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27 二人の距離

クリスマスイブ前日。




三連休最終日。





年末の忙しい時期に三連休をきっちり休む会社なんて大企業でもないのに珍しい。





それというのも、うちの高橋社長が海外の奥さんに会いに行きたいという理由から、




「全社員、クリスマス前休暇だ!」とか訳の解らない名前を付けて、




勤務日は、年末年始の休暇まで四日しか残らない状態にさせられて、




明日からどれだけ忙しくなってしまうのか、社長は理解しているのだろうか?




ちゃんと今夜の便で、もしくは明日の朝までに帰って来るのでしょうね?と、今年最後の一枚になってしまったカレンダーを凝視しながら溜息を・・・止めた。




時計を見た。もうこんな時間だ。




早く部屋を出よう。




君が待っているから。






---------------------------------------------




「やん!カワイイっ!」




朝から私は姫麗さんに、着せ替え人形のように色々な服を着せられた挙句、メイク、そしてアクセサリーを着けられていた。




お兄ちゃんは朝早くから撮影の為、昨夜は帰って来れないからと代わりに姫麗さんにお留守番を頼んだみたいで、




大きなベッドに二人で寝転んで、眠くなるまでガールズトーク。




お兄ちゃんの事を訊かれるのかと思っていたのに、




姫麗さんの興味のあるお話は、瑞樹さんの方だった。




「カレとどこで出逢ったの?」




「この近くの路上です。道に迷ってしまった時、駅までの道を教えてくれました。」




「カレのどこが好き?」




「やさしいところです。私の事をすごく心配してくれるんです。」




「梧朗さんより年上だけど、怖かったりしない?」




「全然大丈夫ですよ。時々かわいいって思ってしまうところもあって、あまり年上だと感じません。」




「姫麗さんは、お兄ちゃんのどこが好きなんですか?」




「え、えー?どこって、そんな・・・陽芽野ちゃんには言いにくいなぁ・・・」照れる姫麗さんに、




「顔ですか?」と訊いてみると、




「顔だけじゃないよ。あんなに素敵な人はそうそういないでしょう?」




姫麗さんが真っ赤な顔になる。




「そうですか?お兄ちゃんは、自分は勉強も出来ないし、料理も苦手だって言ってましたよ?」




「ま、まーね。そういうところもあるけど、悪い事じゃないし、なにより、エ・・・あ、ううん、それはいいとして、全部、全部好き。」




「そうですか。では、そんな兄をよろしくお願いします。」




「はい。こちらこそよろしくお願いします。」




ベッドの上に正座して二人でふざけてお辞儀し合うとクスクスクス、とお互いに笑った。




「明日デートなんでしょう?アタシに任せてね!じゃあ、おやすみぃ。電気消すね。」




「おやすみなさい。」アタシに任せてって、一体?




その謎は、今は判明していた。




「これで今日のデートはバッチリね!絶対上手く行くーっと。」




ドレッサーの鏡越しに、ウキウキする姫麗さんの顔を見てクスッと笑ってしまう。




お兄ちゃんとは違う明るい性格の人。




どうして姫麗さんを好きになったのかとお兄ちゃんに訊かなくてもわかる。




姫麗さんと一緒に居たらお兄ちゃんはきっとしあわせになると感じられた。




姫麗さんに口紅をリップブラシで丁寧に塗られた私は、




「あの、私あまりメイクした事ないので、変ではないですか?」




「めちゃくちゃカワイー!梧朗さんが見たら嫁に出さないって言うわよん!」




姫麗さんにそう言われて、とても恥ずかしくなってしまった。




「カレも思わず、キスとか、しちゃうかも。」




キス?!




「それは、ないです。彼は・・・」




実は瑞樹さんは、私の事を好きではないと言ってしまったら、




きっとお兄ちゃんにも伝わって心配されて、お付き合いを反対されてしまうと思ったら、私は姫麗さんに相談出来なくなった。





「いってらっしゃい。」




「いってきます。」とは言っても、今夜帰るのはここではない。




明日は学校だから自宅に帰らなくてはならない。





「おはようございます。お待たせしてすみません。」





「何かあるの?今日・・・」と車の中でシートベルトを締めた私に瑞樹さんが訊いた。




いつも彼に会う時の恰好とは大きく異なるからかもしれない。




上品なベージュのウールコートを車に乗り込んでから脱いだ。




今日の服はすべてサツキさんの服だったみたい。




薄ピンクのタートルネックセーターとカーディガンのアンサンブル、そして黒とこげ茶のチェックの膝上フレアースカートに黒いタイツ、バッグはこげ茶のファスナー付き丸バッグ、そして同じこげ茶色のショートブーツだけはお兄ちゃんからのクリスマスプレゼント。




髪の毛は、リボンを編み込んで後ろでアップにしたスタイル。




リボンモチーフのイヤリングとネックレス、ブレスレットまで姫麗さんに着けられた。




メイクも・・・濃過ぎる、かしら?




「何も、ないですけど・・・お兄ちゃんの彼女さんがしてくれて・・・変、でしょうか?」




「いえ、変ではないです。」




・・・・・・




お互いに黙ってしまう。




通りを走る車の窓の外の立ち並ぶ店先には、赤や緑のクリスマスカラーが映える。




祝日の今日は、人も車も多くて、その賑やかさが冷たい空気を和らげている気がしてしまう。




ここが暖かいのは、車の暖房のせいではなくて、きっと瑞樹さんの隣だから。




連休中は、おじいちゃんのところへ行ったり、瑞樹さんのお部屋でトランプしたり、勉強を教えて貰ったり、それからまた・・・抱きしめて貰ったり、した。




だんだんあなたとの距離が縮められて行くようでとても嬉しい。




でも、今日で連休は終わりで少し寂しい。




冬休みも毎日会いたい、と言ったら迷惑がられてしまうかと、訊きたいけれどずっと訊けずに胸の奥で燻ったまま。




ずっとずーっと、一緒にいたいなぁって思ってしまうのって、わがままだって解っているけれど、どうしても止められなくて。




「着きましたよ。だけどちょっと駐車場が混んでいて、待ちますけどいいですか?」




「はい。」




あなたと一緒に居られるなら、特別な事は何もしなくてもいいんです。




ただこうして、隣で息をして、あなたの笑顔を見ていられたら、私はそれで十分満足なんです。





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