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41 君を待っている

クリスマスに欲しい物は、ない。



何もいらないから、だからどうか、



彼の傍で過ごさせてください。






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12月23日、祝日のお昼前に瑞樹さんは退院した。



私は午前中予備校に行かなくてはならなかった為、瑞樹さんは一人で家に帰りついた事をメールで知った。



昨日の帰り際に、



「風邪が移るといけないから、うがいと手洗いをして、熱が出たらすぐに薬を飲むか病院に・・・」と心配するので、



「大丈夫です。私、結構頑丈ですから。」とガッツポーズした。



「受験生なのに、ごめん。」



「退院したら、お家に行ってもいいですか?」



「解ってませんね。」



「絶対移りませんから、行きたいです。」



「そんな保証はありません。」



「だめですか?」



「だめと言っても、君の事だから来るのでしょう?」



「はい!」



「解りました。退院して落ち着いたら連絡します。だけど連絡するまでは来てはだめですよ?」



「解りました。」



本当はもっと一緒に居たかったけれど、制服だったので、瑞樹さんが帰りの心配をするし、それに彼が休めないといけないから、



病室で一時間少々一緒に過ごして帰って来た。



退院したら、一緒に居てくださいね。



今までの一年を埋めるように、あなたの傍にこれから・・・





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午後三時。



「姫麗、さっき陽芽野に電話で、どうしてもプレゼント要らないって言われちゃった。」



梧朗さんは手にした包みを残念そうに見つめている。



「中身を言っちゃったから嫌って言ってたのかな?」



「知らないと思うんだけど・・・」



「遠慮しているのかも。大丈夫ですって。その内渡したらいいでしょう?」



「そうだね。ところで、姫麗は何が欲しい?」



「えっ、あー・・・特に、ないです。アタシはいいから、それより梧朗さんは何が欲しいんですか?」



嘘。本当は彼から貰いたいとずっと思っている物が一つだけある。だけどそれが欲しいと彼にはどうしても言えない。



「自分の欲しいものか。うーん、休み・・・かな?」「そうですね。」それはアタシには叶えられそうにない。



梧朗さんは多忙だ。



就職活動はない代わりに、仕事三昧の日々。



一見華やかに見える俳優のお仕事は、昼夜問わず体力勝負の職業。



肉体労働系・・・



勉強の苦手な彼には合っているけれど、その細いカラダと繊細なココロでやっていけるのかと、ハラハラしているアタシ。



セイもそうだったのかな?



いや、アイツなら、



『そーは言ったって、やるしかねーだろ。その代わり、しっかり応援してやる』とか言いそう。



ハイハイハイ、宇宙の塵。アタシだって彼を応援してるわよ、多分。



セイは映画監督、梧朗さんは俳優、アタシは・・・脚本家に本当になれるのかな?



まだ一作も書いてないし、書き方も勉強していない。



これじゃダメだと思いながら、ぐずぐずしてる。



宇宙の塵は偉いな・・・自分の夢を追いつつ、彼を支えて来てさ。



はっ!



宇宙の塵って、そういえばいずれ星になるとかどうとかって聞いた事がある。



宇宙人から宇宙の塵に降格させた筈だったのに、



アイツはそこからいずれスター監督になるつもり?



こうしちゃいられない。



アタシも書くわよ。何でもいいから書いてみなくちゃ!



「また、考え事?」すすっとうなじを撫でる冷たい指先を感じて顔を上げた。



綺麗な顔・・・至近距離で見とれていると、



「また見てる。」クス、と表情を緩ませて、アタシの頬を手のひらで包む。



「だって・・・綺麗・・・っ!」



ふさがれた唇を割って甘い舌が挿し入れられる。



最近彼は、綺麗って言われるのが嫌みたい。



どうして?男の人だから?だって綺麗だからそう言うだけなのに。



「怒ってる?」



「怒ってないけど、綺麗って、それだけみたいで嫌だな。」



「それだけって?」



「うーん、この顔じゃなかったら姫麗は自分の事を必要としないのかなって思うと・・・」



「そんな事、ある訳ないでしょう。」



「そう?」



「はい。」



疑う彼に、



「セイだって顔はいいかもしれないけど、アタシは断然、梧朗さんじゃなきゃダメですから。」



と、セイの名前を出してみる。



「セイか・・・そうだよね。セイ、かっこいいもんね。モテるし。ますます解らないよ。姫麗が自分を好きって。」



「もう!疑うなら冬休み泊まりませんよ?いいんですか?」



「それは・・・やだ。姫麗にモテたい・・・」



「大丈夫です。アタシは絶対梧朗さん一筋ですから。」



アタシに甘える彼にときめく。



ドキドキドキ・・・もう一回、アタシに甘いキスをくれませんか?



アタシの両腕を掴む彼の指に力が込められると、そっと目を瞑った。



「あ、もうこんな時間だ。行かなくちゃ。」



彼はすいっとアタシから手を離して、



「行って来るね。今夜遅くなるし、明日学校の陽芽野も帰るから姫麗は泊まっても泊まらなくてもいいよ?」



用意していたカバンを持って、じゃあね、と出て行く。



アタシに気を遣って"泊まらなくてもいい"と言ってくれたのよね・・・と、都合良く考える事にする。



アタシの欲しい物、この左手の薬指に、いつか、あなたから・・・。



まだ、先かな?





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そろそろ、来るかな・・・



時計を眺めて落ち着かない様子の瑞樹は、すぐに温かいお茶を出せるようにやかんの中のお湯を温め直す。



シュンシュンと音がして湯気が立ち上る。カチッ、とコンロの火を止めて、そうだ、マスク・・・まだ残っていたかな?



台所から部屋に向かう途中で、



ピンポーンとチャイムが鳴った。



どきっ、として玄関ドアを振り返る。



マスク・・・あ、いや、とりあえず鍵を開けよう。外は寒いから。



「はい。」と言って鍵をカチャンと開くと、



「書留です。ご印鑑かサインを。」



「・・・あ、はい。」



サインをして受け取ったのはカード会社から送られて来た、クレジットカードだった。



「どうも・・・」



鍵をかけて台所の椅子に座ると、ふぅとため息を()いた。



「電話しようか?いつ来るのか。」



呟いて、考え直す。



風邪を移すといけないから来ないでと言っていたくせに、



やはり君に会いたいからと僕の我侭(わがまま)で呼び出すみたいで、(てい)が悪い。



来るなと言っても来るだろう君に甘えている僕は、とても恥ずかしい人間。



風邪だから祖父の所へはいけないし、医者からは退院後もしばらく安静にしてくださいと言われて、フラフラ外出する用事もない・・・あ、買い物でも行くかな?



あまり食欲がないけれど、夕飯とか、何か買いに・・・



ピンポーン。



また、ドキッ。



来た。君が・・・



「は、はい。」カチャ、とドアを開けると、



「あ、良かった。お留守じゃなくって。昨日は夜もいらっしゃらないみたいだったから、いつ伺おうかと思ってたの。」



「ああ、実は入院していて、すみません。」



「まぁ、そうだったの。あら、じゃあ救急車がこの辺に来ていたって、松田さんだったのね。それは大変でしたね。もう大丈夫なの?」



長くなりそうな気配を察知して、町内会の班長のおばさんが手にしていた町内会費の領収証を見て、



「会費の集金ですね?今持って来ます。」と奥に引っ込む。



財布を手にして会費を払うと、班長さんは、



「戸締りはしっかりお願いしますね。空き巣に注意して下さい。」と領収証を渡してから、それじゃと言って階段を下りて行った。



ドアを閉めてカチャンと鍵を閉めた僕は、ふーっ・・・とまた息を深く吐いて、



フラフラとベッドに倒れこむ。



まだ少しだるかった。



食欲も湧かないし、喉だってまだ痛い。



暖かい部屋の中、ベッドの上でうとうととし始めると、



再びピンポーンと鳴る。



もう、今度は誰だよ。



飛び起きる元気もなく、のろのろと玄関に向かう。



僕が出て行くのを待ち切れずに帰って貰ってもいいやと思った。



多分もういないだろうと、静かにドアを開けると、



「瑞樹さん。」



君だった。



ああ、僕は君を待っていたのに寒い外で待たせてしまうなんて最低だ・・・と反省しながら、「どうぞ入って・・・」としか言えなかった。



「具合はどうですか?お昼は食べましたか?」



「いえ・・・食欲がなくて。」



「じゃあ、これは見るだけにしましょう。」と君は小さなケーキの箱をテーブルの上に置いた。



「あ・・・そうだ。君に移るといけないからマスクを・・・」



「ありますよ。瑞樹さんがそう言うと思って用意して来ました。お台所お借りして、今お粥作りますから、ベッドに横になっていてください。瑞樹さんは、生姜は苦手ではないですか?」



「生姜?大丈夫ですけれど。」



「それでしたら生姜湯も持って行きますから、瑞樹さんは安静にしていて下さい。」



「でも・・・」と言いかけた僕の前で君はにこにこと楽しそうに、大きなバッグから取り出した赤いエプロンを纏って手を洗い、コンロの前に立った。



「少し、ここで見ていてもいいですか?」僕は台所の椅子に腰を下ろした。



「生姜湯の作り方ですか?いいですよ。簡単ですから。」



僕が見ていたいのは生姜ではないですけれど、まぁいいか・・・どちらでも。



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