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ドライバーズ・ハイ  作者: げっと
0章 赤坂烈火、新入生。
9/14

0-8 体験入部(一)

 放課後、七海と烈火と、その二人の元に訪ねてきた真琴が、烈火の机の三方を囲んでいた。

 残った一方からは、窓から差し込んだ陽の光と、どこか肌寒さを孕む穏やかな風が吹き込んでくる。



「まこまこはどうするの?」なんて七海が問うと、


「卓球やろかと思てたけど、どうしょうなぁ〜」と曖昧げに返事をした。


「やりゃええやん。それとも、気になる?何かが」



 七海の追求に対する真琴の回答は、うんん、うふふと怪しげな笑みを浮かべながら、

 七海の頬を指でつつくばかり、というものだった。七海も負けじと、頬を膨らませて応戦する。



 話題はもっぱら部活のことだった。

 この一週間の間は体験入部があるそうで、七海も真琴も、せっかくなら一緒に見て回りたいと思っていたようだ。

 一方の烈火はというと、正直、逃げ出してしまいたかった。

 うやむやにしたまま一週間が過ぎて、入部届けを出さないままで居られたら、どんなに幸せなことか。

 烈火は頬杖をつきながら、膨らんでは萎むカーテンを眺め続けた。



 そんな烈火の心の内なんて露知らず、二人はのんのんと話をまとめていた。

 机の真ん中にノート広げられ、そこに走り書きしたようなーそれでいて酷く崩れておらず、美しさすら同居するようなー文字が、ノートの中央から、端に向けて広がるように書き連ねられている。

 まるでアリの巣のように広がっていくノートの文字は、いくつかの部屋を設けられて、その周りに集まっているように見える。




 突如として、真琴のノートがぱたんと閉じられる。

 その音に気を取られて振り返ると、意地の悪い笑みを浮かべた二人が、じりじりとり寄って来るのが分かった。

 烈火は気圧されながら二人から離れようとするも、直ぐに窓際に追い詰められた。

 そして烈火の両脇を抱え込むと、烈火を教室から連れ出した。

 二人が結託して、悪巧みをしていることは、火を見るより明らかだ。

 烈火は逃げ出そうと試みるが、二人がかりでこうも抱えられては、逃げ出そうにもうまくいかない。

 それがたとえ、ーそれこそ、ハンドボール投げをさせれば四十メートル近くの記録を叩き出すほどのー力自慢の烈火が、自分よりもやや小柄な七海と真琴が相手であったとしても。

 抵抗虚しく、烈火は体育館へと連行された。



 体育館では真ん中にネットが貼られており、その手前側ではバスケットボール部が、奥側ではバトミントン部が活動していた。

 二人は烈火を前後に挟みながら、体育館の奥の方を目指した。同じラケットスポーツならどうだろうかと、二人は考えたらしい。



「まずはバドやろぉ思てさぁ」


「心が動かぬなら、体を動かすべし。古事記にもそう書かれている」


「絶対書かれとらへんやろ、んなこと」


「そんなん瑣末(さまつ)な事や。ほられっか、やるぞ」



 七海が先導して、バドミントン部の活動の中へと侵入していく。

 「ゴ〜ゴ〜」なんて煽りながら、後ろから真琴が着いてくる。

 烈火は大きく息を吐きながら、なされるままについて行った。



 三面分のネットが貼られていて、そのうちの二面が先輩の練習に、残った一面で新入生の体験をさせているようだった。

 コートの中には、新入生と先輩達が、大体五組くらいに別れてラリーをしている。

 コートの外には、順番を待っている新入生の列があった。ざっと三十名はいるだろう。

 先輩方に挨拶をして、その列に並んだはいいものの、番が回ってくるのは当分先だ。



「……多いな」


中学(うち)でもバドはなかったし、みんな興味あるんやろなぁ」


 周りの新入生達がそうしているように、烈火達もよしなし事を話していた。

 なるべく練習の邪魔にならないように、声のトーンを控えめにしながら。

 なんだかそれが秘密の共有をしているみたいで、なんだかくすぐったく感じる。



 話し込んでいるうちに、自分たちの番がやってきた。

 卓球のラケットよりもはるかに長いラケットを握ると、先輩がシャトルを下から上へ弾き出すようにサービスをした。

 烈火は頭のはるか上に飛び上がったシャトルを見上げながら、上へ、上へと懸命にラケットを伸ばした。



 ガットがシャトルを捉えると、また遥か上方へと飛んでいく。

 最初は勢いそのままに前へ飛んでいたシャトルも、すぐにその勢いを止め、ゆるやかに落ちていく。

 先輩のラケットがシャトルを捉えると、また同じように上方に向かって飛び上がって、失速して落ちてくる。

 それをまた、やけに長いラケットの、スイート・スポットの位置を探りながら打ち返す。



 卓球をやっていた時には、ラケットはまるで自分の手であるかのように近くに感じられたものだが、

 バトミントンでは、その手がとんでもなく長く、そして遠くなったようだ。

 長くなったその手を、さらに懸命に伸ばしてシャトルを掴み、風を切るようにラケットを振り抜いて弾き飛ばす。



 けれどラケットが軽ければシャトルも軽く、手に返ってくる打球感も風を切るように軽い。

 また緩やかに打ち上げられたシャトルを捉えようとした、その時。


 脳裏に、葵のドライブが蘇ってきた。

 強烈な上回転のかかったドライブは、プラスチックでできた、中身が空洞で、わずか三グラム弱しかないはずのピン球を、手首を限界まで捻らせないといけないほどに重たいボールへと変質させていた。

 ただでさえ速度の出ているボールが、台についた瞬間にさらに加速し、こちらに向かって伸びてくる。



 そのボールが、いかに恐ろしかったか。

 思い出すなり、その脅威が、ふわふわと降りてくるシャトルに乗り移ってきた気がして、振り払うように無我夢中に手を振るう。

 シャトルは風切り音を鳴らししながら、明後日の方へ飛んでいく。

 全力で振るったはずの手には、あのドライブを弾いた時ほどの感触がなければ、金属音もしない。

 飛び出したシャトルはネットを超えて、バックネットに捕らえられた。

 烈火は飛んでいったシャトルの、飛んでいこうとした先をしばらく眺めてから、ラケットを次に待つ新入生に譲った。

七海「ハンドボール投げで40m!?えまって、れっかそんな怪力さんなん!?私すーぱー非力さんなんやけど…あれ、じゃあなんでまこまこと二人がかりで押さえ込めたんやろ」

烈火「気づいちゃいかんことにきづひてひはいはしはは」

七海「いつになしか、まこまこが怖い……!」

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