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02 イタズラな出会い

彼女と初めて会ったのは、二週間前のことだった。進級試験よりすこし早く終わる卒業試験を終え、唯一の高等部と中等部の共同使用場所となっている中庭を散歩していた時のこと。放課後だったうえに、他学年はもう進級試験のことでいっぱいいっぱいだ。中庭で危険なく練習できるのなんて下位の呪文くらいだし、わざわざあんなところで勉強をする人はいないだろうと踏んだレヴァンは中庭へと向かったのだった。行ってみたらばそこにいたのは高等部の制服をきたアカシアで、練習をしていたのは、高等部ともなればできて当然、あたりまえであるはずの下位魔法だったのだが。

 レヴァンは高等部になってもできない人はいるんだな、なんていう感想を持ちながら、その横を通り過ぎる。ただ通り過ぎるはずだったのだが、あろうことかその先輩の方から冷たい水が飛んできたのだ。頭から冷たい水を被ったうえ、水圧に押されその場に倒れこんだレヴァンは怒りを込めてその先輩の方を向く。慌てて駆け寄ってきた、自分より小さめな背と、自分の黒髪とは似ても似つかない薄い茶色の髪。文句の一つでも言ってやろうかと思っていたレヴァンが一瞬押し黙る。顔の前で手を合わせ大きな声で謝ってきた。

『ごめん、大丈夫!? 呪文、失敗しちゃって……』

 その不安そうな真っ赤な瞳に魅入られたレヴァンが何をこたえる前に、火の玉を出現させる呪文を詠唱した彼女は、その途中で呪文を“噛んだ”。

 ーー………直後、中途半端に込められた魔力が暴走して、二人の間にぼふっと火の粉が舞い散ったのだった。目の前には、ぱちぱちと目をしばたかせて驚いている、目の色が美しいその先輩がいて、もう一度小さくごめんと謝ったのだった。


『誰だかわかんないけど、本当に巻き込んじゃってごめん!! あたし呪文が苦手でさ、いっつも失敗しちゃって……』



(………それが、始まりだったっけか。それにしても俺、どうしてこんな人に一瞬でも魅入ったんだろう)

 横で体育の準備体操のような運動を繰り返し、ぴょんぴょんと跳ね回るそのお転婆でお茶目な先輩に、初めて会った時見惚れたのは事実だった。自然に出てきた感想は、「大人しくてかわいい」だったのだが……今の印象と比べるとだいぶ差がある。自分も軽く腕を回しながら考えていると、よし、あったまってきたぞー、と隣から声が聞こえて来た。

「それじゃ、練習再開でいい? レヴァン」

「先輩の体が冷えてなきゃ大丈夫です」

「あたしならヘーキヘーキ! それじゃ呪文練習しよー!!」

 そう言ったアカシアが、くるりとレヴァンに背を向ける。手を前に掲げて、魔力をそこに集中させ始めた。

 あの時、手伝うと口出しししたのは自分でも何故だかわからない。進級試験前だというのに基本中の基本、下位魔法すら“噛む”と言う謎の失敗によって出来ない人がいるなんて、と興味を持ったこともあるし、純粋に手助けがしたかったのかもしれない。暇を持て余していたというのももちろんあるのだが、イマイチどれもレヴァンが手伝うと口に出した理由ではない気がした。いちばんの理由は自分でもわからない。いや、分かりたくないのかもしれない。

「それじゃ、もう一回水の魔法で!」

「こんどこそ噛まないでくださいね。魔力を込めるタイミングやらなんやらもバッチリですから」

「了解!」

 そういって小さな声で詠唱を始めたアカシアの魔力の向きが、明らかにおかしいことにレヴァンが気が付いたのは、詠唱が半分を超えたところだった。慌てて跳ね返しの魔法陣を足元に描き、ついでにアカシアの足元にも陣を描く。

「“精霊よ、われの心にこちゃ”えろッ………」

「“こたえろ”ですよ、先輩」

「知って、る!」

 結局、魔法が失敗に終わるのは、レヴァンの予想範囲内だった。結局また暴走した魔力は、不自然に曲がった道をたどりレヴァンの方に向いている。気が付いていたレヴァンは、あらかじめ用意しておいた跳ね返しの魔法陣を発動させた。これはあんまり役に立つ魔法ではなく、本当に下位の下位魔法しか跳ね返すことはできないが、アカシア相手ならばこれで十分だ。水がバチンと音を立ててアカシアにむかって跳ね返っていく。ここでレヴァンはもう一つの、アカシアの足もとの陣にも魔力を与えた。アカシアが振り返った瞬間、自身へ向かってくる水に驚いたのか、目を見開いて腕で自分の体をガードしようとした。しかし、ぶつかった水はレヴァンの計らいによって跳ね返る。その水滴は再びレヴァンにぶつかる前に、魔力が足りなくなり空中で離散した。

「………先輩? 言い逃れはできませんよ、今のはわざとですよね? 馬鹿なんですか? それでも本当に十五歳ですか? 本当に俺の先輩ですか?」

 じとっとした視線を向けてじりじりと近寄れば、それに合わせて一歩引くアカシア。にこりと笑っていない笑いを浮かべたレヴァンの言葉に、アカシアはわかりやすく目をそらして答えた。

「え、えー? 何のことかなぁ? アカシアちゃん、馬鹿だからわかんなーい!!」

「ふざけないでください。殴りますよ」

「ちょ、ストップストップ! ごめんごめん!! 今のはわざとでしたごめんなさい!!」

「俺が気が付いて跳ね返してなきゃまたずぶぬれですよ! あんたは俺に風邪をひかせたいんですか!!」

「ちがうって! 冗談だよー! ほら、ずっと真面目に練習してても面白くないでしょ? ちょっと緊張を和らげてあげようと………」

「あんたといて緊張なんてしませんからむしろ呆れてますから! まったく、どっちが先輩ですか!!」

「生意気なこと言わないでよ、あたしが先輩だよ!」

「んなこと知ってます。生意気ですみませんね!!」

 本来ならば先輩にこんな口をきくのはよろしくないのだろうが、アカシアはそういったことを一切気にしていない模様なので遠慮なくツッコミを入れる。お堅い頭しちゃって、とむくれたアカシアを見て、レヴァンは腕を組んでため息をついた。本当に、どっちが先輩だか!

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