第19話
(*´ω`*)コンコンココンコココンコンコン
「がはっ!?」
べちゃりと無様に地面に落下したハーニャ。いくらスキル体術持ちでも、極度の緊張状態からの不意打ちだ。受け身すら取れずに全身を打ってしまった。
「あ痛ぁ⋯」
どうやら背中を蹴り飛ばされたらしい。しかし実力差から考えても、一蹴りで恐らくハーニャの背骨をへし折ったり、背中から腹まで貫通する大穴が出来ていてもおかしくなかった。
生きてると云う事は手加減されたのだろう。足加減かもだが。
「誰?」
「え」
其処でハーニャはハッと気付く。
謎の存在に蹴り飛ばされ落下した先は、クートと目と鼻の先だった。結構クートとは距離が有った筈なのだが、相当な距離を飛んだと云う事だ。
(何らかの魔法かスキルか―――いや、今はそんな事よりも―――)
「どうしたんです?大丈夫ですか?」
キョトンとしたクートが訊ねて来る。クートは魚を焼きながらスープを作っていた。背中に背負った手斧に隠れていたのか、一人用の小鍋も持って来たらしい。その姿を見ると魚を釣って野外で食事をしてるだけの少年だ。真横に胸を掻っ捌かれたサハギンの死体が重なってなければだが。
「ああ、えーと」
ハーニャは立ち上がりパパッと土を払う。ターゲットに接触する等クエスト失敗も良い所だ。今更逃げ出せない。誤魔化すしかない。
「私はハーニャ。冒険者だ」
ハーニャは開き直って名乗る事にした。先程の謎の存在はクートへのストーキング行為を咎めただけで、クートへの接触は禁じた訳ではなかった。むしろ、こうなる様に仕向けられた節も有る。逃げ出そうとしたらまた何かされそうだ。
「ああ、そうなんですね。クートです。ハーニャさんもサハギンを狩りに?」
「いや、クエストの詳細は明かせない」
(お前の身辺調査なんて言えないだろ)
クエストに依っては内容を語れない事も有る。
「ああ、それもそうですね」
クートは特に気にしていなかった。寛容と云うよりも⋯
(他者への興味が希薄だ⋯)
其処で初めてカヤルの心配も少しは理解出来た。クートは人当たりも良く愛想も良い。気性も穏やかで性格も良いのだろう。だが、圧倒的に他人への興味が無い。会話をしたのは今が初めてであるが、先程見たサハギン狩りが雄弁に物語っている。
自分以外必要としていない。他人を全く当てにしていない。
「一緒にどうです?食べます?思ったより釣れちゃったので」
クートは笑顔で食事に誘ってくれる。断って立ち去る事も考えたが、それだと完全に意味不明の不審者だ。もう少し交流をして印象を変えておきたい。
「有り難う。頂くわね」
クートから焼き魚を受け取る。釣った川魚に枝を突き刺し焼いただけのシンプルな料理だ。
しかし、食べてみると驚きの美味さ。
「美味しい」
塩味が効いてて美味い。あの腰のポーチには調味料を入れてあるのだろう。
「ええ、料理には自信有るんですよ。素材選びや火加減なら得意ですから」
手に入れた食材を美味しく調理する方法は、クートの固有スキル食材鑑定が教えてくれる。
(―――!成る程。そう云う事か⋯)
ハーニャがずっと感じていた違和感の正体が判明した。クートは普通なら冒険者が持ち歩く物を持っていない。
調理器具や調味料は持っているが、肝心の食材が無い。何故なら直ぐに現地調達出来るからだ。
(⋯確かにそう考えると有用なスキルかも?)
食糧問題は重要だ。長期遠征⋯とまではいかなくとも、一週間クエストに行くだけでも必要な食糧は大量になる。人数が増えれば尚更だ。余裕の有るパーティーは荷物持ちを専属で雇っていたりする。
(スキル食材鑑定に依る現地調達。そうか、どうりで軽装な訳ね)
クートは武装以外に大した荷物が見当たらない。腰のポーチに入っているのは薬草と調味料ぐらいだろう。食糧の類は見当たらない。
ナイフを腰に差して手斧と小鍋を背負い、お玉を括り付けてモンスター退治。釣り竿も現地調達で食材も簡単に手に入る。此れはクートならではの強みだろう。
「スープもどうぞ」
「有り難う」
石で組んだ即席の竈に掛けてある一人用の小鍋を勧めて来るクート。此の小鍋は鋼糸を買った鍛冶屋で一緒に買った物だ。町の中の鍛冶屋だからか、武器以外にも生活用品も売っていた。小鍋も買いたいと言った時に、親方にそれで戦う気かと訊ねられたのは笑ってしまった。
鋼糸に小鍋、ついでにお玉。冒険者が買う装備としてはおかしいだろうか。
「うっ⋯美味しい」
謎の敗北感を覚えるハーニャ。スキルを考えれば当然なのだが、料理でクートに勝てる気がしない。
川の綺麗な水を煮沸して魚の切り身と香草、野草が入っている。此れも塩味のシンプルな物だが美味しい。
ハーニャが女冒険者だけのパーティーでクエストをしていた時の事である。食材が尽きてしまい、良く解らない植物でスープを作った。土臭く苦く酷い味だった。当然の様にお腹を壊した。それでもそうやって飢を凌ぐしかなったのだ。
「⋯結婚して」
「え?なんですか?」
「いえ、なんでもないわ」
「そうですか。⋯アレ?魚が三尾くらい足りないけど。逃げ⋯る訳無いしなぁ⋯」
魚の数が合わない。釣り上げた時に枝に突き刺しておいたのだが、その後サハギンとの戦闘になってしまった。モンスターが跋扈するフィールドだが小動物も居る。野生化した猫や鼬が魚を奪っていったのかも知れない。
(狐とかかも)
金色のフサフサ耳とフサフサ尻尾を思い出す。
(師匠元気かな?)
最近また会えていない。
「クート君、美味しいよ」
小鍋からお玉で直接スープを召し上がっていたハーニャが告げる。クートはお玉を返して貰い自分も食べる事にする。
「お粗末様です。それは良かっ⋯―――アレ?」
妙な味がする。匂いを嗅ぐと香りもおかしい。小鍋をぐるぐる搔き回すと見慣れぬ野草の様な物を見つけた。
「おかしいな?こんなの入れてないのに⋯変な味もするし⋯毒じゃないよな?」
「え?」
クートの声に固まるハーニャ。美味しかったので結構食べてしまった。
「っっっ!?」
次の瞬間、ドクンッ!と心臓が脈打ち、目も回り出す。体が火照り、ドンドン鼓動が速まり呼吸も浅くなっていく。
「はぁっ!はぁっ!ク、クート君⋯」
(一服、盛られた―――)
盛ったのはクートではないだろう。自分も食べてるし。きっと犯人は先程の謎の存在なのだろう。つまり、逃げられない。逃げたら今度こそ殺される。殺されるぐらいなら、仕方無い。此れは仕方無い事なのだから―――
(頭が変になる。でも、欲しい⋯)
目の前の男の子が凄く魅力的に見えて来る。友達のカヤルがご執心なのも頷ける。あの子は男に煩い。そんな彼女が目を付け唾を付けているのだ。良い男に違いない。
(料理も出来る。生活力も有る。優しいし⋯何より―――)
首元のシャツの隙間から見える鎖骨や喉仏が男らしい。可愛い顔をしているがやはり男の子なのだろう。
(―――強い。強くて逞しいオス⋯)
未だやり方が良く解らないがサハギンを三匹も仕留めた。オークやゴブリンも数十体討伐している。将来有望である。こんな子を内勤職に誘導しようとするなんて、カヤルは悪い女なのだ。悪い女からお姉さんが守ってあげなきゃいけない。
「クート君」
「ハーニャさん。ちょっと待って下さい。この香草?かな?今鑑定しますから⋯」
クートは謎の香草を良く噛んで味わう。そうする事で効能と対処法を探っているのだ。
(なんだコレ?野草採取の時に一緒に摘んじゃったのかな?体が熱い⋯毒ではないみたいだけど⋯不味いな⋯)
状態異常が起こる。クートはサハギンを狩り殺した後の衝動を食事で誤魔化そうとしていた。それが乱される。もっと奪いたい。もっと殺したい。もっと喰らいたい。
(落ち着け。此の場には他人も居る)
クートはハーニャを理由に衝動を鎮めようと努める。しかしハーニャはハーニャで⋯
「クート君⋯私⋯もう我慢、無理⋯」
混乱した状態で衣服をずらし躙り寄って来ていた。ちゃんと脱ぐのも手間だった。早く、早くシたい。繋がりたい。男を感じたい―――
「クート君っ」
「ちょ!?ハーニャさん?」
食材鑑定に集中していたクートはハーニャの接近に気付くのが遅れた。
「わっ!?」
ステータス異常を起こしたハーニャは、十ぐらい年の離れた年下の男の子を押し倒す。
「ハーニャ⋯」
「クート⋯」
二人は見つめ合う。頭の何処か冷静な部分が此れは異常事態だと認識しているが、本能に逆らえない。
本能が、魂が囁いて来る。交われ、子を為せ、乱れろ。全て喰い尽くして貪り合え―――
「んむっ!?」
「んんっ―――」
勢い合わせた唇。歯がガチンと当たる。舌を絡ませ腕を絡ませ足を絡ませ指を絡ませる。主導権を奪い合う様に、押し倒されたクートがゴロリと転がりハーニャを組み伏せる。強いオスに上に乗られ、メスの本能が刺激され高まって行くハーニャ。
「ああっ!?クートっ!」
「ハーニャっ!」
⋯⋯⋯と云う感じで、ハーニャは親友が狙っていた若い燕を寝盗ってしまうのであった。
(*´ω`*)ハーニャが飛んで来て吃驚してる隙に魚を供物として奪って恩賜品として媚薬をくれるミステリアスふぉっくす様。ハーニャが結構な距離を蹴り飛ばされたのは魔力操作に依るぶっ飛ばしです。このミステリアスふぉっくすの技のジャンルは格ゲーで云うところの回避とかぶっ飛ばしですかね。必殺技どころか通常技でもないのだコン。パンチキック同時押し的な奴だコンコン。




