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第二話 妖精ピットと秋の女王様

『冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。季節を廻らせることを妨げてはならない。』


 国王のお触れは国中の至る所まで伝わっていき、全国民の耳へと入ったのです。


 一週間としないうちにこの事件を解決しようと意気込んでいる老若男女がたくさん集まりました。その数はなんと百を超えます。


 そして、この私もその一人なのです。




 時間は流れまして三日が過ぎました。


 私は手がかりもなく、一人森の中を歩いていました。この森は雄大な城からは少し離れたところにありまして、人が隠れるには十分なほどに木々が生い茂っているのです。ですが、この木々達も今は雪を被っており幾らか項垂れているようにも見えます。


「ねえ、手掛かりあると思う?」


「うーん……難しいね。ボクにもさっぱりだ」


 私は相棒のピットに声を掛けました。ですが、相棒も首を横に振ります。続けてこう言いました。


「ボクも一度、空に上がって国中見渡してみたけどそれらしい気配は見えなかったよ」


 相棒のピットは空を見上げてそう言いました。


 ピットは人間ではありません。小さな妖精です。人型の小さい妖精。小さな体に小さい羽根を二対揃えた女の子の妖精です。


「全く、どこに行ったんだよ春の女王は……」


 私は苛立ちと共に近くに生い茂った草を蹴り飛ばしました。草に乗っていた雪が四方に飛び散ります。


「ボクに言われても分からないよ。元来、女王様というのは何考えているのかよく分からない不気味な連中なんだよ」


「よく分からない奴らにこんな自然災害レベルの大騒動を起こさないでほしいのものだけど」


 私は溜息をつきました。自然に吐き出るようにして自然で流れ出てきていました。



「あなた達、好き勝手言ってくれるようですね」



 声がしました。背後から。私とピットは振り返ります。そうすると、そこには、美しい大人の女性が立っていました。すらっとした体付きに長い銀色の髪を素敵なドレスに身を包み、それでいて活発な雰囲気な漂わせる気配を感じさせていました。


「あの……? どちら様でしょうか?」


 私は恐る恐る名前を尋ねました。


「……知らないの?」


 目の前の女性は逆にキョトンとして首を傾げました。私は奇妙に思い、私の肩でふわふわと浮いている私の相棒に聞いてみました。


「ピット、知ってる人?」


 そう聞くと、ピットも唖然とした表情で私を見ました。私はますます奇妙に思います。ですが、さらに疑問を投げかける前にピットがその小さな体で軽く私の頭を蹴り飛ばし、説教をするように私にがみがみと説明してきました。


「彼女は女王様だよ! 何で知らないの? ボクだって知ってるよ。彼女は秋の女王様、つまり秋を司る女王様。秋頃にいつも塔にいるんだよ!」


「……え? …………ええええええ!?」


 私は驚きます。当然でしょう? 目の前に女王様がいたのですから。それも四季を司る秋の女王。驚きです。驚きついでに私は尋ねてみることにします。


「驚きすぎてもう大変ですけど、一つ質問してもよろしいでしょうか?」


 そうすると、女王様はにっこりと優雅に微笑みました。


「ええ、いいですよ。あと、そんなにかしこまらなくてもいいのですよ? もっと楽にしてください」


「い、いえそんな!」


 私は首を必死に横に振ります。ですが、女王様のにっこりとした笑顔に少しだけ影が走りました。走ったような気がしました。何故なのでしょうか? 疑問です。


「いいえ。楽になさってください。――いいですね?」


 今、分かりました。女王様は威圧しています。それも子供の喧嘩のようではなくそれは遥か高みから見下ろすかのように圧倒的なまでの位の差を見せつけるかのような威圧です。これには誰であろうと逆らえません。逆らえるとしたら同じ女王様か国王様くらいなのではないでしょうか? とにかく、私は怖いので女王様のお言葉に甘えることにします。


 少しだけ肩の力を抜いた私は改めて女王様を見ます。


「では、畏れながら……。何故、女王様がこのような森の中にいるのでしょうか? もとより、女王様というのは塔で暮らしてる時以外では暮らしている場所も不明なのです。それが、なぜこのような場所に?」


「なるほど……。では私から逆に一つ質問しましょう。なぜあなたはこのような場所にいるのでしょうか? ここはよっぽどの理由がなければ人など(・・・)は立ち寄らない筈なのですが」


「え? ……いえ私は……女王様も耳に入れてはいますでしょうが未だ現れない春の女王の居場所を調査するためです。人目の付きにくい場所にならいるかな? と、そう考えていたのです」


「なら、私への質問も必要ありませんね?」


「あっ……。はい」


 私は押し黙ります。こう何か言いたい気持ちになりましたのですが何を言えばいいのかもイマイチ思い浮かびません。そんなモヤモヤとした気持ちでいるとピットが何やら女王様に話しかけました。


「秋の女王様は何か手がかりなどは見つかったのでしょうか? ボクの方ではさっぱりでして……」


「これは妖精さん、あなたは……ピットですね? 申し訳ありませんが私も手がかりはまだありません。だからこれからとある者に協力を頼むべく向かっていたところです」


「横からすいませんが……ピット知り合いだったの?」


 私はピットに問いただします。ピットはさも当たり前とでも言いたげな表情をしています。正直ちょっとムッとしてしまいました。今までそんなこと一言も言ってくれませんでした。一言くらいってくれれば良かったのですが……。


「ボクは会ったことはあるが会話したことはなかったけどね。一応は知っている。一昔前に妖精と精霊の会合があってね。そして、彼女ら精霊は僕らみたいな妖精の上位種族なんだ。精霊は妖精の全てのことが頭に入っている。もちろんボクの存在も知られているはずだ」


 …………え? 精霊?


「ちょっと待った! 女王様が精霊!? もしかして四季の女王って全員精霊だったりするの!? というかそんなこと知らなかったよ! 人間じゃなかったなんて!!」


「君は少しモノを知らなさすぎるんだよ。四季の女王様は全員精霊なの。当然この自然界に溶け込むように暮らしている。今この周りにある森林や草木など宿ることも可能だ」


「意外と私も知られていないのですね。私もまだまだのようです」


 秋の女王様は何がおかしいのか少しだけクスッと笑ったような気がしました。そして、ピットはというと私のことを散々言ったというのに何やら怪訝な顔つきをしています。女王様の前で何と失礼な……。私も人のことは言えませんけど。


「ピットどうしたんだい? 女王様でしかめっ面は失礼だろう?」


 私は女王様に気を遣い小さな声でピットに注意を促しました。しかし、どうでしょう。ピットは表情を戻しません。私の方は見ずに何やら同じく小さな声で囁き返します。


「でも、前の会合で見たときとだいぶ印象が違う。違った気がする。昔過ぎて内容も覚えていないから何とも言えないけど、何か今の秋の女王様は本来の姿と違う」


「あやふやだなあ」


 私は呆れるように溜息を吐きます。改めて、女王様に向かい合います。そして、女王様に一つ気になったことを聞いてみます。さっき、モヤモヤとした理由がきっとこれです。


「何故、人探しなんてことを女王様がやっておられますのでしょうか? このようなことは私達平民のすること。高貴な方のすることではないかと存じますが……」


「だって、あなた達――使えないじゃないですか」


「……え?」


 私は息を呑みます。


「本来あるべき冬の時期を過ぎてもう二か月、つまりもう既に冬が五か月も続いているのですよ? なのにあの国王は最近になってようやく焦ったのか捜索を開始する始末。そして、捜索が始まってもいまだ見つからず……。あまりにも使えないので私が直接探すことにしました。私としても作物が育たなくなるなんて事態、論外にも程がありますので」


「あの……女王様?」


 女王様から汚い言葉が次から次へと飛び出てきました。全部正論なのでこちらとして何も言い返せないのですが先ほどまでとはうって変わっていきなり言葉が粗暴になり驚いています。表情はいつもの優雅な微笑みなのですが。


「あ……思い出した」


 ピットがはっと顔を上げる。どうやら、今まで考え込んでいたらしい。女王様のことだろうか。ですが、とりあえず今は無視して女王様の言葉を聞きます。


「食物がないなんて考えられない……。食とはつまりそれは生命を繋げること! 食こそが生きるということなのです! なのに、このままではこの世から作物は消えてしまいます! そんなことは私が許しません! 食! 食! 食! 食こそがこの世で最も優先すべき事項! 食こそが私という存在を証明するのです!」


 あー、もうイメージが崩れ去りました。女王様というのはみんなこういった感じなのでしょうか? 幸先が不安な私にとどめを刺すようにピットが補足します。


「秋の女王様、彼女は暴食の精霊なんだ。食に対する欲は世界一だよ」


 やはりとても強烈な方のようです。



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