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番外編 はじまりのきもち

閑話です。アカシアの思い出。

『誰だかわかんないけど、本当に巻き込んじゃってごめん!! あたし呪文が苦手でさ、いっつも失敗しちゃって……』


誰だかわからないなんて嘘だ。呪文が苦手だなんて大嘘だ。クラスマッチ代表、魔法対戦部一年キャプテン、中等部の時はクラスマッチ優勝……。こんな戦績を持っているからには、あの時のことを覚えていなくても、顔を知られていてもおかしくはない。そんな賭けに、嘘に、彼は見事に騙されてくれた。


それは、アカシアの憧れが初恋に変わっていく日々のはじまりだった。




◇ ◇ ◇



「危な、」


 全ての始まり、それはとある昼休みだった。自分の方へと向かってくる電撃の塊に驚いて腰を抜かしたアカシアは、一切合切防御の体制をとることができていなかった。それを打ったらしい男子たちが、やばい、と言いたげな顔をしているのも見えるが、防御の呪文を口から紡ぐのも、防御壁をつくる魔法陣を簡易で描くのも気が動転しているアカシアには難しかった。

 反射で固く目を瞑り衝撃に耐えようとしたが、その必要はなかった。


「いっ!!」


 ぱちん、と指のなる音がして、目の前に防御壁が張られたらしく、電撃が跳ね返される音がした。地面にぶつかったのか、思わず開いた目にばちりと光が見えた。それよりもアカシアの目を奪ったのは、目の前にいる一人の男子生徒。ネクタイの色からしておそらく、後輩だろう。

(呪文の短縮……! この人、指を鳴らしただけであの魔法壁を作った……?!)

 凄い、と目を見張ったアカシアに、その彼は振りかえって声をかけてきた。


「大丈夫ですか?! おい、お前らも謝れよ、このひと腰抜かしてるぞ!」

「あっ、ううん、大丈夫! ちょっとびっくりしただけ!」

 

 それだけだから、とあわてて言うと、向こうにいた男子生徒たちもぺこりと謝ってくる。アカシアを庇ったその男子生徒はアカシアの手を引いて助け起こすと、最後にぺこりと会釈をして去っていく。その去り際に、アカシアに電撃をぶつけそうだった男子生徒と、庇ってくれた男子生徒の会話が聞こえてくる。


「ありがとな、ギオート! 助かった!」

「いいけど……気をつけろよ、つーか大変なのは俺じゃなくてあの人だし」

「相変わらずお人よしだな、ギオート……」

「悪いかよ」

「幼馴染に影響受けてるよなー。ミラノちゃんだっけ?」

「………悪いかよ」


 はあ、とため息をつきつつも楽し気にしているその、"ギオート"という男子生徒の存在が頭に焼き付いたのは、その時のことだった。



◇ ◇ ◇



「2年4組代表、レヴァン選手、リントーネ選手!」

 

 次に彼を見たのが、中等部卒業直前、最後の年度末クラスマッチだった。2学年の中で彼はそれなりに強いようで、しかし魔法対戦部では見かけてない顔だから彼は独学で強くなったのだろう。2年の代表生徒はほとんどがアカシアの後輩、魔法対戦部の部員だというのに、彼はそのなかでも順調に勝ち進んで、ベスト4に入り込んだ。同じクラスのリントーネが1位を取ったようで、総合1位になったらしい2年4組の面々に囲まれて照れ笑いをしているレヴァンを見たのだった。

「アカシア、何見てるの?」

「ちょっと、可愛い後輩がいてさ」

「……ああ、リントーネちゃん? 確かにかわいいよね、てか優勝してるじゃん!」

 彼女の先輩として誇らしいんでしょ、と友達に言われて、アカシアはまぁね、と笑った。


 その日の放課後だった。人気のない階段の踊り場から、誰かが告白をしている声が聞こえてきたのは。アカシアはたまたまそこにいただけなのだが、聞いちゃいけないようなことを聞いているようで、しかし野次馬精神が勝り、そこにいるらしい人から見えない柱の陰、その場所でついつい話を聞いてしまったのだ。


「好きだよ、ギオート」

「………え、」

「…あんたが良ければ、付き合ってくれないかな」

「っと………」

「………返事は」

「………ごめん、俺、お前のことは嫌いじゃないけど…お前の好きとは、違うと思う」


 アカシアは、思わず身を固くした、声を聴いてすぐに分かった、彼女はリントーネだ。そして告白をされているのは、……あの、レヴァン・ギオート。早く立ち去らなければ、と思いつつ、しかし足が動かない。ものがたりとしてしか読んだことのなかったその微妙な心の動きに動揺しながら、アカシアは顔を引きつらせる。


「……煮え切らない返事。で、付き合ってくれんの、付き合ってくれないの?」

「…無理。ごめん」


 リントーネがはあ、とため息をついたのが聞こえた。そうだと思ってたけどさ、と声がして、リントーネが何やらアカシアには聞こえない声量でレヴァンに声をかけた。うん、とレヴァンが返事し、リントーネが階段を駆け下りていく音が聞こえる。……確かに微妙な返事の仕方かたであることは確かだが、しかし。アカシアはまるで自分のことのように胸が締め付けられるのを感じた。


リントーネと入れ替わるようにしてもうひとり、誰かの足音が聞こえてきた。その足音はレヴァンを見つけたらしくレヴァンに何やら声をかけ、やがてふたりぶんの足音は消えていく。アカシアは、どうしていいかわからないまま、そのあとの中等部生活で彼を見かけることはなかった。



◇ ◇ ◇



「好きな人の話が聞きたい」

「え、レイちゃんどうしたのいきなり。恋愛相談されても、あたしわかんないよ」

「違う、あんたにいってんの、あんたの好きなひとの話が聞きたい」

「………いないけど」


 高等部にはいって約一年。アカシアは恋愛事とは関わらないまま高等部の生活を送っていた。友達のその言葉で、ぱっと思い出したのはレヴァンのことだった。一年以上顔も合わせていないし、おそらく彼の方は自分のことを覚えてもいないだろう。なんで好きな人と言われて彼が思い浮かぶのか、アカシアにはわかっていなかった。


「えっ、何その間。いんの? いんの?!」

「いないって!」

「だれだれだれ、同級生、後輩、先輩?」


 いないんだってば、と迫ってくるレイを躱して、アカシアは首を振った。


「ええー、だってさっき一瞬、迷ってたじゃん、アカシア。いるのかと思ったよ」

「迷ったっていうか……ちょっと後輩の顔が思い浮かんだけど、別に話したことも一回だけだし、相手はあたしを忘れてるだろうし、まずあたしが今さっきまで忘れてた顔だよ。そいつが思い浮かんだだけ」

 

 だから好きな相手はいない、とレイに念を押せば、レイは面白くなさそうに手を振った。しかしその直後、にやりと口角をあげてアカシアに迫ってくる。


「その子のこと、好きなんでしよ! そうじゃなくても気になってるんでしょ!」

「レイちゃん、話聞いてた? だからあの後輩のことは、何とも……」

「べつにそれでもいんじゃないの? 久々に会いに行ってみれば?」

「はあ? どうして…」

「ひとめぼれ、っていうのもこの世には有るしさあ! 一年以上会ってないのにぱっと顔が思い浮かぶって相当じゃない? アカシアにいつまでたっても春が来ないのは、友人としてなんていうんだろ、あれだし。 その子が誰だかわかんないけど、会う価値くらいあると思うよ?」

「いいよいいよ、別に恋したいとか、そういうのないしさ!」

「勿体ないなぁ、こんなかわいい顔してるのに!」

「ちょっといきなりほっぺたつかまないでよ、レイちゃん!!」



◇ ◇ ◇


 誰もいない放課後の図書室で、先に話し始めたのはレヴァンだった。


「……そういえば先輩、俺のこと中等部の時に知ったって言ってましたよね。正直、アカシア先輩を助けた記憶、ないんですけど…」

「まあほぼ喋ってないし! レヴァンは人助けが好きだから、覚えてないのも無理ないんじゃないの?」

「逆にそれ、よく覚えてましたよね……。二年くらい前のことでしょう?」

「まぁね! あたしのほうは他にも、あんたが印象に残ることがあったんだけど……」

 

 え、なんですか? と不思議そうな顔をしたレヴァンに、アカシアは笑って言った。ひみつだよ、と。


「まーたそれですか……先輩、嘘ついたり秘密多かったりするから、先輩のことよく知らないですよ、俺」

「いーんじゃない? いずれ教えてあげるよ」


 飄々とそういってのければ、レヴァンははあとため息をついた。その様子を見てアカシアがくすりと笑えば、レヴァンも苦笑いする。(まぁ、告白をのぞき見しちゃったことは教えてあげてもいいけど)とアカシアは考えた。



(初恋もまだっぽいウブな後輩……なんて言っちゃったからには、黙っとこうかな。あたしの初恋も君だってこと)


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