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セカイでいちばんのわたし  作者: 風三租
第1章 衝動
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歓迎ムード

 未だ惰眠を貪るユリアさんとマリオンさんは、大人エルフによって牢屋から運び出され、どっかの建物に安置されることとなった。

 私たちはエルフの白い子に、エルフの里を案内されることに。

 エルフィード人にとっての神様と一緒に歩くなんて、もう緊張でガチガチである。

 アリアは黙り込んでいるので、会話はおもに私とエルフっこでつなぐことになる。


「そういや、おヌシの名前を教えてくんろー? わっちはセレスタ。よろしくのう」

「わ、私はリルフィです。で、こっちは」


 アリアに自己紹介を促すが、どっか別の方向を見ていて会話に入ってこない。

 神様のご機嫌を損ねないように、代わりに私がアリアを紹介する。


「この子はアリア。一緒に旅をする友人でございます」

「えらい無口な子なんじゃなぁ」


 アリアの人見知り? は神様にも発動している。

 出会った時から他人に対してこんな感じだったので、私が代わりに色々するのは慣れたものだ。アリアは私がいなきゃ日常生活が送れないだろう。


 私たちは木の上に作られた足場を歩いて、木から別の木へと移動する。

 それぞれの木に建物が設置されており、エルフの子・セレスタに説明を受ける。

 ここがジャクソンの家、そっちが乾物屋、あそこがマイケルの家、それが酒屋——。

 エルフってなかなかシブい趣味しているなぁ。


「んなぁ、ニンゲンって長生きできないそうじゃが、本当か? いまなんさい?」

「いま14歳です」

「ふぉぉ! わっちよりでかいのに14さい! 大変じゃのぅ!」

「セレスタ、さまは?」

「わっちは42さいじゃ! ヌシらよりずっとオネェチャンじゃが、さま付けはいらんねんな?」


 母親より歳がいってる。

 私よりアタマひとつ分小さくて子供っぽいのに、おばさんだ。

 エルフはとっても長命で、人間の何十、何百倍も長く生きると言われている。

 もしかしたらエルフィード王国の始祖さまも、まだご存命なのかもしれない。


「セレスタさん、はエルフィード王国の始祖さまをご存知で?」

「敬語もやめてくれよぉ」


 ぴょんぴょん跳ねて抗議してくるセレスタさん。

 そんなこと言われても、神様と対面しているわけだから、変な態度は取れない。

 エルフィード人なら誰でもそうだろう。


 でもセレスタさんからご命令をたまわったから、次からは普通に話さなければ。

 神様にタメグチって、すごい緊張する。


「今から千年以上まえに、エルフィードを建国した方って、ご存命なの?」

「んもー。なんでそんなかしこまってるん? ……ばばあなら、里を出てって子を産んで死んだって聞いてるのじゃ」

「そうなんだ……」

「あ、そこなアリアって子は、ばばあとそっくりなんじゃなぁ。わっちもばばあのこと、絵でしか見たことないんで知らんけど」

「アリアが始祖様と似てるって?」


 私が知っている始祖様は、背が高くて、金髪碧眼で、クリクリした髪型をしている。

 対してアリアは、平均的な身長の私より少し小さくて、さらりとした黒髪だ。


「じぃに聞けばわかるんかの? 実はじぃの初恋相手は、ばばあじゃったんやよ!」

「ええ!? あのおじいさんが始祖様の知り合い!?」


 エルフィードが出来たのが今から1500年まえだから、あのおじいさんもそれくらいの歳なんだ!

 上を向いて目を閉じ、歴史の重みを噛みしめる。

 人間が何回も何回も世代交代をして築き上げてきた歴史は、エルフにとって一瞬の出来事なのだろう。

 だから、私たちが神聖視している始祖様は、セレスタさんからしてみると近所のおばさん程度の価値観なのだ。


「あ、じぃん家についたん。メシにすんよー」

「あ、そういえばすごいお腹が空いているんだった」

「ちょーっと睡眠魔法がきき過ぎて、ヌシらまる一日寝てたんじゃよ? はっはっは!」


 人間が使った時の効果時間を軽くこえるエルフの魔法。

 高すぎる魔力をもってすれば、睡眠魔法ですら凶器になり得るだろう。

 エルフが思いっきり力を込めれば、人間は死ぬまで寝てしまうのだ。

 そんなすごい魔法をかけてもらえたなんて、素晴らしい!


「じぃ、村まわってきたんよー」

「おお、ちょうど歓迎会の準備が整ったところじゃ。ささ、お二方、中に入って座りなさい」


 エルフの里の中でもひときわ大きいこの家に、私たちは招かれた。

 これが神の住む家。すなわち神社。

 老人の言葉にしたがって、恐る恐る神社に足を踏み入れると、美味しそうなにおいに包まれた。

 床に置かれた色とりどりの料理に腹の虫が絶叫しはじめ、なりふり構わず食べ物をムサボリたい衝動に駆られる。

 よ、よだれが!


 欲望を悟られないよう、よだれをすすって視線を上げると、そこにはアリアがいた。

 アリア? 後ろについてきているはずのアリアは、今もちゃんとそこにいる。

 前にもアリアがいる。

 正確には、アリアの絵が飾られていた。


「あ、これがばばあじゃけん。初恋相手の絵をいつまでも飾るなんて、じぃは情けないやつじゃのう!」

「こりゃっ! このお方はエルフの里に文化をもたらした偉大なお方じゃぞ。……というのは建前で、メトリィはおっぱいが小さいが美しい女子(おなご)だったんじゃぞ!」

「ああー。ばっちゃんにウワキって言いつけたる〜。ばっちゃーん!」


 セレスタさんが家の奥に駆けて行ってしまう。

 残された老人は、えろい目でこちらを、特にアリアを舐め回すように見てきた。

 すかさず隠す。


「あ〜いいの〜ぅ。黒髪のお嬢ちゃんの方は、メトリィの孫かなんかかぇ?」


 メトリィとは、始祖様の名前である。

 その直系の子孫にあるということは、すなわち王族であることを意味する。

 まだアリアの口から直接、家柄について聞かされたことはない。なので、私もちょっと気になる。


「…………リルちゃん。わたしは、ただのアリアだよ。あんなのの言うことは聞いちゃダメ」


 神様をあんなのと言い切って、ものすごい形相で老人を睨みつけたアリア。

 触れちゃいけない話題だったかな。

 雰囲気を壊さないためにも、早くこの話題を切り上げることにする。


「すみません。あまりアリアの身の上については聞かないでいただけると……」

「ほっほっほ! 冗談じゃ! そんな怖い顔せんでくれ!」


 失礼な態度をとったにも関わらず、老人は笑って許してくれたので安心した。

 さすが年の功と行ったところか、包容力がある。


「しかし残念じゃのう。おっぱいの小さいところまでそっくりじゃのに」


 包容力があるんじゃない。デリカシーがないだけだ。

 私が神様の新事実を発見していると、アリアが私の手を引っ張って、自らの胸にあてがった。

 おお。……おお?


「ちっちゃくないでしょ!?」

「あ、うん、えっと、ユリアさんには、勝ってると……思うよ」

「あの女のも触ったの!?」

「いや、見た目で判断しただけだけど」


 今後、成長する可能性を含めればアリアの圧勝だ! 心配しないで! だいじょーぶ!

 ご飯をいっぱい食べて、私と一緒に頑張ろう!


「じぃ! 料理が冷めるんで早く食べろって! ばっちゃんが!」

「はいよ。……さあさお二方、座ってくだされ」


 ついにこの空腹から解放される時がきた。

 雑談が終わったことに感謝して、すぐに地べたに座り込んで料理を眺める。

 うさぎのシチューに山菜の煮物、川魚のムニエルやイモのサラダなどなど。

 数々の手が込んだ料理が目の前に並べられて、よだれの奔流が止まらない。


「わっちは他ん二人も呼んでくんねん! さき始めちゃって!」

「はいはい。ではお二方、積もる話は後にして、存分に楽しんでくだされ」


 深い眠りについていたので別の場所に搬送されていたユリアさんとマリオンさん。

 きっと他のエルフが魔法を解いたのだろう。

 二人には悪いが、溢れ出る食欲をもう抑えられそうにない。

 老人から飲み物を受け取って、食事を楽しむことにした。

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