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ドライバーズ・ハイ  作者: げっとは飛躍のせつなさ
1章 部内リーグ戦

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22/24

1-8 二番台二回戦 七海 vs 優奈(三)

 第三セット、優奈のサービスから。


 二セットを先に取られ、主導権を取りづらいレシーブからの展開になると言うのに、七海の表情に焦りはない。

 むしろにんまりと笑んでいるような気さえして、優奈からは不気味に見えることだろう。


 劣勢にあるものの、第二セットの展開は悪くなかった。

 むしろ自分のドライブが効いていそうだと分かったことは、大きな収穫だ。

 それをいかに活かすか。

 七海はこめかみを指で叩きながら、イメージを膨らませる事に集中した。


 優奈は台に対して横向きに立ち、台に這うように低くサービスを構える。

 対する七海はラケットの赤い方の面を、台の下に隠しながらレシーブを構えた。

 

 両腕をだらりと下ろしたその構えは、ボクシングのノーガード戦法に似ていた。

 

 かかってこい。

 七海の自信が、伝わってくるようだった。


 優奈がピン球を投げあげる。

 目線の高さほどの低いトスだ。

 すぐさま落ちてくるボールの下側を、手首を一旦内側に曲げ、外側に捻り返しながら切りつけた。


 フォア側、ネット際に落とされた短いYGヤングジェネレーション・サービス

 七海は台の下に隠していたラケットを、台の上に繰り出した。


 表に向いていたのは赤い面、回転を変化させる粒高ラバー。

 先のセットで手応えを掴んでいた裏ソフトの側でのレシーブを、ここで敢えて手放した。


 ピン球の下側をツッツキして、台の中央、ミドルを狙う。

 低く浅く入ったボールは、緩やかに台の上を舞い進む。

 エンドラインを飛び越すか、はたまた台の上で二バウンドするかの、絶妙なコントロールだ。


 優奈はミドル側に体を寄せて、腕を捻じりながら、押し出すようにバックハンドを振るう。

 弧線を描きながら飛んでくるボールに、七海は裏面打法で応えた。


 ミート打ちのような、はじき出すような対角(クロス)へのカウンター。

 優奈はバックハンドで反応したものの、捉えたボールは無回転。

 上回転のボールが来ると読んでいた優奈は、あっけなくボールを落とした。


 優奈は一瞬天井を見上げた。

 

 優奈のサービス、二本目は、バック側への短い無回転サービス。

 七海の短いストップに、優奈がフリックで攻め立てる。

 しかし打球はまたネットにかかる。

 

 あっという間に2-0(ツー・ラブ)

 優奈はラケットのピンク色の面―こちらに貼られているのは、弾みの良い、テンション系の裏ソフトラバーだ―を眺めてから、息を吐きかけ、手のひらで拭い去った。


 優奈が焦りはじめていることは、火を見るより明らかだった。

 二セットの優位を築いていながら、優奈は七海の術中に嵌り始めたていたのだ。


 先のセットでは七海式ペンドラが通用したが、その精度が高かった訳じゃない。

 ミスも多かった。


 だから七海式ペンドラで戦い続けることには、まだまだ難しいと感じていた。

 ぱしぱし打つのに憧れて中ペンに切り替えたが、ぱしぱし打って勝てるようになるには、まだまだ道のりは険しそうだ。


 しかし、少なくとも優奈を相手にする時には通用しているようだ。

 するとどうしようか。


 七海が出した答えは、「その時の気分で変える」だった。


 一見するといい加減な作戦にも見えるが、七海はこれが最善だと確信していた。

 安定感を増すために粒高をメインに戦いたいが、粒高ばかりでは試合のテンポを握られてしまいがちだった。

 なら、いっそ適当に切り替えてしまってやれば、藍沢先輩も困惑してくれるはず。

 七海の考えは、これが根底にあった。


 七海が一点を取る度に、優奈が苦虫を噛み潰したような顔をする。

 七海が一点差を広げる度に、優奈が天井を見つめたり、息を大きく吐く時間が増えた。


 8-4(エイト・フォー)

 それまであった優奈の優位が嘘のように、試合の流れは七海が掌握していた。

 

 優奈はすかさず台の下に掛けていたタオルを取り、顔を覆い隠した。

 淡いピンクの生地の所々に、うさぎの柄が散りばめられている。

 七海もシャチのワンポイントのついたタオルで、身体中にびっしりとかいた汗を拭きながら、優奈の様子を眺めていた。


「お、アナウサギやん。ノウサギちゃうんやな」


 七海が呟く。優奈がタオルを少し下にずらして、七海の方を覗いた。


「アナウサギ?これのこと?」

 優奈がタオルをちょいちょいと揺らすと、

「ですです。なんか、ちゃんとアナウサギぃって感じするのん、珍しいなって思いまして。こういう()って、ノウサギとかロップイヤーが多い思うんです」

 七海が答えた。


 優奈は一瞬呆気に取られたような顔をして、タオルの柄を眺めた。

 ノウサギとアナウサギの違いはいまいち分からないが、うさぎにしては耳が短いような気がする。

 ややあって、「そうなん?気にしたことなかったわ」と呟いてから、タオルを台の下に戻した。


 二人が台に戻ると共に、優奈がサービスを構える。

 台の正面に正対するように立ち、ラケットは縦に構えている。


 王子サーブがくる。

 七海はアナウサギとシャチに緩んだ心に、ぴりりと緊張の糸を張った。


 優奈がボールを高く投げあげる。

 三メートルか四メートルかくらいしかない、天井すれすれにまで届くハイトス。


 優奈はボールが落ちてくるまでしっかり待ってから、ボールが落ちてくるのに合わせてしゃがみ込んだ。

 バックハンド側の、ピンクの面がボールをはじき出す。


 打ち出されたボールはフォア側に目掛けて真っ直ぐ飛んできて、ただひたすらに早く、フォア側を駆け抜けようとしていた。


 強烈な横回転をかける事が出来る王子サーブで、横回転を敢えてかけない、純粋な上回転のロングサービス。

 

 バックハンドを構えていた七海は、意表を突かれながらもフォア側に手を伸ばした。

 何とかラケットが届いたが、素早いボールを捕まえるのに必死で、返したボールは緩く宙に浮き上がる。

 

 七海は半ば本能的に、台から少し離れ、フォアハンド側に意識を傾けた。

 対する優奈はバックハンド側に落ちたボールを追う様に、台側面へと回り込んだ。


 快音を鳴らした、渾身のスマッシュが炸裂する。

 

 体躯の小さな優奈が、ここぞという場面で放つ必殺の一撃。

 それが来るとしたら、体重を乗せやすいフォア側を狙ってくるはず。

 七海の読みは、当たっていた。


 優奈のボールは全体的に初速とテンポこそ早けれど回転が少ない。

 そしてピン球は僅かに二.五グラムしかなく、回転があっても、空気抵抗を受けて失速しやすい。


 読みが当たり、台から離れていれば、たとえ強打でもその脅威度は大幅に下がる。


 見切った。


 ばこんと鈍い音を響かせながら、七海はカウンターを決めた。

 優奈のブロックに合わせて、もうスマッシュをもう一本。

 台の近く、前陣にまで戻る勢いを乗せて、思い切りよく決めてやった。

 優奈の伸ばした手が届くこともなく、ノータッチで抜けていった。


 結局、第三セットは11-5(イレブン・ファイブ)

 七海は、このリーグ戦という大事な場面で、記念すべき二勝目をあげた。


 第四セット、七海のサービスから。

 セットともに気持ちを切り替えた優奈は、二セット目までの落ち着きを取り戻していた。


 第二セット同様、ツッツキ合いの、お互いに一歩も譲らないラリーが続く。

 優奈は隙を目ざとく見つけては、フリックにチキータにと強打をお見舞いするが、七海にはほとんど通用していない。


 抜群に優れた勘と反射神経を駆使して、その全てを止めてみせた。

 

 裏表を器用に切り替えながら、七海はブロックの精度を落とさない。

 どころか、弾みにくい粒高ラバーで強打を狙ったり、弾みやすい裏ソフトラバーでぴたっと止めるブロックを狙ったりと、あべこべなプレーすら仕掛けてくる。


 やがて優奈のミスが目立ち始め、試合の流れが自分に向いてきているのを、七海は肌で感じ取った。


 隣の台に置いた得点板は4-6(フォー・シックス)を示している。

 優奈のサービスの番だ。

 優奈は睨みつけるように手のひらの上のピン球を凝視しながら、台に対して真正面を向くように構えていた。

 

葵「優奈、やりづらそうにしてるね」

真琴「ななちゃんもななちゃんで結構やりづらそうやけどなぁ」

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