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セカイでいちばんのわたし  作者: 風三租
第2章 萌芽
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魔物に襲われる貴族を助けるやつ

二章開幕!

引き続きよろしくお願いいたします。

「——やっ! はっ! くらえ!」

「わ! あちょっと待って! リルフィさんタンマタンマ!」


 エルフの住まう幻想の森を抜けた私たちは、エルフィード王国から脱するために旅を続けていた。

 あれから何日か経って、野宿を繰り返す毎日。

 朝はこうして、ユリアさんに剣の稽古をつけてもらっている。


「……ふぅ、あぶないあぶない。リルフィさん、最近すごい速さで成長しますねぇ」

「ユリアさんの教え方がじょーずだからです!」


 最近、ユリアさんの動きがわかるようになってきた。

 今までわざとスキを見せて、私を誘導していたのが分かり、そのためにどうすればいいか考えたりしていて。

 ユリアさんは意外とスキだらけだった。

 ユリアさんが意図していないところを見つけて攻め込んでみると、面白いように戸惑ってくれる。

 やればできるものだ。


「そろそろ、真剣、使わないようにしないとなぁ……。うぅ、中堅冒険者の限界が見えて……」

「ユリアさん! マリオンさんとも戦ってみたいです!」


 初心者冒険者にやられて、だんだん自信を失っていっているようなユリアさんに提案してみる。

 狩りをしたり、道中に現れる魔物と戦うために、私は成長しなきゃいけない。


「ん? アタシはユリアより強いよ? 手加減もできないし」

「ケガしたらアリアに治してもらいます。お願いします!」


 胸がおおきくて動きにくそうなのに、マリオンさんはユリアさんより強いのである。

 ユリアさんの剣は滑らかに、踊るような戦い方をするが、マリオンさんは剣を叩きつけるような脳筋戦法なのだ。


 技術より力を優先させた剣術は手加減のしようがなく、初心者の練習相手としては不適。

 しかし、戦闘の動きがわかってきた私なら、もう大丈夫だろう。

 いろんな相手と渡り合えるようにならないと。


「……ではマリオン、明日からお願いできますか?」

「おーけー。じゃあアタシも準備しておかないと。初心者をいたぶるための、ね?」

「ふふふ」

「ははは」


 二人は強くなった私に嫉妬して、悪い笑みをむけている。

 ぜったい勝ってやる。


『ぎぃやああああああ!!』


 そんな平和な朝をかき乱す、不穏な叫び声が聞こえてきた。


「けっこう近いですね。どうします?」


 ユリアさんが私に聞く。

 国に指名手配されてしまい、人前に姿を見せられない身だから、無理に助ける必要はない、という意味が含まれている。


「行きましょう。いいコトをしていけば、いつか誤解がとけるかもしれないから」


 あわよくばお礼の品をもらって贅沢したい。

 こんなところを通って襲われるのは、護衛をつけなかった商人か、王都と領地を往復する貴族しかいない。

 邪な考えを持ちながら、みんなで声のした方向へ向かう。


「たぁぁすけてくれぇぇぇ!」


 見れば身なりと恰幅のいい男が、アルキブタと呼ばれる、二足歩行のブタの魔物に襲われている。

 4匹のアルキブタは手に棍棒を持って、寄ってたかって男をポコスカ殴っている。

 男が頭を抱えて座り込んでいるおかげで、致命傷は避けられているようだが、なんだかいじめの現場を見ているようだった。


「あ、あの、そこの方、お願いです! リオ・ビザール男爵様を、お助けください!」


 事件現場のそばにある馬車から、長い銀髪のメイドが駆け寄ってきた。

 メイドさんが言うに、どうやらあの男は貴族のようだ。


 ユリアさんにもらったスペアの剣を抜いて、アルキブタに迫る。

 と、アリアに服を引っ張られて止められた。


「リルちゃんリルちゃん、わたしが行くから、危ないことをしないでね」


 アリアはエルフの里を出て、少し雰囲気が変わった。

 前までは周りがまったく見えていないかのような振る舞いだったが、今は少しだけ改善されたのだ。


 私の言うことを聞いてくれるようになったのが、大きな変化である。

 以前のアリアは私の言うことの8割は右から左に聞き流していた感じ。

 それが百発百中、言葉がアリアに命中するようになった。


 エルフの里で暴れた直後のアリアは、私のことを様付けで呼んでいたが、やめるように言い聞かせた。

 そしたら、なんと、素直に直してくれたのだ!


 子が初めて喋ったことに興奮する親の気持ちがわかった気がする。

 これはうれしいものだ。


 あと、アリアが強くなった。

 私の後ろに隠れてシクシクしていたアリアが、頼もしくなっている。

 私を止めてアリアが前に出るのは、アリアに絶対の自信があるということ。


「やぁ!」


 と、アリアが土魔法『石弾』を何個も飛ばして、男爵を囲む魔物を一発で仕留めた。

 このように、エルフが使ってたような無詠唱魔法を平然と使ってしまうのだ。

 無詠唱で魔法を放てるひとなんて、歴史上の偉人でしか聞いたことがない。


 もしかしたらアリア、超強いんじゃないか。

 私が守るはずのアリアに、私が守られているんじゃないか。

 でもでも、守るって言うのは精神的なものもあるし、だいじょうぶだいじょうぶ!

 って自分に言い聞かせて、なんとかアイデンティティを保つ私である。


「リルちゃん、だいじょうぶ? ケガしてない? 痛いところがあったらすぐに言ってよ? そ、そうだ、さっきのお稽古の時のケガも治してないよね。ごめんねリルちゃん、気の利かないばかなわたしでごめんね。いま回復魔法をかけるから!」


 私は一歩も動いてないし、ユリアさんとの稽古でも特にケガはしていないのに。

 慌ててアリアは、私になんども回復魔法をかけてきた。

 スッキリした気分になるが、それだけ。魔力の無駄遣いである。


「アリア……私、どこも悪くないから、いいって」

「はっ……! リルちゃん、そ、そうだよね、ケガなんてしてなかったよね……! わたしの回復魔法、いらなかったね……! ごめんね! わたしのきたない魔力をかけちゃって、本当にごめんね! だから、見捨てないで……?」

「うん、ありがとうアリア」

「リルちゃん! うれしい!」


 聞き分けが良くなったと思ったら、良くなりすぎたような……。

 王族のひとは常識が身についていないのだろう。

 だから私が、まっとうに生きるための常識を教えてあげよう。

 よし、それだ。私の生きる意味を見出した。


「……あの、リオ・ビザール男爵様を助けていただいて、誠にありがとうございます」


 アリア自慢に終始してしまった人助けで、銀髪メイドさんに深いお辞儀を受ける。

 そ、そうだ報酬だ!

 これならたんまりお礼がもらえる……うひひ。

 期待のこもった眼差しで、メイドさんを見つめる。


「リルフィさん……」


 ユリアさんが呆れ混じりのため息をつくが、私は止まらない。

 なんたってビギナー冒険者だ。元貴族だ。

 何日も贅沢できないと、欲求不満に陥ってしまうのだ。


「よろしければ、男爵様にも回復魔法をかけていただけると……」


 あ、忘れてた。

 メイドさんの後ろから痛そうに足を引きずってくるリオ・ビザール男爵さまとやらを、まず治療しなくては。

 アリアばかりに仕事させては私の面目が立たない。

 私が治してやるぞ。


「癒しの光、彼のもの、打ち身を、治療せよ」


 アリアと違って詠唱しなきゃ発動しないけどねー。

 男爵様に手をかざして魔力を込めると、赤黒く変色していた腕の傷が、元の肌色に戻っていった。

 成功だ。


 魔法には火、水、風、土の四種類があり、回復魔法はそのどれにも属さず、独立した魔法体系をとる。

 魔法を発動する時の文法もちょっと変わるので、少しだけ苦手意識がある。


「おお、助かったぞ。そちらは、冒険者とお見受けするが……?」


 痛そうにしていて喋れなかったリオ・ビザール男爵が、今度は元気に話し始める。

 私は自己紹介をするために、冒険者のタグを取り出して見せようとした。

 が。


「……あれ?」


 首にかけていたはずの冒険者タグが、どこにも見当たらない。

 寝ぼけてポケットにしまったかと思って探すが、そこにもない。


 一旦落ち着こう。

 朝、起きてから今までの記憶をさかのぼってみる。

 アリアに寝顔を見られていて、目が覚めて、身支度をした。

 この時に冒険者タグを首にかけたはずだけど、はっきりと覚えているぞ。


 そしてそのまま、エルフにもらった保存食で朝食をとり、そのままユリアさんと稽古だ。

 今までに、首から下げっぱなしのタグを外すタイミングはない。

 じゃあ、どこで落としたんだろう……?


 まあ、あとで探そう。荷袋の中に混じっているかもしれない。

 今はリオ・ビザール男爵様との会話中だ。

 変な間が空いてしまったが、自己紹介を済ませてしまおう。


「すみません。私は冒険者のリルフィです。こちらは、ユリアさん、それでマリオンさん、あと、えーっと」

「……アリア・ヴァース・C・C・エルフィード殿下とお見受けしますが」


 ひぎぃ!

 メイドさんがアリアの本名を先出ししてしまわれた!

 ばれてる!


「あ、いや、他人の空似でして、よく間違われるんですよねーハハハ」

「いえ、問題ございません。命の恩を仇で返すような不義理はいたしませんので」


 メイドさんが冷静にさとしてくれた。

 隣のリオ・ビザール男爵も大きく頷いて、肯定の意を示してくれている。


「殿下がここにおられることは、ビザールの名の下に、決して口外しないと誓おう」


 それを聞いて私は安心する。

 貴族が家名に誓うということは、決して約束を破らない証明である。

 もし破ってしまっても罰則なんて何もないが、自分の誇りを汚してしまう。

 それは貴族にとって、自分の存在価値を捨てているのと一緒であり、それゆえにリオ・ビザール男爵の言うことは信頼できるのだ。


「……それでは、このご恩をお返しするために、屋敷で皆様をもてなしましょう。いいですね、男爵様?」

「うむ。そうだな。殿下、それに冒険者どの、馬車に乗っていただけないか。これなら街に入っても顔を隠せるだろう」


 やった!

 あったかいご飯がもらえる!

 私は努めて真面目な顔をして、メイドの案内にしたがって馬車に乗り込む。

 そんな私にくっついてくるアリアと、苦笑いをしながらくるユリアさん、マリオンさんと。


 四人がけの馬車なので、詰めて詰めて、二人ぶんの席にムリヤリ三人座る。

 私と、ユリアさんと、マリオンさん。そして私のヒザの上に満足そうなアリアだ。

 向かい側にリオ・ビザール男爵が座り終えると、御者席のメイドさんが馬に鞭を打って動き始めた。


「いやあ、なにぶん貧乏な男爵だからなあ。護衛代を渋ったらまんまと襲われてしまったよ——」


 道中、リオ・ビザール男爵と世間話をして時間を潰し、私たちは男爵の屋敷へと赴くこととなった。




 この時の私は、これが私たちを誘拐するための演技だったことに気づいていなかった。

 男爵が魔物に襲われたフリをして、助けにきた私たちをお礼と称して屋敷にさらう手口。


 男爵がアリアを害する気がないのは確かだろう。

 だってこの事件は、冒険者を無差別に誘拐するために仕組まれたものだから。


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