4話 神聖力
馬車から降りて、何が起きているのか、だいたい予想がついた私は、人だかりの中に入っていくことにした。
「ガトーさん、私、見てきます」
私は急いで人だかりをかき分け、声のする方に向かった。
ガトーさんと、シナモさんも、私を守るために、ぴったりとついてくる。
中まで行くと、ぐったりと倒れている男の子を前にして、泣き叫んでいる女性がいた。
男の子は五歳くらいだろうか……。
「お願いです。誰か、お医者様を呼んでください。お願いです」
男の子も女性も、質素でツギハギだらけの服を着て、何日もお風呂に入ってないみたいに顔も腕も薄汚れている。
周りを囲むやじ馬たちの反応は冷たく、医者を呼びに行こうとする者は誰もいない。
「医者を呼んで来たって、払う金なんかないだろう?」
「可哀そうだが、あの子はもうだめだな」
目の前に立ちふさがる男の言葉にムカッとした。
「私が治療します。どいてください」
私は目の前の男を押しのけて、女性の前まで出て行った。
「おっと、聖女様じゃないですか。この子を治療したってお金はもらえませんぜ」
「そうですよ。貧民街の子どもですよ」
ほんとに腹立つ人たちね。
私は怒りを抑え切れず、この男たちの顔をキッと睨んだ。
「命はお金に換えられません。身分も関係ありません。私が治療したいからするのです」
男たちは少し怯んだようで、それ以上何も言わなかった。
私は男の子の前に跪き、女性に聞いた。
「この子はどうしたのですか?」
「ついさっき、馬車にはねられたのです。馬車はそのまま止まらずに行ってしまいました。ううっ……、お願いです。この子を、私の息子を助けてください。聖女様、お願いします」
母親は、ぽろぽろと涙を流して私に手を合わせた。
私は、ぐったりと倒れて意識のない男の子の身体を観察し、顔面蒼白と冷汗、そしてお腹が異常に膨らんでいるのがわかった。
おそらく内臓が破裂している……。
「騎士様、この子の服を脱がせますから、周りから見えないようにしてください」
ガトーさんとシナモさんはマントを身体から外し、それを使って暗幕代わりにしてくれた。
私は男の子の服を脱がせて、手のひらをかざした。
治れ治れ治れ治れ……
心の中で念じてみたが、いつも感じる手応えを感じない。
この子のケガが酷すぎて、手のひらをかざすだけではダメなんだわ。
そのとき、頭の中で、直接触れなさいと言われたような気がした。
そうだわ、手をかざしてもダメなら、直接触れなければ……。
私は膨らんだお腹に両手を当てて、念じ続けた。
治れ治れ治れ治れ……
手のひらが熱くなり、自分の手から何かが奪われて行くのを感じる。
マンガの知識で言うなら、これが神聖力を流しこむってことなんだろう。
お願いだから、私の神聖力、途中で枯渇しないで……。
私の祈りが通じたのか、男の子のお腹は元に戻って、顔面蒼白だった顔にほんのり赤みがさしてきた。
だけど、まだ終わらない。私の身体がそう訴えている。
四ケ月間、いろんな人に治療をしてきた私は、治療に終わりが来ることを、身をもって知っている。
私自身の身体が、―終わったよ― と教えてくれるのだ。
「聖女様、息子の顔色が良くなりました。ありがとうございます」
母親はそう言ったけど、
「いえ、まだです。ここで終わると、再発します。だからもう少しこのままで……」
私はさらに強く、治れ治れと念じ続けて、神聖力を流し込む。
自分でもわかった。神聖力がもうそろそろ枯渇することを……。
まだ間に合う?
お願いだから、最後まで治療させて……
最後の力を振り絞り、私は男の子のお腹に神聖力を流し続けた。
―終わったよ―
やっと私の身体が終わりを告げてくれた。
良かった……間に合った……
「お母さん、息子さんは助かりましたよ」
それだけ言うと、私はふっと意識を失った。




