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海に行けなかった理由

作者: 藤ヶ谷

9月。夏は終わった。

海に行こうって約束は嘘だったのか。じめったい暑さが続く中、夏休みも終わり新学期が始まった。

日焼けしたみんなの顔、夏休みの思い出話、ギリギリになって終わらせた宿題。

君はまだ学校に来てないみたい。


長すぎる始業式が終わってからあんまり記憶がない。

気づいたら遠くで歪むアスファルトを見ながら下校していた。長ズボンのせいで熱が籠って仕方ない。

小石を蹴って帰る。右足で蹴って2歩進む。次は5歩。上手くいかなくて左足で蹴る。側溝に落ちておしまい。

いつもならもっと続くのにな。


いつも通り家族と晩御飯を食べて、お風呂に入って、歯磨きをして、寝る支度をした。

いつもと違うのは君に会えなかったことだけ。

布団に入って考えた。もしかして宿題終わらなかったのか。あいつまた風邪ひいたのか。

でもなんで来なかったんだよ。

布団を深くかぶったら息が上手くできなくなった。

堪えてたのに分かってたのに顔が濡れて視界がぼやけていく。


自分の席の隣に置かれた花瓶。始業式の校長先生の真剣な話。みんなの暗い表情。

そうだった。

もう、いないんだった。

置き手紙もなく、なんの前触れもなく急にいなくなった。


君は笑うかもしれないけどまだ信じてない。

きっと、どっかしらにはいるだろ。

認められるわけない。何年、一緒だったと思ってんだよ。見つけたら一発じゃ済まないかもしれないな。

海に行く約束、破ったんだから。

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