18話 フリュイ様
ガトーさんの誉め言葉を聞くと、きっと顔が赤くなってしまうから、話題を変えたくて、他の話題を探した。
騎士様と共通の話題と言えば、私でも知っているクリード様ぐらいかしら……。
「あの、最近、クリード様がこちらに来ないのですが、お忙しいのですか?」
私の言葉を聞いて、一瞬、ガトーさんの顔つきが変わった。
「えっ? ああ……、クリード様はお忙しくて、ここには来ないですよ」
なんだか、ガトーさんの口調が厳しい。怒っているみたい……。
もしかしたら、クリード様が来ない理由は、国家機密に関することだったのかも……。
それなのに、私的な内容を聞いてしまって、私、警戒された?
その後すぐに、ガトーさんはにこやかになって、爽やかな笑顔で治療のお礼を言って出て行ったけれど、怒らせたかもしれないと思うと、私はちょっぴり悲しくなった。
ガトーさんが救護室を出てからは、平静に戻って仕事を続けたのだけれど、私が侯爵家に帰ってから、とてもじゃないけど平静ではいられない出来事が私を襲った。
夕食が終わって、自室でくつろいでいるときだった。
「お嬢様、フリュイ・モンブラン様がお越しになりました。至急、お嬢様とお話がしたいそうです」
侍女のショコラが連絡に来た。
「わかりました。今行きます」
フリュイ様はモンブラン伯爵のご令息で、王太子シューク様の専属侍従だ。
短い茶髪に知的な緑の瞳で、シューク様を陰でよく支えている。
竜の呪いで、シューク様が救護室に運ばれて来た際は、邪魔にならない距離に立ち、ずっと心配そうな顔でシューク様を見守っていた。
そんな彼が、先ぶれもなく夜に来るなんて、よっぽど緊急を要することなのだろう。
私はシューク様に何かあったのではないかと、不安を抱えて応接室に向かった。
応接室に入ると、フリュイ様とお父様がソファに座って私を待っていた。
「聖女エクレーヌ様、突然の訪問をお許しください」
フリュイ様が腰を低くして謝罪する。
「いえ、お気になさらず……。殿下に何かあったのですか?」
「はい。そのことで、至急聖女様の力が必要なのです。ただいま、神殿の救護室でお待ちしております」
フリュイ様の顔が暗い。
おそらく竜の呪いの苦痛が再発したのだ。
「エクレーヌ、殿下の一大事だ。今すぐ神殿に行きなさい」
「はい。かしこまりました」
「侯爵様、寛大なご配慮ありがとうございます。エクレーヌ様を一晩お借りいたします。ただ、殿下が申しますには、周りの者に心配を掛けたくないとのことですので、このことは、他言無用でよろしくお願い申し上げます」
「ああ、わかった。約束は守ろう」
「ありがとうございます。では、エクレーヌ様、馬車にお急ぎください」
私はフリュイ様と一緒に、駆け足で馬車に向かった。
侯爵邸を出た馬車は猛スピードを上げ、あっという間に神殿についた。
フリュイ様のエスコートで馬車を降りて、私は急いで神殿の中に入ろうとしたのだけれど……
「聖女様、お待ちください」
何故かフリュイ様に止められてしまった。




