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ドライバーズ・ハイ  作者: げっと
0章 赤坂烈火、新入生。
7/14

0-6 初授業の日

 次の日、烈火は駅で真琴と待ち合わせていた。

 改札の外で待っていた真琴は、七海を捕まえてお喋りをしていたようだ。

 烈火はその輪の中に外から入り込むと、三人肩を並べながら登校した。


 主だった話題と言えば、今日から始まる授業のこと。

 烈火も七海も勉強には自信が無いらしく、ただでさえ滑り込みで受かったようなものなのに、ついていけるか今から不安だという。

「まこまこはどう?」なんて七海が聞いてみた時には、真琴はううんと唸りながら烈火の頬を弄りだした。



 教室の窓は南側についていて、朝のHR(ホームルーム)から昼休みまでの間、心地よい日差しがずっと差し込んでくることになる。

 烈火は出席番号が若いために、窓側の席を割り当てられている。

 その上、七海も懸念していたように、授業の内容が更に難解になっていて、理解するのも精一杯だ。

 そのうちにうつらうつらと意識が遠のいていって、気がつけば授業終了のチャイムが鳴り響いた。

 誰かがぷにぷにと頬を突いていることに気付いて目を開けると、そこには真琴が居た。



「んあ……まこぴー……?」烈火は目を開きながら尋ねると、


「新しいパターンやなぁ」と間延びした返事が帰ってきた。



 烈火は目を擦りながら、真琴の様子を見る。

 どうやら桃色の弁当包みを持ってきているようだった。

 おおかた、一緒に弁当を食べようという話なのだろうけど、烈火の感覚ではまだ二時限目が終わったところ。

 昼休みは、まだまだ先だ。



「……早弁?」


「いつまで寝ぼけてるんよぉ」


「寝てへんもん」


「嘘ばっか言いよってぇ」



 そういって真琴は烈火の頬をぷにぷにとつつきだきした。

 烈火は逃げるでも抵抗するでもなく、寝ぼけたような口調のままに、ただやめろぉと、抗議の声をあげるばかりだ。

 しばらくつつき、つつかれとしていると、前の席に座っている七海がこちらにくるりと振り返った。

 二人を見比べるように視線を動かしたあと、烈火の頬をじぃっとを見ると、「私も、つんつんする」と、烈火の頬をつつきだした。



「そいや、ななちゃんもお弁当?」



 思い出したように、真琴は七海に尋ねた。七海は、うむ、と短く答えた。



「やったら一緒に食べよに」


「おす」



 七海が答えると、二人は各々の弁当箱を、烈火の机の上で広げ出した。

 七海の側には、紺色でシャチとサッカーボールがあしらわれた大きめの弁当箱が。

 真琴の側には、赤色で兎が餅つきをしてる様子の描かれた小さめの弁当箱が。

 それぞれに烈火の机に並ならべられた。

 烈火もならって弁当箱を取り出そうとするが、カバンの中のどこを探しても見つからない。



「れっちゃん、弁当はぁ?」


「見つかんない……あ。もしかしたら、給食あるから要らん言うたかも」



 二人は呆れたように顔を見合わせると、両側から烈火の頬をまたつついた。

 またしばらくつつき回し、つつき回されとしていたが、そんなことをしていても昼休みの残り時間がこくこくと短くなっていくだけで、しまいにはご飯が食べる時間すらなくなってしまう。

 間もなく七海が「食堂、行こう。パンとかあるって聞いた」と言うので、三人で食堂に向かうことにした。


 食堂には既に行列が出来ていて、その先にはパンを売っているらしいプラスチックのコンテナが幾つか。

 生徒たちの列はずんずん進み、お金とパンとを交換していく。

 特別滞ってるようには見えないが、行列が思いのほか長く、烈火の番が回ってくるにらまだまだ時間がかかりそうだ。



「先に食べとりい。私待っとったら、どんなけかかるか分からんに」


 と烈火が二人に言うものの、二人は烈火を置いていこうとはしない。

 一緒に列にならんで、おしゃべりをしながら待ってくれている。


 烈火自身は、列に並ぶこと自体はそこまで苦手ではない。

 けれどこういう待ち時間には、大抵、手持ち無沙汰になってしまって、特段の意味もなくSNSを眺めているとか、貴重なギガ数を使って動画を見たりとか。

 そういう、暇つぶしをしようとしがちだ。苦手ではないけれど、やっぱり暇なのだ。

 そんな暇を、友達二人と一緒に過ごせるのは、なんだか贅沢なんじゃないか。

 烈火は二人の会話を受け取りながら、にこりと微笑んだ。



 賑やかしいまま列は進み進み、とうとう烈火たちの番が回ってきた。

 パンの種類はそれほど多くなく、シュガートーストやクリームパン、あんぱんといった、よくみる菓子パンが数種類ある程度だ。

 その中にメロンパンがあるのを見つけて、それとあんぱんを手に取った。

 それを見た七海と真琴が続くようにメロンパンを手に取ると、販売員さんに百円玉を手渡していた。



「……弁当、持ってきてるんやんな?」と確認するものの、「おやつは別腹ぁ」とか、「はむはむしやん理由はない」とか宣うばかりで、二人共聞く耳を持とうとはしない。

 七海はわからないが、真琴が少食なのを知っていたので、そんな量を食べ切れるのか、少し心配になった。



 食堂のテーブルの一つ占領し、三人で向かい合うようにそこに座った。

 各々に広げられた弁当箱に目をやりながら、自分も簡素なビニール袋からあんぱんを取り出して、その一片にかじりついた。

 もさっとした食感の中に、つぶあんの甘味は見つからない。




 真琴の弁当箱の中は、容量の三分の一ほどに盛られた白米の真ん中に梅干しが乗っていて、他にもブロッコリー、レタス、プチトマト、たこさんウィンナーなどが入っている。

 一方の七海のほうはというと、ぎっしりとナムルが詰められており、烈火は思わず二度見した。

 七海がそのナムルを掬い上げると、その下に白米が隠れているのが分かった。



 そんなふうに二人の弁当を眺めていると、七海がその視線に気がついた。

 そして、「食うか?」なんて聞いてくる。

 真琴も「あ、それええなぁ。私も食べたい」なんて乗っかってきて、結局三人でおかずを分け合いあっこする事になった。

 七海からはナムル丼が、真琴からはたこさんウィンナーがやってくる。

 対する烈火の手にあるのは、メロンパンとあんぱん。

 メロンパンは二人も買っていたから、あんぱんしか渡せるものがない。

 しかもあんぱんはあんこが入っていてこそだろうし、そのあんこは大抵、真ん中の方に偏っている。

 どうしても、二人に分ける分が多くなってしまうのだ。烈火は自分の分を確保するのに難儀しながら、二人の分をちぎり分けた。



 それを二人に渡そうとしたとき、真琴が口をパクパクと開けて待っていることに気づいた。

 烈火が固まっているので、ぴぃぴぃと鳴いて促してくる。

 「雛鳥か」とつっこみを入れつつも、ちぎったあんぱんを真琴の口に押し込んでやった。



 左を見れば七海も同じように口を開けて待っていて、「ママー、ママー」なんて言ってくる。

 烈火はぎょっとと目を丸める。瞳はうるうると潤んで、何かを期待しているのは間違いない。

 きっとそのなにかは、あんぱんのほうだろう。

 けれど、本当にそれだけで良いのだろうか?烈火は目を丸めながら逡巡し、もう一つ、胸中に引っかかっていたほうを渡してやる事にした。



「う、産んだ覚えはありません」



 烈火の中の迷いが、言葉を一瞬詰まらせた。

 そのことが却って、語気を強めてしまったかもしれない。

 烈火は冷や汗をかきながら、七海の反応を待った。

 七海はしばらく真顔に戻して烈火の方を見つめ続けたが、やがて、にやりと口角を上げた。



「そやろな。れっか、卵生ちゃうやろしな」


「関係ないよんな!?」



 七海はけたけたと笑い出した。

 烈火も真琴も、順番につられて笑い出す。

 ちぎったあんぱんは袋の上に一旦置かれて、三人で一緒に笑いあった。



「れっか、貴方()()()()やな」


「お前もな」


「けどそこが好き」


 七海は両肘を机について、両手を頬に這わせ、笑みを一片にも崩さないまま言ってのけた。

 烈火は思わず視線を逸らす。振り向いた先に真琴の指が待ち受けていて、烈火の頬を押し込んだ。



「まこまこも変なやつやんな」


「それほどでも〜」


「褒められてへんからな、それ!」



 また炸裂した烈火のつっこみも、真琴に押しつぶされた頬のせいで、なんだか変な風な言い方になってしまった。

 真琴がまた笑い出すので、烈火はにわかに立ち上がって、真琴の頬をつまみ出そうとした。

 真琴はその手を退けるのでもなく、同じく烈火の頬をつまんで引っ張っている。

 七海がびっくりして二人を止めようとしたが、二人の顔を見て、やがてゆっくりと引っ込んで、目尻を下げながらまた頬杖をついた。



 二人はしばらく熱戦を繰り広げていたが、しばらくすると、真琴が片手を離して、ちょいちょいと指を差した。

 烈火はしばらく無視をして真琴の頬を弄り倒していたが、真琴が指差すのをやめないので、そちらの方に向き直った。

 見れば、何故か楽しそうにこちらを見ていた七海の姿があった。

 烈火は思い出したようにあんぱんを手に取ると、七海の口元に押し込んだ。七海がそれを食むとともに、学校中に予鈴が鳴り響いた。

七海「卓球モノの小説なのに、こんな感じの話がしばらく続きます」

真琴「仲良きことは美しきかな~」

烈火「卓球しやへんのかいっ!」

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