第40話
(*´ω`*)おぱようございみゃす!
「こんにちは、親方」
「お前、また来たのか。しかもまた⋯」
(違う娘か―――)
親方は言葉の続きを飲み込む。リコとか云う娘が本当にクートを刺し殺さないか心配になって来た。きっと凶器に使われるのは自分が打った包丁なのだ。それは嫌だ。寝覚めが悪くなる。
「ほほう!小さい鍛冶屋だが品揃えが面白いな!剣も鍋も有るぞ!ほほう!」
「小さくて悪かったな、お嬢ちゃん」
親方の所へやって来たクートとフラッペ。鋼糸の補充と武器の新調の為である。
「何か面白い物無いんですか?」
「うちは色物専門店じゃねぇんだぞ?後、女連れで遊びに来るな」
「もう俺常連じゃないですか」
「鋼糸ばっか買われても売り上げにならん。全身鉄鎧でも買ってけ」
「あはは、親方は面白いなぁ」
「嫌味だよ馬鹿たれ」
親方はクートと軽口を言い合いながらクートが連れている娘を良く見る。明らかな魔法使いの衣装。幼女にしか見えない背格好。其の割にはかなり上等な魔石を使用した業物の杖。
「まさか」
親方が軽く眉を上げ目を瞠る。
「悪食フラッペ」
「おや、私を知っているのかい?」
「特大の包丁を特注しただろ?良く覚えてる」
剣ではなく包丁。首を傾げながら親方はチョッパーを作り上げた。
「ああ、アレを購入したのは此処か。失礼した。会った事有ったかな?」
「買い付けに来たのは助手の娘だ。名前と云うか支払いはアンタ名義だった筈。身形は其の時に聞いた」
もしもフラッペが直接訪ねて来たら宜しくお願いしますと言っていた。
「助手?ああ、ショコラか。彼女は後輩だが上司?に当たるのかな?確かあの時はダンジョンに潜ってた時だったかな?」
フラッペの無茶苦茶な要求を飲んでくれる鍛冶屋を探し出すのに苦労したと小言を言われた覚えが有る。
「上司を使いっ走りにしてるのか?」
「ショコラ上級魔法士は上司と云うか御目付役だな。私が獣ならその娘は鎖だよ」
「成る程。見た目に騙されない様にしよう」
親方が嘆息する。滅多に顔を合わさないがエルフの常連やドワーフの知り合いも居る。向こうからすると『久しぶり〜』みたいな感覚で十年会ってないのに突然現れ親しげにしてきたりする。あのドワーフやエルフも元気だろうか?多分元気だろう。親方が死んでも更に長生きする筈だ。詳しく知らないし知りたいとも思わないが、目の前の見た目幼女もそっち側の存在だと理解する。其れで十分だ。
「必要経費だ。私が持とう」
「ありがとう」
クートの買い物はフラッペが支払ってくれた。新しい武器は入手出来なかったが。
「君の事ばかり知っていて不公平だな。私の事も教えよう」
「うん、教えて」
親方の店を出て二人連れ立って歩く。パーティーを組むなら情報共有は必要だ。特に彼女の固有スキルには興味が有る。
「彼氏居ない歴イコール年齢。趣味はモンスター食探求。魔食家とか悪食とか呼ばれてる。お風呂で最初に洗う場所は―――」
「違うそうじゃない」
フラッペの言葉を止める。
「固有スキルは攻撃魔法」
「攻撃魔法」
どんな特殊なスキルかと思えば思ったより普通だった。だが攻撃魔法ならば納得出来る。単騎でダンジョンに潜りモンスターを殺戮出来る。
「魔力操作に長けた者は手も触れずに卵を割って目玉焼きを作れる。私は出来ない」
フラッペが杖を振りながら嘆息する。
「私が其れをやると卵は木っ端微塵になりフライパンがひしゃげ、コンロごと潰れる」
フラッペの方から圧を感じる。それと何かの流れも感じる。此れは⋯
(魔力?俺の鑑定スキルがビリビリする。けど此れは俺のスキルが拡張したとかじゃぁないな)
フラッペの魔力が膨大だからだろう。
「気付いているだろう?私の杖の秘密を」
フラッペの杖の先端の魔石から水が生み出される。水は球体に成ったり猫の形に成ったりと自由自在である。
「普通、魔法使いは魔力増幅や精度向上、魔術式構築の短縮の為に杖を持つ。私は違う」
また圧を感じる。杖の先端から電撃が発生し、水の燕を破壊し水飛沫にする。
「精度向上の効果は有るが、本当の目的は私の魔力の縮小⋯弱体化、つまりはデバフだよ」
「デバフ⋯」
ゾクリとする。普通は強く成る為に装備を整える。しかしフラッペは弱く成る為に、弱体化する為に杖を持っている。
「私が杖無しで魔法を使えば側に居る君は死ぬしダンジョンも崩壊する。此の杖は生命線だな」
クートは何時もは行かない⋯と云うか行った事が無い場所へと連れて行かれる。
「高級住宅街⋯」
「ん?来るのは初めてかね?」
家々の外装は綺麗で整っており、街並みも平然としている。お洒落なカフェも有る。通りを歩く人々も皆身綺麗だ。
冒険者ギルドは繁華街やスラム街寄りに有るが、魔法士ギルドは高級住宅街寄りだ。領主の貴族等が住む貴族街程ではないが、商人や金持ち等が住む場所だ。町役場や銀行、図書館等も此方の方に有る。クートには普段縁の無い場所だ。
「ダンジョンに行くんじゃないの?」
「ダンジョンに行くよ?」
魔法士ギルドも同じく此方側だ。其れは何故か?有事の際は領主を含む貴族達は魔法士ギルドに避難し、外敵は魔法士が殲滅する契約を交わしている。冒険者ギルドは露払い役として機能する。スラム街や平民は見捨てる。そう云うシステムだ。
教会や病院等は町全域に点在しているものの、優秀な治癒魔法使いや医者は貴族街が抱え込んでいる。
「そろそろ着くぞ」
「此処は⋯」
フラッペはクートの手を握って歩く。直ぐに目当ての建物に辿り着いた。敷地手前にデカデカとプレートが掛けてある門が有る。
「此処が、魔法士ギルドか」
冒険者ギルドよりも大きい。敷地も建物も。そもそも冒険者ギルド支部には門とか無い。魔法士ギルドには庭園も有る。
(!?⋯此の感覚は―――)
庭園の方にクートのスキル食材鑑定が反応する。向こうには薬草⋯に類するナニカが有る。
(魔法に関する植物?栽培してるのか⋯)
「私の手を離さない様にね。君なら大丈夫だと思うが勝手に入るとトラップが発動して痛い目を見るよ」
庭園に視線が釘付けになっているクートの手をフラッペがギュッと握る。
「では行こうか」
魔法士ギルドのロビーはまるで高級ホテルの様に清潔でスタイリッシュだった。クートは高級ホテル等泊まった事は無いが。
「皆魔法使い?」
「そうだね」
皆結構普通の格好をしている。冒険者ギルドの受付嬢よりもピッチリした制服だ。
「フラッペ中級魔法士」
受付嬢⋯ではなく、似た制服の男性が話し掛けて来た。
「例の少年をゲットした。早速頼むよ」
「解りました」
男性はチラリとクートを見る。その瞳には同情や憐れみが有った。
(何其の視線)
クートは一気に不安になった。男性は何かの箱を持っていた。其の箱をフラッペが開けて中身を取り出す。
「悪いけど此れを付けて貰えるかい?クート氏」
「目隠しと、此れは?帽子?」
目隠し様の布を持つと、一瞬力が抜ける様な感覚を覚えた。
(弱体化?魔力阻害?只の布じゃないな⋯)
もう一つは帽子の様だった。其れからも変な感じがする。一見すると只の高級そうな帽子だ。しかし本能的に身に着けたくない。そう感じる。
「鑑定スキル封じだよ。目隠しの方は魔眼封じ。まぁ相当にレベルの高い者には通じないけどね。念の為だね。もし其れが嫌なら薬が有る。どっちが良い」
「此方にする」
此の謎アイテムも正直嫌だが、薬はもっと不安だ。
「スキル鑑定の鑑定結果は曖昧だ。人間が判別する訳だからね。完璧ではない。しかしその余白は可能性と言っても良い」
クートはフラッペに手を引かれながら彼女の話を聞く。
「君はスキル鑑定で食材鑑定とされた。しかしだ、更なる成長、拡張、進化は可能なのだよ。私も固有スキルは攻撃魔法だが、限定的だが治癒魔法や防御魔法も使える。専門ではないので本職には負けるがね」
フラッペに手を引かれながら進むと、扉を出て魔法士ギルドの外に出た感覚が有る。反転したり方向転換した覚えは無いので裏口だろう。
(何処だ此処は?何処へ向かっている?)
息遣いが有る。獣の気配。微かな嘶き。地面を擦る鉄の音。木が軋む微かな音。
「馬、馬車か」
「おお、鑑定スキルを封じても解るか。嗅覚聴覚も優れているのだね」
フラッペに背中を押され馬車に乗り込む。タラップは思ったより高い。座らされた椅子はフカフカのソファだった。田舎から出て来る時に乗った乗り合い馬車とは雲泥の差である。
「では行こうか。クート氏のダンジョン処女探索だ」
「言い方」
「じゃぁダンジョン童貞踏破記念?」
「もう其れで良いよ」
クートはフカフカのソファに身を沈め、大きな溜め息を吐き出した。
(*´ω`*)お読み頂き有り難う御座いみゃす!




