気になった代償として、期末試験は泣きを見そう。
『リルフィ様? そ、その、ノートを貸してもよろしくてよ?』
名前を呼ばれた方向に首を動かす。
が、途中で動きがストップした。
「リルちゃん、寝てたでしょぉ?」
声の主を確認する前に、アリアがアタマを掴んできて阻止されたのだ。
腕をぐいぐい引っ張られて、講義室の長机から、話しかけてきたひとのいる方と逆から出る。
『リ、リルフィ様……』
「なんか私呼ばれてる」
「リルちゃん、それは空耳だよ」
アリアが手を離してくれたので、振り返ってみる。
しかしそこにはなにもなかった。
揺れるカーテンの下でごろ寝している女子がいるくらい。
厚化粧、豪華ドレス、手の込んだ髪型。
まさにお手本のようなお貴族様女子だった。
でもお日様にあてられすぎたのか、鼻血を出してしまっていた。
「ね、なにもないでしょ?」
「う、うん」
医務室に連れてった方がいいんじゃないかと思うも、アリアがさっさと教室を出ようと急かしてくるから、放っておくことにした。
「わたしがノートを貸してあげる。実技もおしえてあげる。ぜんぶわたしを頼ってくれればいいんだよ。空耳は無視してね。ヤツラはリルちゃんをよくない所にさそいこんでくるから」
憧れのアリアお嬢様は容姿端麗であるとともに、とっても優秀な子なのだ。
そんなひとが私のような「名前だけ貴族」に構ってくれるなんて、奇跡以外の何者でもない。
嫌われないように精一杯アリアの言うことを聞くのが、この学校で安全に生活する術だ。
「わかったよ。ありがと、アリア」
「〜〜っ!」
差し出してきたノートに手を添えると、その勢いでアリアが抱きついてきた。
……このひとはそっち系のひとなのかもしれない。
入学当初は仲のいいお友達だと思っていたけど。
学年が上がるにつれて、周りで誰々がくっついた、とかいう話が聞こえてくるようになり、私も色々知識がついてきた。
アリアが男のひととどうこう、ってウワサはひとつも聞かないし、実際にアリアが私以外のひとと一緒にいる所を見たことがない。
そう、アリアは私を恋愛対象として見ているのかもしれないのだ。
やけに私へのボディタッチが多いし。
見つめると顔を真っ赤にするし。
女同士でそういうのってあるのかと不思議に思う毎日だけど、もし私の勘違いだったら恥ずかしい。
私の方が意識しているみたいだ。
だからこの疑問は心にしまっておいて、アリアお嬢様のされるがままになっている。
「リルちゃん、お茶行こう!」
「うん」
一日の授業が終わった後のお約束。
アリアとお茶を飲みながら、ボーッと貴族サマたちの動向を観察するのが日課になっている。
でも今日はノートを写して、さらにアリア先生の授業を聞くので終わってしまいそうだ。
初級魔法なら得意だったけど、上級魔法になると全然できなくなってしまった。
理論を理解しても全く使えない。
くしゃみが出そうで出ない時と一緒で、寸前のところで魔法が止まってしまうのだ。
使えないのに、やる意味はあるのかなぁ。
「今日はお花のカフェね!」
「はーい」
アリア様のお心のままに。
お花のカフェは言葉の通り、花壇に囲まれた所にある喫茶場。
貴族の社交場として、学校のいたるところに設置されたカフェのうちのひとつ。
トボトボ歩いていると、花の甘い香りがしてくるようになって、目的地に到着。
『あ、リルフィ様も……こちらにいらっしゃったのですか……!』
席に座ろうとしたところで、さきほどの空耳と同じ声が聞こえた。
今度こそその正体を見破ってやろうと、急に振り向いてみたが、そこにはアリアがいた。
「リルちゃん、飲み物なにがいい?」
「あ、じゃあアールレッドで」
聞かれて、とっさに浮かんだお茶の銘柄を答えた。
まあ、空耳は空耳なのだろう。
気にしない方がいい。
私なんかがアリアお嬢様のお手を煩わせるわけにはいかない。
アリアがするよりも先に、私が近くの店員に目配せをして、席に呼ぶ。
「アリアはなににするの?」
「リルちゃんとおなじの!」
店員に注文をして、机にアリアにもらったノートを広げる。
さすが育ちの良いお嬢様。
いつ見ても綺麗な字のカンペキノート。
「いつも悪いねぇ」
「いいの! いくらでも貸してあげる! むしろ見せたい! リルちゃんは授業中、ずっと寝てて!」
「それは……不良でしょう」
雑談していると、ティーカップが運ばれてきた。
熱いうちに一口いただこうとカップを取ると。
「ちょっと待って」
アリアに止められる。
持っていたカップをテーブルに戻し、アリアの次の行動を見守る。
アリアはカップに入ったお茶のにおいを嗅いで、飲むのではなく、舌の先をちょっとつけた。
「……ん、これ、スイミンヤク」
アリアが小声でなにかをつぶやき、カップをテーブルに置こうとする。
しかし、手を離すのがちょっと早かったのか、中のお茶を盛大にこぼしてしまった。
慌てたアリアが私のお茶までこぼしてしまって、テーブルの上が水浸しに。
「アリア、大丈夫!?」
「えへへ、こぼしちゃった……」
すぐに店員がかけつけてきて、テーブルを拭き、代わりのものを持ってきてくれた。
アリアにはかかっていなかったようで、ヤケドの心配はない。
安心して席に座りなおす。
そして今度はふつうにお茶を飲むアリア。
さっきのはなんだったのだろう。
『くっ、リルフィ様を手に入れる計画が……!』
例の空耳。
やけに物騒な言葉が聞こえた気がして、アリアを見てみると、そっちは頰を染めただけ。
仕方がないから辺りを見回してみたけど、やっぱり何もない。
なんか釈然としないけど、ないものはない。
諦めてノート写しの作業に入ることにした。
『次こそ、次こそは……!』
「はあ、うるさいなあ」
机に向かって数分後、空耳とアリアの声がした。
でもアリアのものにしてはトゲトゲしい言葉で、お嬢様はそんな言葉遣いをしないハズ。
気にしていてもラチがあかないので、もう何も気にせず勉強に集中する。
日が暮れる前に魔法の練習ができるようにしないと。
『リルフィ様、愛しています……』
——学生時代の、夢を見ていた。