第夢話 悪夢の中に俺と誰か。
「友達って何だと思う?」
……これは夢だろうか。
俺は無人の教室で一人、机に座っていた。窓の外は茜色に染められていて、無機質なチャイムの音が鳴り響いていた。
無人の筈の教室に、まるで教師の様な口調で誰かが俺に話かけてきた。
知らない、と答えると彼女(?)は「つれないなぁー」と呟いて勝手に語り出した。
「私が思うに『友達』っていうのは、付き合うとメリットの大きい人を指すと思うんだ〜」
まるで彼女と俺が親友であるかの様な錯覚に陥ったが、そんな事はありえない。今の俺には親友も恋人も、ましてや友達もいない。
友情なんて綺麗事って事か? ヒドイな。メロスに謝れよ。
「それは小説の中の話。もしも現実で起こっていたら、違う結末だっかもしれないでしょ?」
確かに、もしも俺がメロスだったら一目散にセリヌンティウスを置いて逃げるだろう。
「まぁ、この世界のどこかにはそーゆー現実的な考えなしで友情を結んでる人はいると思うよ? けれども、そんな人達は少数派。『自分はそんなんじゃない』とか言ってる人も、無意識の内に、勝手に頭がメリットとデメリットを考えてるんだよ」
俺には難しい話だ。
「別に難しい話じゃないんだけどなー。まぁ、いいか。久しぶりに会えたのに、こんな話するのもアレだしねー」
久しぶり?
俺はこんな声、聞いた事もないぞ。
「もしかして忘れたの? 酷いなー。心外だよ。私はずっと覚えたのに」
すまない。本当に思い出せないんだ。
「はぁ。もう、しょうがないなー。じゃあ、ヒントを教えてあげる。大ヒントだよ?」
彼女は、甘くも何故か背筋が凍る声色で俺の耳元に話かけた。
「貴方の、初めての友達」
高校二年生の夏休み初日。
俺は、そんな悪夢の所為で目覚めの悪い朝を迎えたのだった。