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第四話 天の塔

 私は二人目の女王様である夏の女王様と出会いました。


 夏の女王様――怠惰の精霊様はさぞ面倒くさそうに私たちについてくることになりました。一番先頭には秋の女王様がいて、最後尾のかなり離れた位置からトボトボと付いてくるのが夏の女王様でした。そのおかげで、時々秋の女王様が振り返り、夏の女王様を睨み付けることとなりました。私は汗を流しながら苦笑いしか出来ず、相棒のピットを指で弾いて気を紛らわしていました。ピットは妖精で宙に浮いているのでさらりと避けられてしまうのですが。


「というかさ……秋の女王――いや、大飯食らいの暴食ババア……手掛かりのあてとかあんの?」


 後ろの方から声が聞こえてきました。夏の女王様です。ですが、相変わらず面倒くさそうに聞いてきます。さて、秋の女王様は何と答えるでしょうか? 興味があります。ですが、返答は至って普通でした。


「残念ながらまだね。でも、春の女王のきまぐれとか迷子とかそんなのではないことは分かるわ」


「はあ……駄目だね……。これだから食い意地張るだけが命の女王様は……。春の女王の性格考えればそんなこと誰でも分かる……。全く話にならないね……」


 春の女王様の性格? なんでしょう。ですが、秋と夏の女王様のお二人を見る限りでは春の女王様も一癖も二癖もありそうです。気になりますね。私は思い切って聞いてみます。


「あ、あの! 春の女王様ってどのようなお人なのですか!?」


 秋の女王様はこちらに振り向きます。少し照れてしまい、私はちょっとだけ視線を下げます。しかし、隣で浮かんでいたピットはこちらをニヤニヤしながら見ています。女の子のくせに生意気な態度です。私は少しムッとしましたが女王様の手前、自重しました。


 そして、秋の女王様は溜め息を一つ挟んで春の女王様について説明してくださりました。


 一つ、物凄く馬鹿。


 一つ、物凄く愚か。


 一つ、物凄く愚直。


 一つ、物凄く偽善。


 言いたい放題言われているような気がしますがこの四つだそうです。馬鹿と愚かはどう違うのでしょうか? 曰く「馬鹿で愚か」らしいです。


「あの馬鹿で愚かで愚直で偽善に満ちたあの女王がこんな大騒動起こすわけはない。大方、誰かに誑かされてるか捕まってるか……。いずれにしたってろくでもないことに巻き込まれてるわよね、あの偽善の精霊」


「はあ……それでどうするんだい……私は無駄足はしたくないよ……」


「冬の女王に会いに行く」


「はあ……? あんた馬鹿なの……? ……春より先に夏と秋を越させるつもりなのかい……?」


 遥か後ろの方で夏の女王様がうんざりしたような馬鹿にしたような声を上げています。正直に言うと、私もちょっと言ってる意味が理解できず一瞬しかめっ面をしてしまいました。ピットはというと無表情でした。何を考えているのでしょうか? 夏と秋の女王が言い合いを始めたので私はこそっとピットに話しかけます。


「ねえ、ピット。どう思う?」


「何がだい?」


 ピットは顔を上げ、こちらに顔を向けました。


「行方不明の春の女王様のことさ。ピットは春の女王様のこと何か知らないの?」


「ボクは知らなかった。会ったことなかったからね。でも、さっき聞いた春の女王様が偽善の精霊って話は有益だね」


「有益?」


 私は首を傾げます。


「そうさ。偽善の精霊なら百パーセントで誰かに誑かされてどっかで静かに暮らしているはずだね」


「捕まってる可能性は?」


「断言してもいいけどありえない。だって、偽善がそんなおめおめと拘束されるはずないじゃないか。大体、精霊ってそれなりに強いんだよ? 後ろにいる怠惰の精霊はその中でもとりわけ強いけど前にいる秋の女王だって結構強いんだ。そうそうな相手に捕まるわけないよ」


 なるほど……。ピットはすごいです。いろいろ考えていますね。さて、私はもう一つ質問します。というより質問としてはこちらの方が重要なのですが。


「なら、冬の女王様ってどんな人か分かる?」


「噂で聞いたことがある程度。噂では無欲の精霊なんだとか。なんでも何も欲がないんだってさ」


「欲がないなんて信じられないや」


 本当に信じられません。どうして、そんなことがありえるのでしょうか? 人間とは誰しもが大なり小なりの欲に向かって生きているのではないでしょうか? 私だって春の女王様を見つけ出そうとしてるのはそれを理由に褒賞を受け取りたいからなのです。無条件の正義が間違っているとは言いませんが人間とは欲がなければ動かないものです。…………春の女王様は精霊でしたね。人間ではないので人間の常識からは外れていてもおかしくありませんでしたね。


「ピットは何か欲とかあるの?」


「ボクは妖精だからね、それにこう見えてもしかも女の子なんだよ? でも欲が全くないわけじゃないよ。ボクの欲はそうだね…………いずれ話そう」


「えー? 話してよー!」


「また今度ね。さて目的地に着いたようだよ」


 私はピットから目線を外して正面を見ます。そうすると、そこには天を貫く程の巨大な塔がそびえ立っていた。


「さあここが私達、四季の女王が一人ずつ暮らす『天の塔』よ。ここの一番上に部屋があるんだけど、そこに夏の女王がいるはず。君らも結構高いから頑張ってね?」


 秋の女王はにっこりしながらそう言いましたが、残念ながら私は体力には自信がないのです。

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