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ドライバーズ・ハイ  作者: げっと
0章 赤坂烈火、新入生。
2/12

0-1 通学路

 自動改札に定期券を翳し、ゲートが開くと同時にダッシュする。

 まるで競走馬のように。

 片田舎にあるこの小さな駅舎は、改札をくぐればすぐそこにプラットフォームが見えて、その間に踏切こそあれど、階段のひとつもない。

 プラットフォームには既に電車が到着していて、ドアが開いたまま、ぼおっとその場で待機していた。

 烈火はしめたと思いながら、開いたドアまで全力で走る。

 そしてドアが閉まるより早く電車に乗り込むと、小さな鐘がニ回鳴って、ドアが閉まった。



 息こそぜいぜいと切らせているが、へたりこむほども疲れてはいない。

 近くのつり革を捕まえて、息を整えるうちに、電車はゆっくりと加速していく。

 駅につくたび、電車に乗り込む人が増え、田園風景と交換するようにビルがちらちらと見えるようになる。

 そうして電車に揺られること数十分。ようやく学校のある駅にたどりついた。



 ドアが開く音とともに、電車から飛び出す。

 新品のローファーがこつっとコンクリートを叩く感触が、足の裏から伝わってくる。

 ようやく感じられた慣れない感触に、いよいよ高校生という新生活が始まるのだと、身の締まるような感触がした。

 鼻から大きく息を吸って、口から吐き出してみる。

 自宅よりも綺麗なはずのない空気から、なぜだか新鮮さを感じられた。



「あぁ、れっちゃんや。おぉい」



 後ろの方から、よく聞いた声が聞こえてきた。

 そちらの方を振り向くと、その声の主のやわらかな体が、不思議なほどにゆっくりと迫ってくるのが分かった。

 間もなくその人は烈火に飛びついてきて、頬ずりをするように胸元に顔を埋めてきた。



「みこちゃん、おっは」


「おはぁ。まこちゃんですぅ」


「んじゃあむこちゃん」


「話を聞けぃ~」



 その人物、めこちゃん……ではなくまこちゃんこと翠川真琴は、顔を烈火の眼前にまで持ってきて、その瞳を覗き込むように睨みつけながら、頬をふにふにと左右に引っ張り始めた。

 烈火は、はへへ、はへへと抗議をするものの、むにむにと口角を伸ばされた口では、まともな言葉など出てこない。

 それでも烈火は、とりあえず抗議することはやめないで、されるままにされていた。

 しばらくの後、真琴の指から解放される。そしてどちらからともなく、学校に向けて歩き出した。



「今日から同じ高校やねぇ」


「そやね」


「今度こそ同じクラスになれるといいねぇ」


「まこちゃん、特進科やろ?私普通科Ⅰやから有り得やんよ」



 彼女たちの通う事になる朝陽(あさひ)市立朝陽東高校は、所謂普通科の学校だが、学力に応じて、普通科Ⅰ、普通科Ⅱ、特進科という三つの学科に別れている。

 クラス分けもそれに応じて分けられいるだろう、と考えると、学科の違うふたりが同じクラスになる可能性は、恐らく、限りなく0に等しいほど低い。

 真琴は「そんなぁ」なんて言いながら、肩をがっくしと落とした。



「そんでも学校は一緒なんやから、登下校は一緒にしよに」


「もちろん~」


 二人は肩を並べながら、改札を抜け、アスファルトをローファーで叩き、由無しことを話しながら、歩いていく。

 春の陽気は二人を柔らかに包むけれど、時折街路樹に遮られて、少々の肌寒さを感じる。

 けれど木の幹と木漏れ日の間から、仄かに春の香りがする気がする。



「そういやさ、れっちゃんは部活どうするん?」



 部活。その言葉を聞いて、不意に烈火の足が止まった。

 失念はしていたけれど、学校紹介のパンフレットなんかにはちゃんとクラブ活動の紹介もあったわけで、知らなかったわけではない。


 ただ、実感が伴っていなかった。

 あの写真の中に映り込んだ生徒たちと同様に、自分もなにかのクラブに所属して、活動するということに。

 同時に、卓球部があったことも思い出す。

 ネットで調べた限りでは、部員はそこそこいるし、大会の成績も悪くない。

 以前の烈火だったら、きっと喜んで参加したことだろう。

 けれど今は、燃え尽きて白い灰のようになってしまった心に、また火が灯るなんて、とても想像できない。



「……なんも考えとらんなぁ」



 そう返答するのが、精々だった。




 しばらく歩くと街を支配していたアスファルトやビル達は鳴りを潜め、つくしや雑草の萌え茂るのが見える。

 やがてそこに桜の花びらが混じってきて、学校に近づくにつれて、その量は増えいく。

 道が桜色に染まりきりそうになる頃には、朝陽(あさひ)東高校の校門の目の前に立っていた。



 校門を潜り、下駄箱の前に出来た、同じ制服を着た人だかりに並ぶ。

 その先には掲示板のようなものが仮設されていて、そこには名簿であろう紙が貼られている。

 みんな一様に掲示板をしばらく眺めては、左右に散り散りになって人だかりから外れていく。

 烈火達が掲示板の目の前に来ると、同じように自分たちの名前を探した。



「あった。E組やわ。まこちゃんは?」


「B組ぃ。離れ離れになっちゃったねぇ」


「そうなるやろなって言うたやん」


「でもさぁ……」


 なお()()()()()真琴をB組の下駄箱に押しやってから、烈火は自分の下駄箱に向かった。

 階段を4階まで上がって、B組は左に、E組は右にある。

 にも関わらず真琴は相変わらず烈火についてこようとするので、烈火は真琴をB組の教室に押しやった。



 教室に入った頃に丁度予鈴が鳴って、慌てて席につく。

 スクールバッグを置こうとして、スクールバッグを忘れてきたことに気づく。

 我ながらよく電車に乗れたな、となぜか感心をしながら着席し、先生が入ってくるのを待った。

 やがて本鈴が鳴り、同時に先生と思しき男性が入ってきた。

 多気(たき)と名乗った彼は手短に自己紹介を進めたあと、生徒を廊下に整列させ、体育館へと率いていった。



 体育館には既に来賓や保護者が集まっていて、新入生を待つパイプ椅子の列が、前の方にずらりと並んでいるのが見えた。

 奥の方から順に座っていってているらしく、真琴の姿がその中に見えたので、奥のほうにいるのがなんだなと、なんとなく察した。

 彼らに向けて中指を立てようものなら、たちまち真琴を巻き込むことになると気付いていたが、それでもなぜか、なぜだかムカついた。

真琴「早速新キャラ、まこちゃん登場です~」

烈火「ちょっととぼけたところあるけど、いい子やからよろしくな」

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