19話 白いマント
「あの……、フリュイ様、急がないと殿下のお命が……」
私は焦る気持ちで、少しでも早く行きたかったのだけれど……
馬車が出て行ったのを見届けてから、
「聖女様、申し訳ございませんが、どうぞこちらへ」
そう言って、フリュイ様は、すぐそばの大木に向かって歩き出した。
私はわけがわからずに、フリュイ様について行く。
大木の陰に隠れて、誰にも見られていないことを確認したフリュイ様は、持っていたカバンから白い布を取り出した。
「聖女様、まずはこれを、ご着用してください」
広げてみると、白い布はマントだった。
「何故、マントを?」
「私は変装魔法の使い手なのです。このマントをつけると、聖女様の姿が男性の騎士に見えるようになります。時間がありません。歩きながらご説明しましょう」
「わかりました」
私は白いマントを着用し、外れないように鎖の留め具をカチっと閉めた。
城内の歩道を歩きながら、フリュイ様は話し出した。
「侯爵様を安心させるために、神殿の救護室と申しましたが、実は殿下が待っているのは、ご自分のお部屋です。そこで呪いの苦痛と戦っておられるのです」
つまり、夜に女性が王太子の部屋に入ると、要らぬ誤解をされるかもしれないから、男性騎士のふりをしろと言うことなのだろう。
それは、シューク様にとっても、私にとっても、醜聞を回避するには重要なことなのだと思った。
「わかりました。それがお互いのためなのですね」
「わかっていただき、ありがとうございます」
「ところで、私はどんな顔の騎士様に変装したのでしょうか?」
「どうぞ、鏡をご覧ください」
フリュイ様が手鏡を渡してくれた。
魔法が掛けられているのか、鏡は夜でもはっきりと私の顔を映し出した。
キラキラの長い銀髪に、アメジストのような紫の瞳、非の打ちどころのない整った目鼻立ち……
「えっ? この顔は……クリード様?」
「はい、クリード様です。殿下と幼いころからの親友ですので、殿下の私室には、誰の許可なく出入りができます。殿下と二人で一晩飲み明かすこともありますから、クリード様に変装すれば、誰にも怪しまれずに、いつでも殿下の私室に出入りできるのです。ああ、それから、これは殿下の強いご命令なのですが、決して、殿下の前ではマントを着けないでください」
「あ……、はい。わかりました」
シューク様が好きなクリード様に、他人が変装するのって、絶対に見たくないのだわ……。
話しているうちに、私たちは王宮に着き、長い廊下を歩いた。
歩いている途中に、若いメイドとすれ違ったが、メイドは、私を見る目がハートになって頬を赤く染め、慌てて頭を下げた。
クリード様って、罪作りなのね。
フリュイ様は、奥の部屋の前で止まった。
この部屋は、以前にシューク様とキスをした部屋だった。
「こちらでございます。どうぞ中にお入りください」
言われるままに中に入ったけれど、そこにはシューク様はおらず、シーンと静まり返っていた。
窓の外は真っ暗だけれど、魔光石で作られたシャンデリアのお陰で、部屋の中は明るい。
「シューク様は右のドアの向こうの寝室におられます」
「とても静かですね。まるで誰もいないみたい……」
「シューク様は呪いにかかった日に、魔法士を呼んで、寝室に防音魔法を施したのです。苦しむ声が廊下に響けば、皆が不安がるからとおっしゃって……、どうか、聖女様、殿下をお救いください。聖女様なら、呪いを解くことができると殿下はおっしゃっていました。どうか、どうかお願いします」
フリュイ様は目を涙で滲ませて、何度も私に願った。
「わかりました。できるだけのことは致します」
私は寝室のドアを開けた。




