悪役令嬢は婚約破棄される前に婚約破棄をする
私はクランベル・ハルバード。
ハルバード公爵家の一人娘である。
そんな私の婚約者はアクレス・オーグランド。
オーグランド国の王太子である。
今日は学園の卒業パーティーの日である。
卒業パーティーは、盛大に王宮で行われるため、クランベルも王宮に向かっている。
しかし、隣にはアクレス王太子はいない。
本来なら婚約者の男性は令嬢の家までエスコートするものなのだが、アクレス王太子が来ることはなかった。
昔から仲が悪かったのか?
いいえ、昔はアクレス王太子とは仲睦まじく愛を育んでおりました。
今でも婚約した時の事を忘れません。
『心配する事ないよ、僕が君の事を守るから』
何処を守られているのでしょうか。
野球なら内野ゴロがランニングホームランになるほどがら空きでございます。
サッカーなら百点とられ点数表示が出来なくなるほどザルでございます。
そんな二人の仲が可笑しくなったのは学園に入学してからです。
ミーリア・ホワイト。
ホワイト男爵家の娘にアクレス王太子は心を奪われて行くのです。
最初は、「ミーリア男爵家は経済的に厳しく馬車の通学が出来ないらしい。令嬢一人は危険だから私が送迎してあげようと思う」と言って、公爵家に迎えに来て頂けなくなりました。
一人だと危険だから?
そう思うなら王宮の誰かに送迎させれば宜しいだけの事でしょうが!
次に「ミーリアが一人で昼食していて可哀想だから私が一緒にいようと思う」と言って二人での昼食の時間がなくなりました。
一人だと可哀想?
お前がいなくなってから私の方がずっと一人でお昼を食べていたわ!
「わたくしもご一緒しましょうか?」と言ったら「君はいい」じゃないわ!
最後に「君はなんて冷たい人なんだ。少しはミーリアの事を見習った方がいい」と、言いたい事だけ言って去って行ったわ。
見習った方がいい?
それはそっくりそのままお前の事だろうが!
婚約者を三年間無視するお前が一番冷たいわ!
こんな感じでアクレス王太子との仲は完全に亀裂・・・いえ断裂してしまった。
月一回のお茶もキャンセルが続き、誕生日の言葉もプレゼントも来なくなった。もはや、朝の挨拶すら二年ほどしていない。
そんな私は今日の卒業パーティーで婚約破棄と断罪をされる。罪状はホワイト男爵令嬢への苛め。
罪状を詳細にすると、
ホワイト男爵令嬢の教科書を破り捨てた。
はい、やりました。
もう、破り捨てたなんて生ぬるい。賽の目切りに細かく切り裂いてやったのにどうやってバレたのかが不思議ね。
次にホワイト男爵令嬢のドレスにワインを掛けた。
はい、やりました。
グラスなんて生温い、ボトルごと吹っ掛けてあげました。
次にホワイト男爵令嬢への暴力。
はい、やりました。
「この泥棒猫!」と彼女の頬を思いっきり叩いてさしあげました。次の日、私の右手に包帯を巻くようになるくらいおもっきりです。
次にホワイト男爵令嬢を噴水に落とそうとした。
はい、やりました。
ですが、大事なのは『落とそうとした』でございます。
私、落とそうとしましたが彼女は落ちておりません。
彼女は落とそうとした私の手を掴み来るっと反転して私が噴水に落ちました。
お陰で3日ほど風邪で寝込むことになりました。
最後にホワイト男爵令嬢を階段から突き飛ばした。
はい、やりました。
ホワイト男爵令嬢の事を思いっきり突き飛ばしました。
ホワイト令嬢は転げ倒れました。
ただ、私が突き飛ばしたのは1段だけでしたのにホワイト男爵令嬢があそこまで見事に転げ倒れるとは思いませんでした。
これらの罪をこれから断罪されるのかと思うと卒業パーティーに行くのが憂鬱で仕方がありません。
えっ!何で知っているのか?
ふふふ。
実は私、前世の記憶があるのです。
そして、この世界が前世で見た小説の中の世界であることに気付いたのです。
小説では、私は婚約破棄&断罪により国外追放されるなかで盗賊に襲われて殺される事になっている。
えっ!何で回避対策をしなかったのか。
ふふふ。それは無理な相談でございます。
記憶が戻ったのは先ほど馬車の中でございます。
遅すぎる!
あまりにも遅すぎるわ!
もう既に死刑台の13階段の10段目まで既に登っているいるようなもの。逃れようと脇に逸れても執行官から駄目よと元に戻されるだけだわ。
あーあ、私が何をしたって言うのよ。
浮気をしたのは向こうじゃない。
何で私が断罪されなきゃ行けないのよ。
クランベルの憂鬱な気分を鑑みることなく、馬車は無情にもパーティー会場に着いた。
クランベルは気合いを入れる。
覚悟を決める事にした。
~パーティー会場~
クランベルはパーティー会場に向かう。
クランベルは公爵令嬢としてもアクレス王太子の婚約者としても有名人である。
そんな公爵令嬢であるクランベルがアクレス王太子にエスコートされることなく現れたのだから、皆が何事かとざわつくのも仕方がない。
クランベルはエキストラのざわつきなど無視し、可憐にパーティー会場に入った。
パーティー会場には既にアクレス王太子がいる。
そして、アクレス王太子の横にはホワイト男爵令嬢が王太子にしがみつくように立っていた。
「クランベル・ハルバード!本日を以て貴様とのこんや『婚約破棄させて頂きます!』」
クランベルはアクレス王太子が婚約破棄を告げる前に逆に婚約破棄を告げた。
普通なら王家の者の話を遮るなんてご法度なのだが、内容が内容だけにエキストラ達は静寂からどよめきへと変わった。
決めゼリフを際切られた王太子は自身が告げようとした婚約破棄を先に告げられた事で何が起きたのか頭が追い付かず、「へっ?」と、間抜けな声を漏らしていた。
「その前にミーリアさんご免なさい!私はアクレス王太子の『浮気』が赦せなくて貴女に散々嫌なことをしてきてしまったわ。ご免なさい!」
公爵令嬢が男爵令嬢に頭を下げていると言う奇妙な構図にエキストラの頭も追い付けずにいる。
「ミーリアさん、私が貴女にしたことは赦される事ではないわ。なので、もう私はアクレス王太子との婚約を破棄するわ。それにこれからは貴女の事を決して苛めたりしない。誓うわ!だから許して下さい!ご免なさい!」
クランベルはミーリアに近付き更に懇願する。
「ミーリアさん、駄目?赦してくれない?ちゃんと婚約破棄するわ!お願い赦して!何なら、公爵家も二人の結婚を後押しするわ。お願い赦して!」
「えっ!結婚・・・」
(よし!揺らいだわ!チャンス!)
「ええ、私にはアクレス王太子は支えられないわ。彼にはミーリアさんしかいないわ。だからお願い赦して!ね、赦して!」
「は、はい・・・」
クランベルのあまりにも強烈な圧に負けてしまいミーリアは思わず返事をしてしまった。
(言質もらったわ)
「ありがとう~!」
クランベルはミーリアに思いっきり抱き付く。
蚊帳の外にいたアクレスが、ここでやっと二人の間に入る。
「貴様!俺のミーリアに親しく触るな!」
アクレスがミーリアに抱き付くクランベルを無理矢理引き剥がす。
クランベルはチャンスとばかりにアクレスに突き飛ばされたように見えるように派手に跳ね転ぶ。
そして最後に右腕を激しく床に叩きぶつけた。
ボキッと鈍い音が会場内に響く。運良く骨が折れてくれたらしい。
「えっ・・・あっ・・・」
まさかクランベルがここまで激しく転ぶとは思わなかったアクレス王太子はいい訳する言葉が出てこない。
「ひでぇ」
「可哀想」
エキストラがクランベルの味方に着いた。
もう会場の空気はクランベルの断罪劇ではなく、アクレス王太子の断罪劇へと変わった。
「ミーリア様、お許し頂きありがとうございます。それでは、アクレス様、私達の婚約破棄の了承をお願いします。理由は、先ずわたくしが男爵令嬢への苛めによる王家の妃として相応しくないと言う事。そして、アクレス様の不義理です」
「不義理だと」
「不義理で御座いましょう。浮気相手と通学したいからと婚約者との通学拒否を三年、浮気相手と食事をしたいからと婚約者とお昼を共にしなくなって2年、婚約者との月一のお茶会はキャンセルをし、婚約者の誕生日にプレゼントやお祝いの言葉もなし、そして今日のパーティーでは、ドレスも贈られてこない、エスコートもない。此を不義理と言わずしてなんと申しましょうか!」
「そ、それは・・・」
エキストラがあまりの酷さに引いてる引いてる。
護衛の騎士ですらアクレス様を軽蔑な目で見ている。
「私は王家の妃として失格、アクレス様は男として失格、ですので互い有責としてこの婚約を破棄致しましょう」
「男としてだと」
クランベルはミーリアの時と同じように今度はアクレスの元に駆け寄り、アクレスの手を掴む。
「もう私達は昔のようには無理だわ。『僕が君の事を守るよ』と言ったことは嘘だと解ったわ。お願い婚約破棄を致しましょう」
クランベルは然り気無くアクレスの顔に近付くと誰にも聞こえないように囁く。
「王子ならもっと上手く立ち回りなさいよ。駄目ね」
アクレスの怒りは一瞬に沸点を越え、「貴様!」と怒鳴りながらクランベルを突き飛ばす。
クランベルは再びチャンス到来と、おもいっきり派手に吹き飛ばされる。
「いや・・・コイツが・・・無礼な事を・・・」
アクレスがいくらいい訳しようとも無理だ。エキストラだけではなくミーリアも引いている。
「私は真実を言っただけです。ミーリアさん気をつけて下さい。アクレス様は『君の事を守る』といいますが守ってくれませんでした。そして、このように暴力に出ることも御座いますので気を付けて下さい」
「わ、私はそのような事は・・・」
「何の騒ぎだ?」
やっと国王陛下が登場した。
本来の登場はもっと後なのだけど、誰かが呼びに言ったのだろう。
国王陛下は私達三人の状況を見て瞬時に理解したようで、私達を会場から退場させた。
国王陛下の宣言により私達不在で卒業パーティーが始まった。
~王家控え室~
「どういう事だ?」
王家控え室には、国王陛下、王妃、第二王子とアクレスとクランベルがいる。
ミーリアは男爵令嬢と身分が低すぎるため、王家控え室には入る事が出来ないため、別室で待機している。
「申し訳御座いません。アクレス様は私が宣言する時にわたしに何を告げようとしたのですか?」
「こ、婚約破棄だ」
「なんだと!お前がクランベル嬢と婚約したいと申したのではないか!」
「怒らないで下さい。実は私は今日の卒業パーティーで王太子殿下から婚約破棄される事は知っておりました。ですので、私の方から婚約破棄させて頂きました。私は王家の妃としてあるまじき行為をしたこと、アクレス様は婚約者に対する不義理によってです」
「お互いにと申すか?」
「はい。私とアクレス様は結ばれる運命ではなかったのです」
「そのような事を申すな」
「そうよ。二人はあんなに仲良く笑い合っていたじゃない」
「はい。あの頃、『君を守る』と言って下さった時は本当に嬉しかったです。ですが、アクレス様の『君を守る』と言う対象は別のご令嬢となってしまいました。私はアクレス様にとって不要なのです」
「クランベル・・・」
「私からも宜しいでしょうか?」
「どうしたロビン」
「兄上にはクランベル様以外に思うご令嬢がいるようで、常にそのご令嬢と一緒おりました。クランベル様は常に一人だったのです。クランベル様も行きすぎた所はありましたが、元はと言えば兄上の不貞が原因です」
「そ、それは・・・」
「解った。お主達の婚約は破棄するものとする。尚、クランベル嬢はホワイト男爵令嬢への今後の謝罪次第で罪状を判断していく。また、アクレスの王位継承権を剥奪し、王家が所有する領地の一部をお主に与え公爵としてホワイト男爵令嬢と婚姻を結ぶ事を許そう」
「なぜ私が剥奪されるのです」
「お前も可笑しな事を言うな。男爵では王家の者と婚姻を結ぶ事は出来ない。お前も知っているだろう?」
「それは、ミーリアを何処かの侯爵家の養子すればよいではないですか?」
「なぜ、そのような事をしなければならない?」
「へっ?」
「ロビンもいる中で、なぜお前に王太子を拘らなければならない。ミーリア嬢を王家の者と婚姻を結び教育を一から学ばせたとするのにどれだけの国費が掛かると思う」
「そ、そんな・・・」
~その後~
○アクレス・オーグランド
王都から離れた土地を領地とし公爵の地位を授かる。
ミーリアとは無事に婚姻を結ぶ事ができ、子供も二人授かる事が出来た。度々、何を思ってか解らないが溜め息をつき、溜め息をつく度にミーリアの機嫌が悪くなる。
○ミーリア・オーグランド
アクレスと無事に婚姻を結ぶ事ができ、二人の子供を授かった。度々、クランベルとお茶をしているが、アクレスには内緒にしている。
○クランベル・ハルバード
断罪を避けながら無事に婚約破棄する事が出来た。
傷心を癒すため、領地で療養している。
そして・・・
「お嬢様、隣国のベンジャミン王太子殿下より婚姻の打診が来ております」
「えー、もう王族は懲り懲りなんだけど」
「しかし、特に理由がなければ断るのは難しいかと」
「解ったわ。ゆっくり休めたし、ちゃんと公爵の娘として務めを果たすわ」
「それでは、公爵様に承諾のご連絡をして参ります」
一人になったクランベルはテラスに出て背伸びをする。
「婚約破棄される前に婚約破棄してよかった~♪」




