第4話
(*´ω`*)おぱようございみゃふ!
「―――――来ない」
そろそろ冒険者ギルド受付業務終了時間である。
待てど暮らせどクートが帰って来ない。
普段なら昼過ぎから夕方頃には帰って来る筈だ。
今朝も朝一番に現れいつも通りに薬草採取クエストを受注した。
だのに戻って来ない。明らかにおかしい。
(どうしたのかしら?何かトラブル?モンスターに襲われた?まさかまさか―――)
「⋯ランクやクエストを無視して、ダンジョンに潜った?」
この町の近辺には洞窟型ダンジョンが有る。
其処に潜れば一日での帰還はほぼ無理だ。
下手をすれば最悪、一生帰還はしない。
「クート君⋯」
カヤルは不安で胸が潰れそうになる。
そんな時だ。
「お?まだ仕事片付けてないのか?」
「支部長、クート君が⋯」
「ああ、今日はやけに早かったな」
「え?」
「ん?言ってなかったか?カヤルの休憩中に戻って来たぞ?」
「聞いてないんですけど?」
カヤルが支部長を睨む。
クートに会えなかったのは残念だが、無事なら問題無い。
「私が休憩に入ったのってお昼過ぎですもんね。んータイミングが悪かったのかな?でも遅くないです?」
いつもクートが来てから休憩に入る。今日はクートがなかなか戻って来なかったので、受付嬢の中では一番遅く、そして急いで休憩に行って短時間で戻って来た。その短い時間で偶々戻って来たのだとしたら、確かにタイミングが悪い。
「ああ、そっちじゃなくて昼前休憩だな」
「え?それは逆に早過ぎません?」
いつもの半分ぐらいの時間で薬草採取を終えている事になる。
「そうだな。慣れて来たし、群生地でも見つけたんじゃないか?」
支部長が適当に言う。納得はいかないがカヤルはそのまま帰るしかなかった。
(明日また会えた時で良いか⋯)
しかし、次の日もまた会えなかった。
と云うか、更に早くなっていた。
「え?クート君が?」
「カヤルの休憩中に来たわよ」
「そんな⋯」
朝一番にクートが来ず、やきもきしてる内に昼前休憩となる。
その間にクートが来たらしい。
そして更に、その休憩時間が終わる前に戻って来た。
それだとそれこそ薬草が生えてる森に着いて、直ぐに引き返して来た様な計算になる。
「私の休憩時間⋯一時間も無いわよね?」
「そうよね」
子持ち時短勤務の受付嬢が困った様に笑う。
「いったいどうやって⋯」
早い。明らかにおかしい。
不正を働く様な子ではないし、シンプルな薬草採取に不正を働く様な隙も無い。そんな事よりも―――
「ははは、お前避けられてるんじゃないか?」
「ちょ、支部長っ」
「―――――!?」
支部長のデリカシーの無い一言がカヤルの心を抉る。その時カヤルの脳内で再生される、思い出したくない記憶。
カヤルが若い頃、冒険者の男と付き合っていた。彼を見送り出迎える日々。次第に心配の方が大きくなる。ある日危険な仕事に赴く彼に訴える。
もう冒険者なんか辞めて、自分と一緒になろうと。彼はそんなカヤルに反発し、そのままクエストに向かい帰って来なかった。
「クート君⋯」
間の悪い事にそんな日々が続く。クートはカヤルが休憩に行くタイミングでクエストをこなしてしまう。
どう考えてもカヤルを避けているとしか思えない。
「お前クートに何したんだ?」
「まだ何も言ってません」
カヤルは決意する。
「ちょっとお姉さん、本気出しちゃおうかしら?」
そんな中クートはあっさり薬草採取クエストの受注上限に到達してしまった。
つまり強制昇格である。
彼はFランクとなり、モンスター討伐やダンジョン探索クエストを受ける事が出来る様になってしまった。
最後の薬草採取クエストの日、カヤルは休憩返上でクートを待ち構えていた。
「久しぶりですね。クート様?」
カヤルが凄絶な笑みを浮かべてクートに対応する。
クートはキョトンとしながら笑みを返す。
「カヤルさん、お久しぶりですね。最近会えてなくて寂しかったです」
「うぐ」
不意打ち過ぎる。眩しい笑顔で言われる破壊力よ。カヤルはキュン死し掛けるがなんとか持ち直す。
どうやらカヤルを避けていたと云うのは被害妄想だったらしい。本当にタイミングが悪かったのだろう。
「え?食事、ですか?」
クエストの手続きの後、然り気無く食事に誘う大人な女カヤル。
「ええ、そうよ。Fランク昇格のお祝いよ。お姉さんにご馳走させてね?」
カヤルがにこやかにクートを誘う。
クートは暫く考え込んでいたが、笑顔で応えてくれた。
「解りました」
「じゃぁギルドで待ち合わせで良い?今日は早めに上がるから」
「はいっ!」
その後は元気良く薬草採取へと飛び出して行くクートを見送るカヤル。
「よし、先ずは第一段階クリアね」
「若い燕のが良いのかよーカヤル」
「まだ子供だろアレ?」
「婚期逃してる女は必死だねぇ」
「ちっ、うるせーな」
常連の中年冒険者達が野次を飛ばして来るが無視だ。
「今度こそ⋯」
昔、カヤルの静止の声を聞かずに冒険へ向かった元彼は⋯河岸を変えて冒険者を続けていた事が後に解る。そしてその元彼はやはりクエスト中に負傷し、馴染みの娼婦と一緒になってしまった。
男に逃げられた事と、実は隠れて娼館に通っていた事、更にその娼婦に敗けた事。
トリプルパンチである。
以来、カヤルはフリーである。
恋人ならば直ぐに出来ただろう。
カヤルの見た目は悪くなく、能力も有る。
しかし、結婚を夢見る乙女は冒険者の様な根無し草には重過ぎるのだ。
それも冒険者を辞める事が条件だと尚厳しい。
「ふふ、逃さないわ」
「俺としては、有能な冒険者は辞めさせないで欲しいんだがなぁ」
ギルド支部長がボヤく。内勤でなくとも、大所帯のパーティーの支援部隊になら活躍の場はあるのだ。
それこそ複数のパーティーを束ねるクランなら、スキル食材鑑定の需要は確実に高い。
あの真面目さなら輜重部隊でもやって行けるだろう。
戦闘職でなくとも、冒険者は出来るのだから。
「ロッタ元気かしら?今度食事に行こうかなぁ⋯支部長の奥様も誘って」
「イエナンデモナイデスゴメンナサイ」
最終兵器で支部長を黙らせたカヤルが、獲物を狙い定めた女豹の目をしていた。
(*´ω`*)お読み頂き有り難う御座いみゃす!




