2話 小説の世界
お祈りなんて、どうしたら良いのかわからなくて困ったけれど、私には前世で読んだマンガの知識がある。
転生ものもいっぱい読んだから、その中で見た聖女の祈り方を真似て、指を組んで膝をつき、正面に祭られている白い女神像に祈ってみた。
優しそうな笑みを浮かべ両手を広げて、全てを受け止めてくれそうな女神様。
どうか私のことも受け止めて!
「この世界が平和でありますように……」
神官様をチラリとみたら、にっこり微笑んでいる。
良かった……。
神官様は、私の祈りを見ても何も言わなかったから、どうやら間違ってなかったみたい。
ほっとして、次は無言で神様にいろんなことを祈り続けていたら……
腕にケガした人が運ばれてきて、神官様に「癒しの治療をお願いします」って言われた。
いきなり癒しの治療って言われても、やり方がわからない私は、またマンガで得た知識をもとに、患部に両手をかざして「治れ治れ治れ……」と心の中で念じた。
すると手のひらがぽうっと熱くなってきて、患者の出血が止まり、傷口が塞がり出して、少し時間はかかったけれど、腕のケガはきれいに治ってしまった。
なるほど、これが聖女の力なのね……と私の方が驚いた。
それ以降四ケ月間、私は毎日聖女のお仕事を頑張っている。
仕事を始めてわかったことだけど、どうやら前のエクレーヌは、騎士様を癒すお仕事があまり好きではなかったみたい。
次女のショコラが、最近お嬢様の愚痴がなくなったって驚いていた。
治療に来る騎士様は平民が多くて、それが気にいらなかったらしいんだけど、もう一つ、騎士様の汗臭い匂いも好きじゃなかったらしい。
だから、直接患部に手をかざさず、服の上から治療を施していた。
そんなだから、神聖力の効果は弱くなるし、治ったのかも確認せずに治療をかってに終わらせていた。
私に言わせてみれば、なんてもったいないことを……と思う。
こんなに鍛えあげられた美しい筋肉美を見ないなんて……。
前のエクレーヌって、すっごく損してたよね。
それから、初めのうちはわからなかったんだけど、一週間後には、この世界が、私が大好きな18禁BL小説『竜の呪いと永久の愛』だとわかった。
略して『竜トワ』。
王宮騎士団長と副団長の愛欲の絡みが、何とも言えずエロティックな小説で、読むと疲れた身体を癒してくれたわ。
どうしてわかったかって言うと、私が騎士様に癒しの治療をしていたら、副団長のクリード・ビスク様が見に来てくれたから。
あれ? もしかしたら……って思った。
クリード様は、銀髪の長髪で紫の瞳をしているすっごいイケメン。
『竜トワ』のカラー表紙に描かれている副騎士団長と顔が同じだし、名前も同じ……。
で、まだ会ったことのない騎士団長のことを聞いてみたら、団長は黒髪で赤い瞳のシューク・モナク様だっていうじゃない。
カラー表紙には、二人の華麗なる騎士姿が描かれていたから……
ああ、やっぱりそうだった。ここは『竜トワ』の世界だったんだわって確信に変わった。
主人公のシューク様は、二十二歳で騎士団長でソードマスター、何と王太子でもある。
お相手のクリード様は、同い年で幼馴染で、由緒正しい侯爵令息。
この二人の絡みの美麗イラストが、何とも言えず素敵で、見惚れてしまったわ。
だけど、ちょっと気になることがある。
『竜トワ』に聖女が登場したのって、ちらっと一瞬、たった一行だった。
これって、私、ピンク頭なのに、モブ中のモブの聖女ってことだよね。
それに小説読んでるんだから、聖女が何をしたのかわかってても良いと思うのに、何も書かれていなかったから、私の役割って言うか、このお話の中での動きがわからない。
だけど、聖女のお仕事は好きになったから、私はひたすら働き続けて今に至る。
あら? 入り口が急に眩しく見えたと思ったら、副団長のクリード様がいらっしゃったわ。




