2話
考えてみれば早くにおばあちゃんに先立たれたおじいちゃん、身寄りがおじいちゃんしかいない私(先ほど話したかつこさんは近所に住むお隣さん)。二人が惹かれあうのはもはや必然だった。
「でもおじいちゃん、結婚式なんて…。お金はどうするの? 葬式代だけでもばかにならないのに」
「大丈夫、年金受け取り期間中に本人が死亡した場合、未払い年金の現価を死亡保険金受取人が受け取れるんじゃよ。この受取人は被保険者の2親等以内の親族、つまりめぐみ、おまえじゃ」
「すごいよおじいちゃん! 死後のことまで考えてるなんて…。でも社会人一年目の私にうまくできるかな?」
「それも問題ない。あ、わしの机の左引き出しの上から二番目に自筆証書遺言があるのでそれだけ家裁に持って行ってくれるかの? それ以外についてはわしのパソコンに遺書データが入っているのでそれを見るように」
デジタル遺書なんて、やっぱりおじいちゃんはすごい!
「でも、幽霊と結婚式なんて、どうしたらできるのかな?」
「………はて、」
おじいちゃーん! ここまで考えておいて肝心なところだけノータッチだよ! しっかりしてるのにどこか抜けてるところは死んでも相変わらずだよ!
「もうっ、おじいちゃんなんか知らない! 家庭裁判所行ってくる!」
「待つんじゃ、めぐみ!」
「来ないで!」
「ぐわっァ!」
「えっ?」
私が感情に任せて振り抜いた平手は、おじいちゃんの幽体を弾き飛ばした。しかもその体は部屋の壁をすり抜けて、向こう側へと消えてしまった。
「そんな、まさか触れるなんて…。おじいちゃん!」
私はおじいちゃんが飛ばされたであろう部屋の扉を開けると、
「むう……、かつこめ。このような煽情的な下着をつけておるとは……けしからん」
「あら、どうしたの? めぐみちゃん」
そこには浴室で着替えるかつこさんと、それをじっくりと眺めるおじいちゃんの姿があった。
おじいちゃんは幽霊であることの旨みを早くも堪能しているようだった。どうやら見て触れるのは私だけのようだが。いやそれはさておき、
「おじいちゃんのアホーーっっ!!!」
「うわーなんでじゃーー!??」
こうして私とおじいちゃんとのちょっぴり不思議な没後生活が始まった。