ドライヤー
飛行機が墜ちた・・・そう思った。
砂漠にオアシスはつきものだが、男はさっきから困っていた。
車のエンジンがかからないのだ。
(そうか、電池か)
男は、自分の頭を叩いた。
(俺は、年がら年中働いている)
「年がら年中だ」
男は、いらだちを世界に放つ。
思いは、伝導体、男の名を、高砂和言った。
ホテルに戻った黒澤と花、谷田、皆伐は、シングルベッド二つの部屋で、もう一度乾杯をした。
皆伐は、少し嫌な予感がしていたが、現状はそれどころではなかった。
「咲坂に会う予定じゃったが、どうもよろしくない」
皆伐は言った。
来週の伊勢志摩サミットに向けて、多くの関係者が動いていた。
「もう少しやれると思うてたが、祇園祭りよりも、舞妓の枕が問題じゃけ。そして、パナソニックのトップが、ハメられた一件で、アメリカから王手がかかった」
浴室から黒澤が出て来た。
裸ではない、ホテルの浴衣を着ていたが、花がかけているドライヤーの音が響いていた。
「生田神社じゃけんど、マフィアの星が代わりに来る予定じゃった。余計なヒッチハイクじゃけ」
黒澤は、冷蔵庫からビールを出した。
「エージェントは何してるんじゃろか?」
皆伐は、花のドライヤーの音に気を取られながらもそう言った。
「まあ、首都は今さら、東京に変えられないじゃろな」
谷田は、グラスにウイスキーを足しながらも、落ち着かないようで、「氷を取って来るわ」と言った。
京都御所から始まったこの世界は、皇族たちが身を隠すことで、いったん時を止めていた。
浴室から花が出てきた姿は美しかった。
「しょうがないわ!」と、突然谷田が言った。
流行りのスマホゲームをしていた皆伐は、「何がじゃけ」と、画面を見ながら言った。
「氷」
谷田はテーブルの上に、氷が山盛りに入ったアイスバケツを置いた。
「ここの製氷機が壊れていて、一階のフロントにお越し下さいと張り紙があるから、一階に降りて行った。そしたら、エレベーターの横に、氷はここですとあるではないか、俺は迷ったね」
「東京の人が何だかいるじゃけ」と、皆伐。
黒澤が、買ってきたブランデーを出した。
「どうしたじゃけ?」
花が聞くと、谷田が、飲みかけの水を飲みながら、「そう!それ!」と言った。
「結果良ければすべてよし」
黒澤が言うと、皆伐が、「あっ、いやー」と言う。
どうやらゲームオーバーらしい。
そこでいきなり部屋のドアがノックされた。
「誰?」と、皆伐が言う。
すると今度は、コッコッコッココと、リズムを付けてノックされた。
皆伐が立ち上がろうとすると、それを谷田が制した。
「誰じゃ?」
「楠木じゃけ」
谷田がドアを開けると、楠木が立っている。
「至急、部屋を変わるべし」
楠木の言葉に、谷田が、「だって」と付け足した。
「パジャマのままじゃけか?」
花は、ホテルの寝巻だった。
「ホテルの移動じゃあるまいな」と、黒澤が立ち上がった。
エレベーターに乗ると、「何階じゃけ?」と、皆伐が聞いた。
「9階じゃけ」
楠木が答えるのと同時に、エレベーターが動き出した。
「あっ」と、皆伐が言うと、花が、「早いじゃけ」と言った。
エレベーターが五階に止まると、何と、そこには蛍が立っていた。着物姿である。
「食中毒じゃけ。まかないが」
蛍はそう言いながら、エレベーターに乗り込んで来た。
「何で?」と、花が言うと、蛍が素早く9階を押した。
「どうにもこうにもじゃけ」
エレベーターが九階に着き、皆伐から降りた。
一番最後に降りた楠木が、「こっち」と言う。
「早く!氷が解けちゃう」と、谷田。
「左」と楠木が言う。
「カギはある?」と、皆伐が歩きながら聞いた。
楠木が蛍を見ると、蛍が、「開くじゃけ」と言った。
「いつかみたいになるまいなと」
黒澤が呟く。
「お偉いさんが入るじゃけ」
楠木の言葉に、花はうなずいた。




