魂を導く者
毎日毎日、溢れ出す魂にドタバタしていた日々はまるで嘘のようだ。「EOS契約」がなされたおかげで天上の仕事もだいぶ楽になった。
「なんだか拍子抜けですね」
「ウリエーラは忙しい方が好きなのかい?」
真っ白い空間にトントン、というリズミカルな音が響く。ここは、魂を管理する所である。
溢れ出す魂を体を張って押さえていたことを思い出し、ウリエーラはボソッと呟いた。それに反応したのは先輩であるエンジェだ。
「いえいえ! あの頃を思い出すといまだに疲れがよみがえりますよ。あんな日々はもうごめんです」
ウリエーラは慌てて言葉を返す。ウリエーラは「EOS契約」前の自分を思い出してしまい、疲れた表情になった。エンジェはその様子に笑わずにはいられなかった。思わず吹き出すと、ウリエーラが不満げな表情に変わる。
「エンジェさんもそう思ってますよね……?」
「ああ。大神様は本当によいご決断をなされた。あの世だけでなくこの世のことも考えていらっしゃる」
エンジェは書類を整えながらウリエーラにこたえた。
「しかし、事務処理が増えたのは嫌ではあるな」
エンジェは「EOS契約書」を恨めしそうに見つめた。
「エンジェさんは肉体労働の方が好きなんですか……?」
「そうだな。……しかし、あまり忙しすぎるのは好まない質だからこの状況はありがたい。それに、器の有効利用は私も大いに賛成できるからな」
「私もそれは思います。勿体ないですしね。どうせなら16歳からと言わず、もっと年齢を下げればいいと思います」
ウリエーラはうんうん、とエンジェの言葉に賛同する。
「……話をすれば」
ウリエーラが契約書のうちある1枚をエンジェに差し出す。エンジェはその契約書を見て苦笑いした。
「15歳なのでアウトですよね。紛れさせて通そうと思ったのでしょうか……」
「そうかもな」
ウリエーラは15歳で契約を果たしたいと願う少女の契約書を捨てようとした。
しかし、それはエンジェによって止められる。
「エンジェさん?」
「こういうのは私が処理するのが早い。先輩を頼りなさい」
「心強いです」
ウリエーラは笑顔でエンジェに契約書を渡す。ウリエーラはその後大きく伸びをしてまた、机に向かうのであった。
(魂の交換契約は広く行われるべきなのだ)
エンジェは受け取った契約書を見つめ、口元を綻ばせた。