8話
投稿遅れてしまい申し訳ありません。これにて最終回です。
「どうした、めぐみ?」
目の前には、おじいちゃんではない私のよく知る幼馴染の顔があった。
「…ううん、なんでもない」
「キスの直後にそんな顔をされたら、割と傷付くぞ新郎としては」
「え、私どんな顔をしてた?」
「そうだな、さながら昔の恋人に偶然出くわした時みたいな表情、かな」
「…そうかも、私二股してたから」
「おーいさっきの誓いの言葉覚えてるー? まさか結婚式直後に離婚が頭にちらつくとは思わなかったよ」
「ごめんごめん、今はさとし一筋だからさ」
だといいけどさ、そう口をとがらせて言う幼馴染を前に私はつい笑みをこぼしてしまう。
心配しなくても、私は昔からさとし一筋だったと思う。そんなことは、本人を前には絶対言えないけど、恥ずかしいから。
父が亡くなった直後、私は悲嘆に暮れていた。唯一の肉親を失って、これから先どうすればいいのかわからなかった。自分でもどうしようもなくて、喫茶店の隅っこで一人声を押し殺して泣いていた。
「めぐみ!」
おじいちゃんは、そんな私を最初に見つけてくれたのだ。
「めぐみよ。お前さんが家族を失って、悲しみのどん底にいることはわかる。しかしじゃな、家族はいなくなるばかりではない。いつかはお前さんを愛してくれる家族ができる。めぐみは一人ではない。さとしくんだっているじゃろ?」
「…さとしとは喧嘩しちゃったし。そんな人もういないよ」
「喧嘩? まったくあのせがれは…、めぐみの一大事というのになにをやっとるんだか。…安心せい、めぐみにも家族ができるまで、わしが責任をとって面倒を見る! だから心配するな」
「本当? 私にもいつか大事な人ができるの?」
「そうじゃ、わしが保証する」
「じゃあ私、おじいちゃんと結婚する!」
「ぶっ! な、なんでじゃ!? 結婚以前に、わしらもう家族じゃろ!」
「おじいちゃんは私にとって大事な人だもん。それにここにいる私を最初に見つけてくれた。さとしなんかと違って優しいし…」
「…はぁ、わかった。じゃあいつか結婚式をあげような。それなら、今日は記念すべき初デートの日じゃ。わしのおごりだから、好きなものを食べなさい!」
そういっておじいちゃんはどこか困ったような笑みを浮かべていた。でも、私にとって、そのとき食べたごはんは、なによりも美味しくて、かけがえのない時間であったことも確かなのだ。
私とさとしが籍を入れてから7年後。
私たちは郊外に一軒家を建てて、暮らすことにした。これから築き上げる幸せな家庭、それに相応しい家をデザインできたと思う。
「自分たちで考えた家だから当たり前ではあるんだが、やっぱり広いしいいところだな」
「そうだね。私たち二人だけなら前の借家でもよかったけど…、新しい家族も増えることだしね」
私は愛おしさに溢れた手つきで、そっとお腹をさすった。
「というか、これからの方が大変なんだからね。さとしにはバリバリ働いて、ローン返済頑張ってもらわないと!」
「わかってるよ。それにある人と『めぐみは絶対に幸せにする』って約束したからな」
「ある人って?」
「それを聞くのは野暮ってもんだ。男同士の約束だからな」
私たちは笑いながら新しい自宅に足を踏み入れる。
この先きっと、楽しいことばかりでなく、つらいことや苦しいときもあるだろう。
でも私は一人ではない。私たち家族なら、きっと乗り越えられる。
拝啓。天国にいるおじいちゃん。いや、もしかしたらすぐそばにいるのかもしれないけど、
私は、今とっても、幸せです。