時は気付けば過ぎてゆく
ストックは書かなければ次の話で切れます
他にも幾つか小説を書いているので、よければ読んでください
あれから、一年の時が過ぎた。
それまでに一度も親にあったことがない――なんてことはなく。
二日後ぐらいに帰ってきた。
予想していた通りに両親は冒険者であった。
父親は短髪の金髪で顔立ちもそこそこ整っている。雰囲気からすると、体育会系で先頭を切るような感じだ。動きを阻害しない程度の防具を身につけ、腰にさしているのは……ロングソードだろうか。武器に関してあまり詳しくはないが、長剣の類だと思う。
考えるまでもなく前衛職だな。
母親は青色の髪だった。肩のあたりまで伸ばしており、目尻が下がっているためおっとりとした雰囲気を感じる美人さんだ。
同じく動きを阻害しない程度の防具をつけ、武器は弓であった。背負っている矢筒に矢が数本入っている。
でも、帰ってくるや否やニオイや汚れを落とさずにそのまま来るのはいただけない。
顔を思いっきり顰めて嫌がる反応をすると、メイドさんが思いっきり叱っていた。
その時に初めてメイドさんの名前を知った。
ロニア、というらしい。
父親が叱られているときに悪かったとか言いながら名前を呼んでいたので確かだと思う。
叱る際にメイドさん……ロニアが両親の名前を呼んでいた。
父親がデル、母親がアニアだと。
まあ、一番初めに名前を呼んでやるのはロニアだな。
その後も両親は二日、三日と家を空けたり、長いと一週間ほどだろうか。毎日いるということがなかった。
その間俺は、寝て起きて寝る。みたいな生活を繰り返していた。
ちゃんと、起きているときは強くなるために魔力をどうにかしようと頑張ってはいた。
その魔力に関しても着実に伸びている。
手探りながらも、まずは体内の魔力を感じ取ることから始め、それができるようになってからは空気中に漂う魔力を感じ取ろうとした。
体内の魔力に関しては二日もあれば感じ取ることができた。ただ、漂ってる魔力を感じ取るのに一週間かかったのは納得いかず、やり直しをしたかった。
まあ、あるかも分からない死に戻りを試して死んだら嫌だし、そもそも一度経験をした記憶があるのだから二度目は確実に早く習得できるだろう。
自身の問題だが、無理やりに納得して落ち着き、次へと取り掛かろうと思った。
けれど、まだ魔法を使うわけにはいかないために、意識して体内で魔力を循環させ続けた。
起きている間はそれしかやる事がなく、後はロニアが掃除している姿を眺めるぐらいである。
ちなみに飯は母なる乳ではなく、ミルクである。
なんでもロニアが口にしていたが、こちらの方が栄養があるとのこと。
俺からしたら羞恥に悶えなくて済むので、こちらでありがたい。それに美味いし。美味ければ文句はない。
一年も経てば上体を起こしたり、四つ足で動き回れるようになるのだが、いかんせん体力がなく、加えて未だに短い周期で睡魔が襲ってくる。
変化があるとしたらもう一つ。
あの漂っているボヤッとした光がもう少しはっきりと見えるようになった。
といっても、誤差の範囲内と思われるため、今後の成長にも期待である。
ほぼ一日中寝て過ごすと、あっという間に月日が流れてゆく。
だが、こうも思う。
よくある転生系ラノベではあれから何年経ったとか軽く書いてあるけど、一応は何かをやっているとはいえ……ものすごく暇である。
何もないからこそ時間を飛ばしているのは分かるけれども、ある意味では一番の苦行である。
三歳になると歩き回ったりして、あればだけれど本を読むことも出来るだろう。
今思ったが、この世界の文字を俺は読めるのだろうか。
言葉は初めっから聞き取れていたが、文字まで一緒だとは限らない。
この部屋には書籍類がないし……両親は冒険者。
異世界ってだいたい中世ヨーロッパと変わらないって話だし、時を読める人の割合なんてそんなに高いのかすら分からない。
商人には必須だろうけど、冒険者となると高ランクでも読めればいいといった可能性がある。
ラノベを愛した俺にとって、半分ほど活字中毒になっている。
読まなきゃ死ぬ! ってほどではないが、この世界の文献に興味はあるし、魔法書もあるだろうから読んでみたいってのはある。
でも、転生者にとってこの世界の教育ってのはむしろ邪魔になるのも確かだ。
異世界出身だからこそ、発想が素晴らしい。
魔法を放つときに強いイメージが大事だと、ほとんどのものでは書いてあるし、俺もそう思う。
稀にだがそういった考えもあるのか〜と納得できるのもあるが、異世界出身からしたら読んでも読まなくても差異はないだろう。
眠くなってきたし、また眠ることにするか。
☆☆☆
さらに二年が過ぎ。
念願(?)の三歳になりました。
髪が伸び、自身の髪の色が水色だと知りました。
母親の血を色濃く受け継いでいるのだとしたら、この世界での俺は男の娘となるような気がして、少し不安であります。
その間も特に変わりはなく、両親は不定期で家に帰ってきてはまた冒険。
帰ってきた際に汚れたままこの部屋にきてはロニアに怒られるのも変わらない。
両親がいるときにロニアの名前を呼んだら、反応がとても面白かったとだけ言っておく。
魔力といえば、体内を循環させるだけでも増えるのかは不明であるが、明らかに魔力量は増えていると感じる。
ただ、なぜ増えたのかは幾つか仮説を立ててみたが、立証するには足りないものがありすぎて断念するしかない。
それに加えて魔力操作の精度も上がっている。
しかし、この時点で自惚れることなかれ。
元の世界でも言えたことだが、上には上がいるものだ。
異世界なんて人間だけでなく、ロニアのように獣人もいることから、エルフやドワーフ、魔族もいることだろう。あとは両親が冒険者をやっていることから、魔物もいるはずだ。迷宮なんてものもあったら嬉しさ倍増である。
だけども慢心なんてすれば一瞬でお陀仏だ。
せっかく楽しめるのに、死んでしまっては意味がない。
歩けるようにもなり、この部屋から出て歩き回ることができるようにはなったものの、ロニアは心配性であるのか俺が一人で出歩いているのを見つけると一緒について回る。
確かに、普通だったら転んだり、下手すると外に出て行ったりするものだが、そんなアホなことはしない。
といっても、それを説明できるわけもなく。
大人しく歩き回るだけにしている。
ある程度は予測していたことだが、この家に本は存在しなかった。
やはり印刷がないこの時代、本は高いのだろう。
ロニアに聞いてみたところ、よっぽどの金持ちしか本は家には無いようだ。
両親とロニアは文字が読めるらしいが、ほとんどは冒険者の依頼を読むときにしかその知識は振るわれない。
この家は木造二階建てで、二階には四部屋あるが、部屋割りとしては一室が俺の部屋、一室が両親、一室がロニア、残りの一室は物置である。
一階にはキッチンとリビング、トイレと両親の武器が置いてある部屋である。
ただ、両親の武器が置いてあるところは直接見たことはなく、部屋のドアに鍵がかかっている。
何があるのかはロニアに聞いた。
風呂もまた、貴族や王族のような金持ちしか無いという。
毎日入る日本人として、これはいただけない。
俺も冒険者となったら目立たないように稼いで風呂付きの家を買うか。
……最悪、自分で家を一から造るってのもありだな。
いままではロニアが生活魔法である清潔ってか、クリーンとかいって魔法で綺麗にしてもらっているため、不清潔ではないのだが……いくら綺麗になるとはいえ湯に浸かりたいのは日本人である性分だからだろうか。
思っていた以上に、ロニアは博識であった。
分からないことを聞くとほとんど答えが返ってくる。
本がないこの時代、やはり経験として受け継いでいくのであろう。
情報ってのは一つの武器だ。
時と場合によってはいかなる武具よりも最強の矛となりて、敵を穿つ。
置きている間は掃除の邪魔をしない程度に話をしてもらう機会を得た。
もちろん、話を聞いている間も魔力を体内で循環させることを忘れない。今ではあまり意識せずとも出来るようにまでなっている。
そのため、そろそろ魔法に関して次の段階へと移ろうかと。
……あと、外にも連れ出してもらえると嬉しいです。
誤字脱字報告、大変喜びます