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『黒猫』/『アッシャー館の崩壊』 エドガー・アラン・ポー


『黒猫』


 可愛がっていた黒猫の片目を、とある衝動からつぶしてしまった男。そしてついには猫を殺してしまう。月日は流れ、平穏な暮らしを送っていた男のもとに、胸に白い斑点のある片目のつぶれた一匹の黒猫が現れる。ふたたび猫と暮らすようになった男だったが……。


『モルグ街の殺人』や『盗まれた手紙』で有名なエドガー・アラン・ポーの作品。

 読んだあとの率直な感想は「うひょお、怖ぇ」

 手指のあたりから肩にかけて、うすら寒いなにかが這い上がってくるような、ぞわっとした後味のものだった。この作品は、いわゆる恐怖小説だ。幻想的で怪奇的、なんともいえない不気味な情緒ただようものである。

 男のあることに対する“告白”で、物語ははじまる。男が遭遇したあるいは引き起こしたある事件の顛末は、事の原因も結果も、話を聞くとまあ当然そうだよねで普通は終るものである。でも、この作品はそういうツッコミを入れる気にならない。とにかく、冒頭の男の語り口からしてうすら寒い気配がただようのだ。

 男はみずからに起こった一連の出来事を「恐怖」だと語る。男がいう「恐怖」には、すべて猫が関わっているのだが、猫に抱く男の気持ちと、猫へ対する仕打ちが合わさってラストへ向かうとき、物語の所々に置かれた布石がまさに「恐怖」となって感じられるのである。

 ところで男は最初に飼っていた黒猫に、「冥界の王」という意味のプルートーという名をつけるのだが、これが最後の最後で、なんとも不気味に際立っている。とても短い作品ながら、なにかしら引きずるものを感じる小説である。

 



『アッシャー館の崩壊』


 幼な友人であるロジャー・アッシャーから、ある日館へ来てほしいとの手紙が男のもとへ届いた。ロジャーは精神的な病から、ついには身体が弱ってしまったので元気づけてほしいとの旨だった。館へ到着した男は、この世から隔離されたような、館をつつむ陰鬱で荒涼な気配を不気味に感じながらもロジャーと会する。代々、その血統が長続きしないアッシャー家の人間は、ロジャーとその妹を残すのみとなっていた。男が滞在する幾日かのうちに、ロジャーの妹は病のため亡くなってしまう。妹を弔うため、館にある地下牢へ妹を埋葬する二人だった。あるとき、男は館に違和感を抱くようになる。

 

 これもまた、後味のよろしくない作品だった。『黒猫』に引き続く不気味さもあいまって、よけいに怖く感じた。

 話の筋自体は、際立って恐ろしいというわけではない。むしろストーリーの恐ろしさが抑えられた反面、なにかしらひたひたと迫ってくるものが感じられる。

 アッシャー館のそばには沼があるのだが、その沼の表現も怖い。沼は物語において非常に重要な役割と効果をもたらす。物語終盤の嵐のような筆致と、最後の最後に沼がもたらすインパクトに、なんとも言えず沈黙する他ない。そんな陰鬱な気配が、もわ~んとただよう小説であった。



   

【勝手にコラム】

『名探偵コナン』と、エドガー・アラン・ポー


 いきなりだが、漫画『名探偵コナン』に登場するこんなせりふをご存知だろうか。


『不可能なものを排除していって残ったものが、たとえどんなに信じられなくてもそれが真相なんだ』


というせりふである。たしかコナンが言った推理に対して、服部平次が「俺はそんなことは信じない」という意味のことを返した場面だったと。(うろ覚え)

 コナンの名言のひとつであるらしい。(あくまで、らしいの範囲)

 さておき、わたしはある作品を読んだときに、上記のせりふを思い出した。

 江戸川乱歩『暗黒星』である。


『僕は信じられないのです。しかし、あらゆる可能性を排除して行って、あとに残ったたった一つの結論がこれなのです』


 おお! コナンのせりふってここから引用したのか~と一人で勝手に納得していたが、どうやら違ったようである。コナン・ドイル『緑柱石の宝冠』からとっている模様。


『ありうべからざることをすべてを除去してしまえば、あとに残ったものが、いかにありそうもないと思えても、すなわち真実である』


 名探偵シャーロック・ホームズが言ったせりふである。これまたコナン愛読者の間では、当たり前の事実らしい。

 さてなにが言いたいのかといえば、ポーの有名な作品『モルグ街の殺人』にて、これらの源泉であるような一文を見つけたということだ。


『こういう明白な論理でこの結論に達した以上、ぼくたちは推理家として、それに反対してはいけないんだな。一見したところ不可能に見えるからといっても、この論理に従わなくちゃいけない。むしろ、こういう見せかけの『不可能性』が、実際は存在しないのだということを証明するのが、ぼくたちの仕事として残されているわけですよ』


 これは『モルグ街の殺人』に登場する、デュパンという人物のせりふである。実はこの人物こそ、先ほど挙げたシャーロック・ホームズなど、のちの数々の探偵推理小説に登場する探偵たちの礎となる人物なのである。ポーは、探偵推理小説ふくめ、推理小説を創った人なのである。知らなかった!

 ポーは、探偵というものを創造することによって推理小説の創始者となった。探偵は、事件現場の状況や目撃者の証言などから、事件の流れを筋道たてて思考するという役割を担う。それはこんにちでは当たり前に確立された推理小説の展開である。

 

 ともかく、乱歩もドイルも、なんだか似たようなせふりを書いている。源泉となったものが上記のデュパンのせりふであるなら、作品同士のこのような関連性を発見することは、なんとも興味深いものである。さらに、おそらく三者の影響を随所に受けたうちの一人に、『名探偵コナン』の作者もいるのだろう。

 コナンのせりふに、ポーから流れ出た推理創作の道筋を思いがけず垣間見た気がした。

 なればポーは、偉大なのだろう。  




 そんなわけで次回、『暗黒星』/『幽鬼の塔』江戸川乱歩

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