私が女神を嫌う理由
「俺の魂が変わった事、気が付いてないだろ……? 所詮お前が俺を思う気持ちなんてそんなもの。だからこれからはもっと見ろよ。レイナ?」
その瞳にどこか狂気の様なものを感じる。でも、逸らせない。やっぱり、どうしても、私はこの人が……なんだと思う。
背中にあたる冷たい壁。頭の横にある熱く熱を帯びた腕。この2つが私の感覚をおかしくさせているのかもしれない。
私、類沢レイナは今年で付き合って3年になる彼氏がいる。会社の先輩で格好良くて、面倒見も良くて、一言で言えば頼れる人だった。
会社で初めて会って、憧れていた。いつしかそれは、尊敬から恋情へ。気が付いたら好きだった。
とんとん拍子に事は運び、付き合う事が出来た。しかし、彼は少し、愛を求めすぎる。
今だってそう。私の気持ちを確かめるようにあの「ESO契約」をして、魂を変えている。
気持ちは変わらないのに。どうしてそうなるのか。
「……気が付きはしませんでした。でも、私の気持ちは変わっていないです。たとえ、最初の一さんとは違う魂でも」
「……そう。少し残念だったけどその言葉を聴けて嬉しいな」
彼はそのまま私をギュッと抱き締めた。
「でも、どうして」
「レイナ、知らないの? 木内が君を見る目。なのにあんまり可愛い笑顔を見せるから」
腕の力が強くなる。壁の温度はもうこの熱に勝つことが出来ないだろう。
笑顔になるのは何も悪い事でない。可愛いと言ってくれている事は嬉しいが、私だって人付き合いの関係上無表情で過ごすわけには行かないのだ。
「君が思うよりも俺はずっと、嫉妬深いんだ」
ああ、今思うよりも、彼の想いは計り知れないのか。私はそれに恐怖を抱くでもなく、なぜか、笑みがこぼれそうになった。
新しくなった彼の魂はまだ私を離さないでいてくでるのだと。安堵した私はやはり、どこかおかしいかもしれない。
「あれ、類沢さん……?」
一さんが忙しいため、珍しく1人でのランチ。どこでしようかと歩いていると、懐かしい声がした。
「糸瀬、くん?」
「うわお。久しぶり! 元気にしてた? あれ? 1人? 飯食べた?」
「……相変わらずね。私はこれからよ」
糸瀬葉は相変わらずどこか軽い。中学生の時に同じ学校でいろいろあった仲でもある。
1人だった事もあって、懐かしい話をしようと思い、2人で美味しそうなパスタ屋さんに入った。
「いやぁ、さすが俺が惚れたマドンナだよね。ますます美人になってさー」
「お世辞はいいよ。どうせ、会う女性に対して、その言葉挨拶代わりに使ってるでしょ」
「あー。……そ、そうだねー、はは」
「そういえば、糸瀬くんは今何してるの?」
「俺? ああ、──」
懐かしかった。あの頃の自分はきっと今とは違う。どこか、違う世界に飛んでいったかのような気持ちになるのは、自分の事だったのに何故だろうか。
ひとしきり話を終えると、すでに戻らなければいけない時間だった。
「楽しかった。また、会えたら会いましょうね」
「類沢さん!」
私が手を振って別々の方向へと歩き出すと、腕を掴まれた。
この熱は、何かに似ている。
「連絡先、いい?」
いつも自信あり気な糸瀬くんとは違った。どこか自信が無さそうな表情をしている。
珍しさからか、どうかは分からない。
「……いいよ」
と。了承したのは。
でも、別れ際にきちんと言っておかないと。
「彼氏に怒られたら消されるかもしれないからその時はごめんね」
「いいよー! って彼氏いんのね。……はは」
#####
「今日は随分有意義なランチだったんだね」
「え」
「また俺は魂を変えるよ。きっとね。見極めて。次外したら……」
「7年間は無理なんじゃ──」
「さぁ、どうでしょう?」
私はだから「EOS契約」が嫌いだ。しょうもない理由だと思うでしょう。
それはそうだ。あなたにとってはしょうもない話。
#####
「木内くん、地方に転勤だって」
「最近来たばっかりなのにね」
「若いうちはいろいろ行けって事かな」
話し声。
私は彼を見る。変わらない笑顔。そこまで私が……。
ああ、糸瀬くん、"その時は"本当にごめんね。
初めて書きました、ヤンデレ系。
今回は少し今までと毛色を変えて大人な感じを出してみました。難しい。
それではまた。
2016/9 彼方わた雨