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俺が諦めない理由


 ベッドに転がり、スマートフォンを眺める。

 次々と文字として現れる言葉はどこか薄っぺらで伝わらない。だから、書いたり消したりを自然と繰り返す。伝えたい言葉はある。でも、確かな伝え方は分からない。

 文面じゃなくてきちんと向き合って話すべきと言う人もいるかもしれない。それでも、俺は薄っぺらな言葉しかこの口から吐き出す事が出来ない気がする。

 糸瀬葉(おれ)は魂が変わっても、薄っぺらには変わりなかった。


「彼氏居るのか……ショックだな……」


 憧れのマドンナである類沢レイナ。さらに大人になって磨かれたオーラは俺の鼓動を早めた。ミディアムのボブがさらさらと揺れて、それを耳にかける仕草に見とれずには居られなかった。

 こんなに嬉しい偶然は無く、そして、今でも彼女の事を引きずっている自分に気がついた。

 まあ、あんなに美人なら彼氏がいない方がおかしいよな……とあれこれ考えて気付かない内に傷付かない言い訳を考える。

 それが一番空しいものである事は今、触れないでおこう。



 目を閉じていたら、懐かしい夢を見た。



 中学1年生の春。

 男子たちの間で広がったのは、可愛い女子が居るという事。噂でしか知らない筈なのに、俺はどんどん惹かれていった。

 そして、中学2年生で起きた奇跡。

 マドンナと同じクラスになると言う幸運だった。

 噂で聞いた通りかそれ以上。噂なんて大抵大きくなって、本物をみると残念、となるが、彼女は違った。見た目ももちろん、優しくて穏やかな少女だったのだ。


 恥ずかしいけれど、あれは初めての恋だった。


「類沢さんって何部だっけ?」

「私? 合唱だよ」

「へー! 今度聞かせてよー」

「恥ずかしいな。でも、今年は文化祭で歌うから、その時かな」


 やっぱり始めは取っつきやすい部活の話題で攻めた俺。

 まあ、合唱部って聞いた後に返した言葉はなんだかチャラいなと今でも後悔している。


「糸瀬くんは?」

「俺はバド」

「意外。バスケットとかと思った」

「ははは。ま、俺は何でも出来ちゃうタイプだからねん」


 見栄張りすぎ。良いとこ見せたいの分かりすぎ。この時も俺は言葉の直後に脳内反省会を開いていた。


「そっか。羨ましいな」


 変に馬鹿にしたり、疑いの目を向けなかったりしたので俺は面食らったのを覚えている。


「お、おぅ」


 その後に返した情けない言葉はもっと覚えている。

 きっかけはこの通り。それからはちょこちょこ話す仲になった。また、同じ委員会になる事も出来て、幸運だと感じられた。


「……て、感じですよセンパイ。俺もっと頑張って彼女振り向かせたいです!」

「気合い入っているのは良いけど、真面目にな」

「栗山センパイ冷たいっす!」


 当時ダブルスを組んでいた1つ上の先輩に相談、というか一方的な俺の話を聞いてもらっていた。

 先輩は天パがかった黒髪でふわふわしてそうに見えるがそんなことはなく、生徒会に入っているし、成績は優秀であるしとにかくしっかりした人だ。1年生の後期に類沢さんも同じく生徒会もしていたそうで、たまに情報をもらっていた。

 そんな先輩が呆れ顔だったのは言うまでもない。


「そんなに好きなら告白すれば良いじゃないか」

「……まじすか」


 俺も分かっていた。告白をすればいい事は分かる。話もだいぶするようになったし、会話も始めの頃よりぎこちなくない。思いを伝えてしまった方が好転するかもしれない、もしかしたらOKしてくれるかもしれない。

 俺は自惚れていた。


「がんば、りま、す……!」

「……勝手に頑張れば?」

「うわー。冷たいっす!」


 告白をすると決め、決意がぶれない央に次の日には彼女に放課後待つように言った。

 何の迷いもなく彼女は頷いた。


 夕日でオレンジ色に染まる教室。外から聞こえる部活動の声と音。佇む彼女に見とれていた。これまでにない鼓動の早さと戦いながら。

 で、告白したのだが……。

 結果は改めて言いたくない。察して欲しい。


「遅かったな」

「センパイ、振られました」

「……やっぱりか」

「それってどういう事ですか……!?」

「そのまんまだが」

「うわーん! 何でも出来るセンパイとは違うんですから……」


 と、振られたショックを先輩に泣きついて誤魔化した。


「……EOS(エオス)できたらこんな気持ち少しでも和らぐんすけどね」


 魂を交換すれば、それは俺であって俺でない。

 この彼女に焦がれる気持ちを振られた時は捨ててしまいたかった。魂の交換でそんな事可能かどうかは分からない。ただ、逃げたかった。でないと、魂の交換でなくても自分が自分じゃなくなるようだったからだ。


「……出来るさ」


 俺の言葉を拾ったのは先輩だった。


「……いや、14ですよ俺。出来るわけ──」

「出来るさ。俺が教えてやろうか」


 先輩の言葉が、希望に見えた。



 目を覚ますと真っ黒な画面のスマートフォンが目に映る。

 俺は「EOS(エオス)契約」を逃げ道とし、無事恋心を少し抑える事が出来た。それでも、器に染み着いた事だからだろうか、いつまで経っても彼女を忘れられなかった。


 諦められないのは何でか知らない。だったら、俺が諦める理由は無い。




 

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