4話
「あ、もうこんな時間だ」
集中していたせいか、いつの間にかお昼休みになっていた。他の同僚たちも、ほとんど出払っているようだった。
「今日のお昼どうしよ~。……そういえば、おじいちゃんは?」
私はあたりを見渡すが、おじいちゃんの影も形も見つからない(幽霊だからどちらもないのだけれど)。
「もう、死んでからも迷子になってたら世話ないよ」
「お~い、めぐみ!」
声の主はおじいちゃんではなく、幼馴染のさとしだった。
「メシ、まだだろ? 一緒に外で食わないか?」
「…うん、いいけど?」
珍しい。さとしは外食をほとんどしないのに、と思いつつも、私も早く食事を済ませたかったから、特に断る理由もなかった。
「好きなもの食えよ。おごるからさ」
「ちょっと、どうしたの急に?」
お店についてからも、私はさとしの言動に違和感をぬぐえなかった。何か裏があるのかも、小さいころから事あるごとに私をだましたりしてきた意地悪な幼馴染に、私はそんな疑いの目を向けていた。でもそうやってごねていたら、「だーっ、もう、わかったよ!」とついにさとしも白状してくれた。
「…お前が、さかきさんが亡くなったことが堪えてるんじゃないかって、心配してたんよ。悪いかよ!」
メニュー表に顔をうずめているのは照れ隠しのつもりなのだろうか。社会人になって影を潜めていたように思えたけれど、そんな不器用なところは相変わらずなんだなと私は思った。
「もう、慣れないことしてさ…」
笑いながらそっと手を差し出すと、さとしは握り返すように私の手を、つかまず自分の首を絞め始めた。
「ちょっ、さとし! なにやってんの!?」
「…いかん、いかんぞめぐみ! この男、やはりお前を狙っておるぞ!」
首を絞めながら絶叫するさとしは異様以外の何者でもなかったが、私には目の前の人物が誰なのかすぐに理解できた。
「もしかして、おじいちゃん?」
「そうじゃ、なんか憑りつけたわい」
おじいちゃん(が憑りついたさとしの体)は、ちょうどやってきた食事を豪快に食べ始めた。
「まさか、死んでもなおおまんまにありつけるとはの! ここは極楽か」
「あいにく現世ですよ~」
さとしには悪いけれど、目をキラキラさせながら食事にありつくおじいちゃんの姿はどこか微笑ましくもあった。死ぬ直前はあまり食事が喉を通らなかったみたいだし、きっと食べることに飢えていたのだろう。
「…こうしていると、なんだか初デートのときみたいだね」
でも目の前にいるのは幼馴染のさとしの姿で…、なんだか不思議な光景だと私は思った。
「めぐみ! なんか御代がすごい額になってるんだけど!?」
「…あー、ごちそうさまでした」
「今月の生活費がー!」
うん、さとしには悪いけど。