39 君からのメール
君から長いメールが届いたのは、夕食後に薬を飲んで、窓の外を眺めている時だった。
昼間降った雪は、病院の植え込みに少し白く残る程度で、アスファルトや石畳の上は濡れてはいたが積もってはいなかった。
二人部屋だけど、僕一人しか使っていない病室は静かで、携帯電話を禁止されていなかったから電話も出来たけれど、まだ声が出しにくい僕を心配して、君はメールを選んだのだろうと考えた。
僕はベッドに腰掛けて、届いたメールを開いてみた。
メールには僕の知りたかった、どうして君が救急車を呼んだのか、大和さんが来たのか、僕の電話がここにあるのか、それらが全て書いてあった。
『瑞樹さんへ
具合はどうですか?とても心配です。
今日、救急車を呼んでしまったのは高橋社長さんの指示でした。
瑞樹さんがアパートで倒れてしまった後、何とかしようとしていた時に、メール着信の音がしたので、いけないとは思いつつも瑞樹さんのスマートフォンを手に取ってしまいました。ごめんなさい。
そして発信履歴を見ると、高橋大和さんというお名前ばかりでしたので、
瑞樹さんの好きな社長さんの事を思い出して、お電話しました。
そうしたら社長さんは救急車を呼んでという事と、お財布と電話と鍵を持って来てと指示されたので、それらを持って一緒に救急車に乗りました。
高橋社長さんは指定された病院にしばらくしてから見えられて、
入院の手続き等をすべて行って下さいました。
とても親切な方で、瑞樹さんが好きになった理由がよく解りました。
クリスマスには、奥様のいらっしゃる国へお出かけになるとお話していました。
瑞樹さんが目を覚ますのを心配して待っている私に、社長さんは瑞樹さんの色々なお話を聞かせ、和ませてくださいました。
瑞樹さんの好きな社長さんの事、私も好きになりました。
明日の午後の面会時間に、学校が終わったらすぐに行きます。
私がもっと早く気付いていればと思うと、とても悔しいです・・・ごめんなさい。
何か必要なものがありましたら、ご連絡ください。
・・・・・・ 』
所々絵文字が入ってはいたが、それでもニュースで見て知っていたこの年代のメール文にしては読み難くもなくて、まともだと思えた。
けど・・・
「社長を、好きになった?・・・和む話って、大和さんは君に一体何の話をしたんだ?」
社長を好き・・・君は僕といい、社長といい、男を好きになる男が好きなのか?
いやいやいや、今それはいいとして。
クリスマスに社長がたんぽぽさんのところへ行く?
聞いてませんけど?
まったく、あの人は昨年に引き続き休むつもりだったんですね?
僕にチクチク言われると思ったから黙っていたんだ!
社長に抗議の電話をしようかと考えたが、今日助けて貰った恩もあるし・・・
それに君の『ご連絡ください』というのは、連絡して欲しいという意味かもしれない。
まずは君にメールの返信をしてから、社長に電話をしよう。
声は出せるようになった瑞樹だったが、まだ掠れていたので、
メールの方が、いいかな・・・
『陽芽野さんへ
今日は色々とありがとう。
大変ご心配をお掛けして申し訳ありませんでした』
・・・あれ?何かカタいかな?
やり直し。
『陽芽野さんへ
今日は心配かけてごめんね。
大分良くなったから、もう大丈夫。
面会には来なくていいから、受験勉強をしっかり頑張って!』
・・・何か、違うような。
こんなにメールって、難しかったか?
ああ、何て書こう。何て書けば。
大和さんなら・・・
『陽芽野へ
今日はありがとう。君のおかげで命拾いしたよ。
明日、君が来てくれるのを楽しみに待ってる。』
ああ、ああ・・・
そ、そうだ!
ここは恥を忍んで訊こう。大和さんにどうやって君へ、メールを返したら良いのか。
女性に送る気の利いたメール文例集関係の書籍を読んでおくべきだった。
僕の人生において、女性とお付き合いする事になるという事は想定していなかった。
ええと、大和さんへ、発信。
呼び出すけれど、出ない。移動中かお風呂かな?
そうだ、インターネットで調べよう。
ええと、女性へのメール、文例・・・
チカチカ、チカチカ・・・液晶画面に、電池切れを知らせるマークが点滅する。
『充電してください』
スマートフォンの電池が切れた・・・
あわわ、どうしよう、こんな時に。
君に、メールの返信が出来ない。
きっと心配して待っている、かもしれない。
公衆電話から電話しようか?
しかし、大和さんの番号なら憶えているのに、君には殆んど電話をかけた事がなかったから憶えていないなんて、僕は何てダメなんだ。
結びが『早く良くなるようにお祈りしています。瑞樹さん大好き。陽芽野』というメールへの返信は、
本当はどうやって送ったら良かったのだろう。
『ありがとう。僕も大好きです』・・・いや、それは・・・。
『君が居てくれなかったら僕は死んでいたよ』何かの劇か?
『わかりました。おやすみなさい』味気ないかな?
『今日は君とデート出来なくなって、ごめん。とても残念だった。』本音過ぎてバカみたいだ。
電池がないから返信出来ないんだ。
決して返信したくない訳ではないと、君が誤解しないでくれる事を祈ろう。
今は電話すら出来ない状況なのだが・・・すでに明日、君に会った時に何て言えば許してくれるかな・・・?と先の事を考えてしまう。
瑞樹は陽芽野が置いて行ったこげ茶色の手袋を握り締め、ベッドの上に仰向けに横になった。
『君に会いたくなるから、電話出来なかった』
言える訳がない、ぶんぶんと首を振り、
正直に電池が切れたから、とだけ言おう。
初めての恋人からのメールにとても戸惑う瑞樹だった。
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瑞樹さんはメール、読んでくれたかしら?
もう眠ってしまったのかな?
明日学校が終わったらすぐに病院へ向かおう。
制服を着替えた方がいい?
でもでもでも、やっと会えるようになったのだから、早く会いたい。
今日も瑞樹さんに『すきです・・・ありがと・・・』って言われちゃった。
夢みたい。ふふふ。
私も好きです。
大好きです。
明日会ったら、直接言ってもいいですか?




