も一つ秘密がバレまして
すっかり忘れてた…
思い出しただけマシだね!
ロニアたちを引き連れて外に出てきたはいいんだが…………。
なんだか、いつも以上に精霊たちが俺の周りを飛び回ってきて鬱陶しい。
見慣れぬ人たちがいるから、不安なのだろうか。
「ねえ、ミオ君。精霊って知ってるかしら?」
「いえ、初めて聞きました」
何の脈絡もなしに、いきなり問いかけてくる。
内心だけにとどめ、表に出さないのは前世でそういった生き方をしていたからであろう。
「そうよね……。でも、視えているのでしょう?」
「どういうことでしょうか?」
これはもう、俺が精霊のこと視えているって確信しているな。
だって精霊が何匹……何人かアンナさんのもとに向かい、何かを囁いているんだもの。
長文は話せないから、大方『ミオと遊んだー』『ミオ、みえるー』みたいなことだろう。
「何か言うことはあるかしら?」
「さて、心当たりがありすぎてどれのことか」
手のひらに精霊を載せながら言い逃れはできないぞとばかりの表情で問いかけてくるので、ニッコリと微笑みながらとぼけてみた。
素直に白状すると思っていたのか、面食らった表情をいただきました。
「冗談です。確かに、小さいころから精霊が見え、最近ですが声も聴けるようになりました。ロニアが変に思っていた俺の行動は、精霊たちと遊んでいたからだよ」
肩や頭に腰かけたりうつ伏せで乗っかっていたり。手のひらを下に向けて前に出すと、手の甲に座る精霊たち。周りを飛んでいる精霊たちの頭を優しく撫でながらキチンと答える。
ただなぁ……。できるだけ秘密にしようって思っていたのに、まさかこんな形でばれるとは思わなかった。
でも両親の仲間なのだし、他人に話すようなことはないだろう。あとは母親に話すだけだな。
父親? あんなのポロっとこぼすにきまってるよ。そのことも含めてみんなに話しておかないと。
アニスさんも視えているようだし。ただ、これはエルフだから普通なのかはわからないが。
「なるほどね。話は理解したわ」
母親が家から出てきたので、先ほどまでのこともろもろを説明した。
しばらく考え込んだ後、一つ頷く。
父親は部屋で屍になっているようだ。いったいどんなお話をしていたのだろうか。
「それでミオ。魔法は使ってみたの?」
……あ、アニスさんの精霊発言ですっかり忘れていた。
「すっかり忘れてた。魔法、見たことがないからどんなものかわからないけど、なんとなくでやってみるよ」
どの口が言うんだかと自分でも思うが、俺の生い立ちは俺だけが知っていればいいことだ。
精霊たちには離れてもらい、火は……もしものときに森へと燃え移ったら怖いので水にしておこう。
「水よ」
攻撃するわけでもないし、手のひらにリンゴほどの水球が浮かんでいるイメージを浮かべて言葉に出す。
現代日本人であれば、憧れであった魔法である。イメージだけでもできるとは思うが、言葉に出すことでより強固なイメージとなる。
事実、きちんと手のひらの上にはリンゴほどの大きさをした水球が浮かんでいる。
『…………』
周りの反応がないのが気になるが、そんなことは気にならないくらいに嬉しいといった気持ちが胸の内から湧いて出る。
調子に乗ってリンゴの形へと変えたり、ウサギなどの動物。立方体の形をつっくた後にそれを半分に分けて水球を二つ作り、地球の周りをまわる月のような動きをさせたり。その倍の四つにふやしたりして俺自身の体の周りを移動させていく。
「夢中になってた。……どうしたの?」
倍、倍と増やしていき、その数が六十四個となったとき。魔法を使えるかどうかの話をしていたのをふと思い出した。
途中から遊びみたいな感じになってしまった。
一度全部くっつけて大きな水球を作り、細長くしてヘビをかたどって俺を中心にとぐろを巻かせたり、また小分けにして鳥に似たなにかもかたどらせた。
水球を消してみんなに声をかけるが、何も反応が返ってこない。
しばらくはこのままであると思うし、魔力量の変化について考えるか。
あれほどのことをしていたのに、全然減った気がしないのである。
このまま続けていても、永遠にできるような気さえしている。
それがもともと魔力消費の少ないものなのか、それほどまでに緻密なコントロールができるようになったのかはわからないが。
大技をぶっ放してみたい気持ちもある。
しかし、特別きれいってわけでもないが、気に入っている景色であるのであまり壊すようなことをしたくない。それに家がすぐ近くに建っているのだし。
「…………ミオ君、本当に初めてなの?」
「初めてだよ」
何か信じられないものを見るような目で俺のことを見ながらアニスさんが口を開く。
また冗談でも言おうかと思ったが、なんだか雰囲気からしてボケてはいけない気がしたので正直に答える。
「精霊に……頼っていないわね。この子たちに教えてもらったもの」
「ロニア、あなたも知らなかったの?」
「はい。外に行くときは常に一緒でしたし、家の中でも魔法を使ったような形跡もありませんでした」
「こいつはとんでもないな」
「やっぱり、運命なのかな」
「運命っって――」
「とりあえずミオ。学校の試験はどちらでも、あなたの好きなほうに進んでいいわ」
はて、運命とは。
ふと引っかかった言葉について深く聞こうとしたが、その前に話を変えられてしまった。
気になった理由も深くないためか、そのことについてはすぐに頭から抜け落ち、考えは王都での試験についてへと変わっていた。
「うん、じゃあ魔法のほうで受けてみようかな。王都に着くまでの間にアニスさんから魔法について教わりたい」
「ミオ君だったら教えなくても大丈夫な気もするけど……私の分かる範囲でいいなら構わないわ」
「よろしくお願いします。みなさんも王都までの間、お世話になるます」
明日になってようやく。異世界での冒険らしきものができる。
護衛対象ではあるものの、知らない世界が待っているかと考えただけで夜も眠れなくなるね。