7ー塔の番人
もぞもぞ。
眠い。起きたくない、もう少し寝ていたい。あったかいお布団に包まれて夢うつつ。
そんな時諸君はどうする?もう一度寝るか?それともアラームを設定しなおして寝ちゃうか?
正解なんてないし、どれでもどんな答えでも別に文句は言わないが。
ちなみに廃人プレイヤー事俺君ならこうする。
俺だったらまずゲームのゲーム。更にゲームをして時間を有意義に使うね。
Lvあげて、アイテム堀りに行って、永遠と繰り返すこと数時間。最高だ。
何を言ってんだこいつ、なんて想うかもしれないが俺の睡眠時間はそうやって使われてきたんだ。
今後も変えるつもりは無い!とは思ったが現在進行形で俺はベットに横になっている。
おかしいな。先程述べたことと違う気がする。気のせいではない。違うのだ。
何故かと言えば数時間前『幼女虐待』の大罪を犯した奴が休憩を薦めてくれたからだ。
正直下手をすれば死んで無くなってたかもしれない命だ。ゆっくり休んで減った体力を回復させる。
そして。
「スキあらばあいつをぶっころす」
幼女に対してあのような無礼。断じて許さん。中身がおっさんだろうが、声優が二十歳過ぎのおにゃのこだろうが、幼女は幼女なのだ。幼女足りえるからこそ幼女であり、その幼女の愛くるしさに・・・奴のそのの冒涜、罪は決して赦されん。そう、紳士ゆえに、紳士がために、100年だろうが1000年だろうが、そんな大きな一生でもっても償いきれない大罪だ。許さん。
決心を平らな胸に、やたら無駄にぎしぎり鳴るベットから上体を起こして衣服を探す。
胸を観察するのも良いが、あいつの正体を把握しなくては今後楽しめんからな。
俺は嫌いなモノから食べるタイプだし、好きなものはあとでじっくり味わう。
それこそ数時間掛けてもだ。だから嫌いなモノは徹底的に潰す。
周辺を見回すと、綺麗に折りたたまれた初心者ルーキーが着る衣類を発見。
上級者が見れば吹き出すか、苦笑いするだろうこの装備は俺の全財産だ。
無くせば裸の王様をしなくてはならなくなる。そんな変態行為は嫌だ。
それに気高き童女の穢れなき白き珠の様な美しい柔いこの肌。どれだけの財を築こうと、決して手には入らないだろう。少し拝めただけでも地にひれ伏し、頭をこすりつけながら『ありがとうございます』というべきだ。それを超え触れた癖・・・首を絞めあげるなど・・・万死だ・・・。万死に値する。
言い過ぎたかもしれないが俺はそう思う。
立ち上がり畳まれた冒険者装備を身に纏う。
マントからパンツまできっちり装備をし、身支度を終える。鏡の前でターン。決めポーズにウィンクを。ばっちりだ、さぁ行こう処刑しにレッツゴー。
あいつの気配は臭いを辿って行けば分かる。残り香とも言うな。しかしこんな濃厚で臭いのを残り香などと言うのは正直無礼だと思う。優雅でないしな、関係は無いが。
「ようやく起きたのかい?遅かったねえ」
ウザい声と共に出迎えてくれた大柄のこいつは食堂のような場所の一角に座ってた。具体的に言えば大食堂にあるボッチ専用な隅っこの席だ。まあ俺から5歩先に奴は居座ってるんだがな。
「服を探してたんでな。乙女には少し時間が必要なんだ」
「乙女?冗談きついねぇ」
「・・・」
こいつはマジで殺す。それだけは決定事項だ・・・。NPCだろうがプレイヤーだろうが関係などない。この誇りにかけて潰す。
「ところでお前はNPCか?表記がないんで気になってたんだが・・・一般プレイヤーか?」
NPCには独自に表記が施されているものだ。役職によって枠内の模様や色が違う。個々の識別を簡易的に行う事ができるこれらの設定は改善に改善を重ねた結果行き着いた、と公式HPにも載っている。俺的にも大賛成なのだが最初は覚えることが多くて戸惑ったものだ。
で、現在目の前に立っているこのモノ。人型で人語を話せるからといってNPCかプレイヤーかに判断されるか、といえば否である。実はモンスターの一部には人語を話せる種があるという。だが誰もお目に掛かったことがないためとりあえず論で存在するだけだ。
だけど正直モンスター・・・、とは思いたくない。現在の装備は貧弱そのもの。味方は多いほうがいいし、人語を話せるんだからある程度は分かり合えるかもしれん。ペドなら殺すか消す必要があるが、後でいいだろう。
「NPC?一般プレイヤー?」
「ああそうだ。どちらかな」
「すまないが聞いたことがない単語だねえ」
「・・・真面目に言っているのか?」
基本的に駆け出しの冒険者ならば知らないのも無理は無いが、RPGを少しでも齧っていれば 知らないなんぞありえない。それに俺を軽々と投げられた腕力だ。腕力はステータス依存となるが、幼児の20~30kgを投げるともなればlvは10~30となる。能力の上がり具合は職とステータスの割り振りによって異なるがおおよそこんなものだ。
本題はlvが10以上30未満はある程度の専門ワードは網羅しているはず。覚えずにこのゲームは成り立たないし進まない。ところがこいつは知らないという。どういうことだ?
「お前lvはいくつだ?」
「lvか・・・lvねえ」
なんだか答えを渋っているが・・・。lvを言うのが恥ずかしいのか、それともただ単に言いたくないだけなのか。どちらにしよlvで検討は付く。
「lvは無いよ」
「そうか無いのk」
無いのか・・・無いのか・・・?え?
「いやでもNPCじゃないよな・・・?」
肝心のNPCという文字がどこにもない。
「え、ていうか名前・・・」
名前すらもない!?なんだこいつ!?
「名前は無いさ。NPCなるものは知らないけど僕はオートマタ。古代の遺物と呼ばれてるね」
「遺物・・・?人ではないのか?」
「あ、そうそうヒト種!ヒト種について話そうと待ってたんだよ」
「・・・ヒト種?」
「そうヒト種」
疑問が色々とあるが、先に遺物の話を聞こう。何やら嬉しそうだ。
「僕はね、ヒト種の保全のために存在している。この塔に見つけたヒト種を保管し、存続、繁栄をさせるためにいるんだ。分かるかい?」
わかんねえよ。
「ヒト種?なんて沢山いるだろう?何を言うんだ」
そこらかしこにプレイヤーとして点在しているだろうに何をいっているんだ。
「いやいやヒト種は絶滅の危機に直面したんだよ?数年ほど前にさ」
「・・・信じられないんだが。」
「まあヒト種の未熟固体の君には分からないかもしれないけど、大きな自然災害があってね。その影響で多くのヒト種は絶命したんだ。原因は分からないんだけど」
えと・・・。別のゲームに来ちゃったのかな?多分何かを間違えたんだろうね。そう、例えばソフトを間違えたんだ。選択を間違えて別のゲームをプレイしているんだ。さもなくばこんなおかしな展開ありえない。
「・・・・・・それで、仮にそうだったとして。お前は何?」
「だから僕は種の保全が目的なんだよね。」
「それだけ?」
遺物は軽くため息を吐くようにしてから。
「塔の番人をしているね。それこそ掃除から監視、敵勢力の排除も担っているねえ」
「塔・・・?」
塔とは多分俺がいる場所だと思う。ここの食堂もレンガ造り、道中の壁もレンガレンガレンガ。灰色一色だった。この場所の番人ということは・・・。
「おい、他の人は?」
「いないね」
なんでだよ!?
「おかしいだろ!?」
「まあ。僕も遺憾なんだけど、最近目覚めたばかりでね」
やれやれと仕草する異物。もとい遺物。
「既に城内は蹂躙された後で、生存者は居なかった。それで外に出てみれば君が大変な目にあっててさ・・・プログラムの命で保護したわけだ」
「何があったんだ」
「分かれば苦労はしないよねえ・・・」
番人の割に役に立たないな。それで俺がひとりだけと。
「聞きたいことがあるんだが」
「ん~?」
「俺をどうするんだ?」
番人。種の保管と言ったか。保管と言えば繁殖。それによる繁栄。
人による繫殖はオスとメスだが。生物は単体で増える個体以外は番が必須。で、俺の身体的性別は生物学上雌と表記されるのが正しい。何を言いたいかは察してくれるだろ?
「母体・・・かな?」
「やっぱり!!!!」
反射的に己の身体を抱いてしまう。ここから陵辱が始まるのか!?
法的にどうなんだ!?
「落ち着きなよ~」
・・・。そうだ落ち着け。所詮はゲームの中での話しだ。たぶんこれはイベント会話の一環で、園途中ではログアウトできないっていう典型的なクソゲー仕様なんだろう。終われば即ドロップアウト。この世界とはオサラバだ。
「・・・で?」
「落ち着いてくれてありがとう。」
「お礼などもういい。それで?」
「うん。まあ君はまだ未熟児だ。他の個体と番になるにしても恐らく持たない可能性があるから、成体になるまで僕が面倒をみてあげるよ。身の回りの世話は任せてよ」
さてログアウトは何時頃できるんだろ~♪
番になるために存在している?は?なんだそのマゾプレイ。俺にはそんな趣味は無いぞ。どこの会社が作ったんだ今すぐ訴えてやるから出て来い。ていうか今時『女性は子を産む為に~』なんぞ歌ってたら抹殺されるぞ?!
「だから塔の外には行かなくていいよ。ロクなことないしさ」
もうすでにロクなことになってないから。ね?
「さて、何か疑問あるかな?何でも答えてあげるよ?」
「いつになったらイベントは終了するんだ?」
ここ重要。重大すぎる。逃せば大変なことになる。願わくばここでチュートリアル終わってくれ頼む!!!嫌だ嫌だ雌落ちしか見えない物語なんて誰がやりたいんだよ!
「いべんと・・・?よくわかんないなぁ」
「なんだと!?」
「そんなに驚くことだったんだ~?ほかには?」
なんだこのポンコツ・・・。昔のAとBの選択選らべのAを選ばないと永遠とループする的な・・・。クソだ・・・クソ過ぎる。
「ログアウトはできないのか?」
「それはできないね。役割は果たしてもらわないと」
「・・・え?」
「もちろんじゃないか。君には種の存続が掛かっているんだ。みっちり働いてもらわないと」
どこのエロゲーだ?なぜ逆ハーレムなんざ乙女ゲーやらなきゃならんのだ。ホモでも腐ったあの方々ではあるまいし。しかし、まだ望みはある。希望は閉ざされてはいない。
「俺が成人するまでに、あとどれぐらいの期間があるんだ?」
「そうだなぁ・・・。」
期間以内に抜け出さなければ・・・。リーチが掛かっているんだ。
「成し、出産となれば・・・耐えうる母体は後2年ぐらいかな」
「・・・2年・・・」
かなり短いぞ・・・。成体になると聞いたから10~20年は大丈夫かなと思ったのは楽観的だったか。
「番の・・・。相手はいるのか?すでに控えているのか?」
「いいや。いまのところ確認されていないねえ」
ホッと一安心するが・・・。俺が成体になった後発見、もしくは番の発見後だと成体になった後にその・・・種を成すことに・・・。
想像するのさえ吐き気がする。なぜ俺がそんなことせねばならないのだ。
「そうか。ところで」
「ん?」
「お前俺の首絞めただろ?」
「あ~。すまなかったねえ」
軽く謝るが種の保全と繁栄のために必要な母体を手荒に扱うとは矛盾しているではないか。遺物だけにどこか故障しているんじゃないだろうな!?
「抵抗するなら矯正がいるからさ。仕方が無いねぇ」
「なんだと・・・矯正?」
どこまでクソなんだこのゲームは。矯正というなの洗脳ではないか。ただの子を製造する未来しか見えないぞ。どこの国の陰謀だ?『兵士を量産するんだ』『人は畑で取れるんだ』理論を展開する阿呆による作戦か??いずれにせよログアウトできない→永遠とプレイする羽目になるぞ・・・2重の意味で。
「なるほど・・・理解した」
「他には聴きたいことあるかい?」
「そうだな」
このゲームの終わらせ方を聞くのもいいが、一連の流れからして、少しでも反抗する意志を見せれば洗脳が飛んでくる。それだけは避けたいな。となれば無難なことを聞いとくか。
「番が見つからなかった場合どうするんだ?」
予測だが生殖はできない。だからすることもないはずだ。そしてその間に力をつけて抜け出すか、装備を整えて旅へ出ることとしよう。きっと自由な国家がどこかにあるに違いない。そこでゲームクリアをしてログアウト、素敵な現実に戻るとしよう。素敵なんぞと一度も想ったことはないが、今ばかりは恋しい。恋しくて仕方が無い。ああ、早く終われ。
「その時はね。」
あれ、今・・・。
「僕が相手をしてあげるよ」
聞こえなかったなあ。おかっしいなあ。
「まあ究極策だから安心してよ」
できねえよ。
「それなりの番みつけてあげるから、今日はもう寝てさ?ね?」
・・・・。早く帰りたい。やめたい・・・。おかしいよこの世界。絶対何かがおかしい・・・。やだなぁ・・・。誰か・・・誰でもいい助けて・・・。
最後は視界がブラックアウトして思考もできなくなった。
縛りプレイ好き過ぎだろ・・・。無理ゲーだよ・・・。
逃げられないじゃないか・・・。
考えるのをやめた。
俺は遺物に案内されるまま寝室へ向かい、そこで枕元を涙で濡らして明かした。