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セカイでいちばんのわたし  作者: 風三租
第4章 至福
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ぬいつけてはなさない

 セレスタに引き続き、エリスもここに現れた。

 つまり、この村にはユリアとマリオンもいるハズ。

 ダンジョンで別れたみんなは、いち早く村に行って私たちを待ち伏せしていたのだ。


 そうなると、両親が村の入り口にいた理由も説明できる。

 大方、ユリアが私が来ることを言いふらしていたのだろう。


 私たちがこの村に立ち寄った時に、捕まえるためか。

 冒険者は私を見限って、ついに国家権力に頼り出したのだ。


 もしそれが本当なら、一刻も早くここから離れなければならない。

 冒険者も両親も結託していて、私をここで引き止めて、兵が来る時間を稼いでいるんだ!


 セレスタとエリスは、物理的に私の邪魔をしようとしているのだろう。

 魔剣を持った私に対抗できるのは、エルフか、魔剣そのもの。


 私がエルフよりも実力が劣っていることは、今の戦いで十分に理解した。

 そして、エリスから一方的に契約を打ち切られれば、私はただの一般人に戻ってしまう。

 ユリアにすら勝てない可能性があるのだ。


 二人には逆らえない。

 都合が悪くなったら手段を選ばず逃げるという、村に入る前に立てた計画は見事に打ち砕かれた。


 ああもう!

 打つ手がない!


 目の前では、エリスとセレスタが口論していた。

 セレスタがアリアを害そうと、立ちふさがるエリスを抜こうとする。

 身体強化によってセレスタが一瞬で移動するのだが、エリスは何事もなかったかのように、エルフの首根っこを掴んだ。

 セレスタによる意識を惑わす動きが、通じていないのだ。

 私のような人間には撹乱が有効だが、精霊のエリスには効かないのだろう。


「おまえもアリアのこと、邪魔だと思っているんねん!」

「……確かにそうだけどね、アリアに傷をつけたら、リルフィに嫌われるよ?」

「くっ……!」


 エリスに言いくるめられ、セレスタが身動ぐ。

 エリスの言う通りだ。

 アリアにもしものことがあったら、私は命をかけて犯人を殺す。

 アリアがいない世界で、生きる意味はない。

 自分の人生のほとんどは、アリアと共に過ごしてきたのだ。

 それ以外の生活なんて出来るワケがない。


「……さあ、帰って頭を冷やして。今のセレスタは、リルフィの敵。反省してきて」


 エリスがセレスタにすっぱり言い放つ。

 敵と言われて、泣きそうなセレスタ。


「…………リル、わっちは、諦めんぞ」


 悔しそうに、セレスタは靴箱から私の靴を取り出して、持ち去って行った。

 窓越しに白い姿が遠のいていくのを見送る。

 代わりの靴を用意しないといけない。

 はあ。

 面倒だなあ。


 でも、エリスの登場で状況は好転した。

 結果的に、エリスがセレスタを追い払ったことになる。


 エリスには戦闘の意思が見られない。

 なら、早く帰ってくれないだろうか。


「……フフ、ボクにはボクなりのやり方があるの」


 エリスはアリアに見向きもせずに、私の方に迫ってきた。

 今度はどうなるんだ。

 魔剣を握り直すが、魔剣の精霊に対して意味があることとは思えない。


「……リルフィ、剣を下ろして。ボクはリルフィの味方だよ」


 エリスが剣先に手を触れると、魔剣はすぐに霧散してしまった。

 やっぱり、エリスは魔剣を自在にコントロール出来るんだ。


「……ずっと、会いたかった。剣を通してではなく、こうして触れ合える日を、心待ちにしていた」


 先ほどのセレスタのように、エリスもまた私に抱きついてきた。

 でも、未だ敵意は現れない。


 エリスが私の胸に顔をうずめたまま、時間だけが過ぎていく。

 セレスタにやられた跡が生々しいアリアの姿。

 何よりもまず、アリアを少しでも安全な場所に避難させたい。


「……うん。静かなところに行こうか。ボクが、落ち着けるものを作ってあげる」


 私の考えを読み取ったように、エリスはアリアを介抱して、私の部屋の方へ向かった。

 他人にアリアを任せてはおけない。

 一秒たりとも目を離さないよう、すぐに後を追う。


「……そうだね。ボクじゃなくて、リルフィが見てあげた方が安心するだろう」


 こいつ、絶対に私の考えを読んでいる。

 エリスは魔剣の持ち主に対して、精神干渉が可能だ。

 それは最初に出会った時に思い知らされている。

 エリスが私の心を読むことなんて、造作もないことだろう。


 アリアの身柄がこちらに引き渡されるが、警戒はしたまま。

 エリスのドレスは走りにくいだろうから、スキを見つけて全力疾走で逃げる。


 もしエリスが飛んだり瞬間移動したり出来るなら、逃げ場もないけど。

 エリスの実力は未知数だ。

 とにかく、やってみるしかない。


「……逃げないでね」


 思考を読まれることになれていないから、逃走計画が速攻でバレてしまった。

 やりにくい。


「……じゃあ、部屋でゆっくりしてるといいよ。キッチンを借りるね」


 私とアリアを自室に送りこんで、エリスは行ってしまう。


 今が逃げるチャンス。

 でも、考えも居場所も筒抜けな状態で逃げたって、無意味だ。

 こうなったら、見逃してくれるよう、エリスを説得するのが最善の策だろう。


 悩んでいると、アリアが脇を通り抜けていった。


「リルちゃん、そんなに怒らないで、すわって?」

「アリアは攻撃されたのに、なんでそんな呑気なの!?」


 真っ先にベッドに腰掛けたアリアを、思わず怒鳴ってしまう。

 ところどころに付いた血が、セレスタの容赦の無さを表している。

 打ち所が悪ければ、アリアはもう……!


「わたしはリルちゃんを残して死なないもん。ほら、いまもぴんぴんしてるでしょ?」

「それはエリスが間に入ったから……!」

「でも、生きてる」


 アリアの強引な理論に、言い返せなくなる。

 理屈が通らないから、タチが悪い。


 アリアは勝ち誇ったような顔をして、ベッドから降りて部屋を出ようとした。


「……どこ行くの」


 少しムカついたけど、それとこれとは話が別。

 危険がいっぱいの外で、一人で出歩こうとするのは頭がおかしい。


「おてあらい」

「ダメ」


 排泄の時間は、ひとがもっとも無防備になる時間だ。


「えっリルちゃん。トイレだよ? いいでしょ?」

「ここでして」


 アリアにはことの深刻さが分かっていないようだ。

 見ているところで済ませてもらわないと、また襲撃があった時に助けられないだろう。


「じゃ、じゃあ、リルちゃんもいっしょにお花つみに……」

「こ、こ」


 ゴミ箱をアリアの足元に置いてやって、場所を作ってやる。

 使ってない部屋のゴミ箱だから何も入っていない。

 一思いにやってくれ。


「……ん。……リルちゃん、そういうの、好きなんだよね。わたし、がんばる」


 アリアはわたしに見せつけるように、スカートをゆっくりたくし上げた。

 真っ白な太ももから、可愛らしいおへそまでが、露わになる。

 スカートの端を口でくわえて、手がぱんつへ。


「見せなくていい」

「えっ」


 他人のそういうところは、気になるけど見ちゃダメ。

 私はアリアの安全のために見守っているのであって、排泄行為を観察したら隙だらけになってしまう。


 見たいけど。

 私のいけない欲望が爆発しないように、アリアにはぜひ慎みを持って用を足してほしい。


「でもリルちゃん、いままでも見たそうにしてたよ?」

「してないし!」


 全く心当たりがないことを指摘されて、つい動揺してしまった。

 アリアに図星だと思われる。

 早く言い訳しないと。


「道中は、ちゃんと茂みに隠れてするようにしてたでしょう!」

「でもリルちゃん、気にしてないふりしてちらちらわたしの方、見てた」

「あ、あれは安全確認……!」


 思い返すと数々の痴態を、無意識の内にやってしまったような。

 音とか聞こえちゃったりして、あのアリアの恥ずかしい姿を想像したり。

 マズい、これ以上はボロが出る。


「もう! い、行っていいよ、トイレくらい!」


 思わず、言ってしまった。

 アリアは含み笑いを見せながら、私の横を通り過ぎる。


「見たくなったら、いつでも言ってね」


 悪魔の囁きを残して、私はひとり、部屋に残された。

 ポツンと。

 目の前のゴミ箱を眺めて、私はアリアにさせようとしていたことを省みる。


 自分でもゴミ箱にまたがって、ここでするように言われたアリアの気持ちを考えた。

 これはなかなか、恥ずかしい。

 するべきところじゃないところにカップインさせるという、背徳感あふれる構図。

 アリアさんごめんなさい。


 そんな現場を、音もなく帰ってきたエリスに目撃された。


「……リルフィ、かわいそうに」


 やめて。

 そんな目で見ないで。


 エリスは手に持ったお盆をテーブルに置き、私は熱い抱擁を受けた。


「……よしよし。つらかったねぇ」


 頭をやさしく撫でられる。

 アリアとは違った香り。

 とても安心する。


「……ボクの前では、頑張らなくていいんだよ。ちゃんとしなくても、いいの」


 こんな間抜けな格好をしている私に、温かい言葉を投げかけないでください。

 ゴミ箱の上でナニを頑張ってたというんだ私は。


「……うん、ここじゃあ落ち着かないね」


 エリスに押されて、椅子ではなくベッドに移動することに。

 軽いエリスの体重を押し付けられて、私はベッドに倒れ込んだ。

 その隣に、エリスが横たわる。


「……フフ」


 エリスが嬉しそう。

 私は恥ずかしさから、エリスの方を見ないように努める。


 背後で、エリスがもぞもぞと動いている。


「……リラックスして。体の力を抜くの」


 耳元で、小さなささやき声。


「……目を閉じて。無理しなくていいよ。リルフィは頑張り屋さんだけど、今だけは特別。リルフィのまぶたは、とっても重い。重いから、目が閉じてしまうんだ」


 え、どうしたの。

 何がしたいの。

 まあ、気を紛らわせる感じで、少しだけ付き合ってみようか。


「……そう。リルフィはだんだん、目を開けられなくなる。真っ暗闇。水の中。その中に、リルフィは浮かんでいるよ。ゆらゆら。ふわふわ。リルフィはその中で、リラックスしている」


 言われた通りの情景を想像する。

 水の中で漂っている私。

 聞こえる音は、エリスのささやき声だけ。

 言う通りにしていると、だんだん、体がベッドの上から離れていく感覚に。


「……水の中で、体の力が抜けてくる。力が抜けると、ぽかぽかと暖かくなっていくよ。さん、にぃ、いち、はい。ボクが数えたら、リルフィの体から、力が抜ける。気持ちよくなってくる。さん、にぃ、いち」


 言われた通りに、体の力を抜く。

 足が重い。

 腕が重い。

 胴体が重い。

 頭が重い。

 体が自分のものじゃなくなっていく。


「……ボクの声を聞くと、リルフィは安心する。気持ちいい。ボクの声だけに集中する。さん、にぃ、いち、数えるたびに、リルフィはボクの虜になる。さん、にぃ、いち、もっと気持ちよくなる」


 私はエリスの声で安心する。

 声を聞くたびに気持ちよくなるんだ。

 カウントダウンが終わると、背中がゾクゾク震える。


「……リルフィはボクだけのもの。さん、にぃ、いち。ボクの声で、のぼりつめていく。さん、にぃ、いち……」


 温かい。

 エリスのささやきが、右から、左から。

 声を聞くたびに、快感が蓄積される。

 このままどこまで行ってしまうのか。


「わたしの声を聞くとリルちゃんイっちゃう。さん、にぃ、いち! はいイった!」

「誰だいきなり!」


 エリスじゃないひとの声が聞こえて、飛び起きる。


「……アリアかぁ」


 お手洗いから無事に戻ってきたアリアだ。

 良かった、何もされていない。


「……まだ。ボクの声で、リルフィはどこまでも、遠くに、いけるよ」


 目が覚めたのに、まだ体がふわふわする。

 エリスの声を聞くと、体が勝手に快感を得るようになった。


「リルちゃん? エリスになんかされた?」

「う、ううん」


 これ以上はダメになってしまいそう。

 エリスから逃げるように、ベッドから降りる。

 うう、歩きづらい。

 体が思うように動かない。


「……次に、ボクが数えたら、リルフィは頂点を迎えるよ」


 エリスの声がまとわりつくように、耳に残る。

 小さな声なのに、体が勝手にエリスの言葉を追いかけてしまうのだ。


「さん」


 始まった。

 カウントダウン。


「にぃ」


 怖い。

 どうなってしまうの。

 できるだけ前に進んで、エリスから離れようとする。


「いち」


 あ、ダメだ。

 逃げられない。


「リルフィ、いくんだ」

「——っっ!!」


 エリスの命令で、私の足のつま先から頭のてっぺんまで、快感の波が通り抜けた。

 その後を追うように、足がガクガクと震えて、腰から背中も痙攣して、何度も、脳に、白黒の電撃。

 立っていられない。


「リルちゃん! どうしたの!?」


 こんな姿を、アリアに見られたくない。

 でも見て欲しい。

 アリアの声で、こうして欲しかった。


「……もっと、もっと、いくんだ」


 でも、体はエリスを求めている。

 エリスの言葉で、全身の快感が唸りをあげて、私の自由を奪っていった。


 急激な感覚の変化に、尿意を催す。

 私の体が意思を無視して跳ねるたびに、強くなっていく。


 我慢できそうにない……!

 この歳になっておもらしはイヤだ!


 考えられることは、それだけ。

 快楽で思考が押しつぶされて、とにかくもらさないことだけを考えていた。


 精一杯の力で這って、ゴミ箱まで進む。

 この際アレでもいい。

 私の不浄をきっちり受け止めてもらえるものなら、なんでもいい!


「リルちゃん! イっちゃってるんだね!?」


 お願いだから茶化さないで。

 深刻なんだ。


「すごく、色っぽいよ!」


 尿意のリミットがもうすぐそこまで迫っている。

 ちょっと力を入れただけでも決壊しそう。

 でも私の体は貪欲に快楽を味わい、未だに痙攣が治らない。

 理性と本能のせめぎ合い。


 本能の私は、もうそのまま放水してしまえと言っている。

 理性の私は、せめて服を脱いでからと言っている。


 どっちにしろトイレにいくのは諦めちゃってる。


 なんとか体を起こして、ゴミ箱によりかかった。

 息も絶え絶えに、ズボンを脱いで、そこにまたがる。

 エルフにぱんつを全部盗まれてから、下着を穿いていないのが救いだった。

 もう一枚あったら、間に合わなかった。


「……リルフィ、思いのままに、やっちゃって」


 そうして、エリスの最後のセリフで、体は思いのままに、全てを放出した——。


「なるほど! わたしに、見てほしかったんだね! リルちゃんのきれいな放尿シーン!」


 アリア、あとでお仕置きだ。


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