42話 緊急事態
「こ、これは……。竜の呪い……?」
クリードの手の甲を見て、俺は愕然とした。
「何故、今頃になって俺にも現れたのかわからないが、まず、お前に見せたくてやって来たのだ」
「苦痛は?」
「まだ感じていないが、それも時間の問題……ううっ、く、苦しい……」
クリードが胸を押さえて突然倒れた。
呪いの苦痛が現れたのだ。
俺は倒れたクリードを担ぎ上げ、ベッドに寝かせた。
クリードは顔を歪めて、うめき声をあげながら苦痛に耐えている。
俺はこの苦しみを知っている。
まともに息ができないほど、正気でいられないほどの、苦痛が俺を襲ったのだから。
だが、俺はエクレーヌのお陰で、その苦痛から救われた。
「今すぐエク……」
今すぐエクレーヌを呼んで来ると言いかけた瞬間、俺の心の中で悪魔が囁いた。
お前、エクレーヌに、あの治療をさせるつもりなのか?
相手はクリードだぞ、本当にそれでも良いのか?
放っておけば、クリードは死ぬ……。
そしたら、エクレーヌはお前のものになるじゃないか……。
放っておけ、放っておけ……
放って……
「うるさい!黙れ!」
俺は大声で叫んだ。
クリードは苦しみながら、そんな俺を見て驚いている。
「すまない。驚かせたな。お前に言ったのではない。俺の卑怯な心に活を入れたのだ。今すぐエクレーヌを呼んで来る」
俺は泣きたい気持ちで馬車に乗り、エクレーヌを迎えに行った。
俺には、親友を見捨てることはできなかった。
子どもの頃からずっと一緒にいた友であり、心の許せる唯一の親友。
剣の修行で苦しかった時も、一緒に切磋琢磨してお互いを磨きあった。
あいつは生涯のライバルであり、死ぬまで助け合える友なのだ。
それに……、クリードはエクレーヌが愛する男なのだ。
クリードが死んだら、彼女が悲しむ。
彼女の悲しむ顔を見たら、俺は一生後悔するだろう。
だから、だから俺は……。
俺は侯爵邸の門をたたいた。
俺の姿を見て、侯爵邸の皆が慌てふためいている。
「今すぐエクレーヌの部屋に!」
使用人に頼んで、直接彼女の部屋に向かった。
「エクレーヌ、緊急事態だ。マントを持って今すぐ俺の部屋に来て欲しい。クリードの命がかかっている!」
エクレーヌは真っ青になって、俺と一緒に馬車に乗った。
クリードのことが、心配でたまらないのだろう。
ああ、俺は、俺の想いを諦めなければならないのか……。
馬車を降りたら、エクレーヌはマントを着けてクリードになった。
エクレーヌがクリードの姿になるところなんて、見たくなかった。
だが、今は俺の私的な感情に流されている場合ではない。
俺とエクレーヌは、クリードが待つ俺の部屋へと急いだ。
寝室に入ると、クリードはベッドの上で、胸を押さえて苦しんでいた。
「クリード、エクレーヌを連れてきた。今から治療を始めてもらうぞ」




