真面目な奴ほど苦労する
「お前、そんな嘘吐いて何するんだよ」
「こうでもしないと駄目かと思って」
「だいたい、そこは『お前のいない世界なんて俺は生きていけない。俺も契約する!』って感じじゃねーの?」
自分で言ってて何言ってんだ、と途中で思った。目の前にいる奴もそう思ってるみたいで俺を冷たい目で見ている。
「俺は彼女が好きになってくれたこの魂を手放したくないんだ」
俺は「ふーん」と言うしかなかった。そんな後悔しまくってる顔で言われたって全然説得力なんかない。
あいつが思っているのはきっとただの罪悪感。気がつけなかったという罪の意識があるのだ、と俺の彼女は言う。
俺が思うのは真面目すぎて大変だな、という事。いちいち考えてたって仕方がない。他人の事はどうしても自分より分からない。当たり前の話じゃないか。気に病みすぎるんだよ、どいつもこいつも……。
「だから駄目なんだよ、糸瀬は」
呆れ顔で杏花に言われた時は少し腹が立った。
真面目な奴に囲まれたら自分もそうなるか、と言われたらそうでもないらしいと答えよう。俺の場合、真面目じゃない奴も近くにいたから効果はプラマイゼロって事かもしれないけどな。
「あーダメだ、これはEOSだわ」
「またかよ、兄貴」
ソファに座っていて携帯を弄っていたかと思うと兄貴力なく首を背もたれに沈ませる。
俺の兄貴は今2つ目の魂だ。今まさに3回目のEOS契約をしようと考えている。まだ、28歳だというのに2回も交換しているなんて考えられない奴には考えられないと思う。
「7年も頑張ったからいいじゃんか。交換するに限る」
「魂変わっても根本は変わんないのな。それともそういう魂が兄貴に引き寄せられてんのか?」
「かもしんねー」
兄貴が初めて交換を果たしたのは14歳の頃。理由は大失恋だった。両親は簡単に受け入れられなかったが、兄貴が家(6階)の窓から飛び降りようとした時に交換契約を許すしかないとなる。交換契約をしてから7年は再び契約することは出来ないためそのままで生活していたが、丁度7年後21歳の時いつの間にか魂は変わっていた。
「あんたって子は……」
成人を迎え、親の承諾がいらなくなった兄貴は簡単に契約を出来てしまったらしい。母は事後報告にため息を吐いて一言言うにとどまった。
「准もさ、いつでも契約したら良いんだよ。使えるもんは使っとけって」
「はいはい」
俺もどっちかと言えば兄貴の考えに賛成だ。辛いなら魂変えて心機一転してしまえばいいんだよ。
「真面目すぎんだよなー」
「何が?」
「兄貴の事じゃないのは確かだよ」
立ち上がった兄貴を気にせず、俺はテレビのチャンネルを変えた。